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先進事例2025.04.21

EBPMで成果を出した自治体の最新事例~EBPMの進め方、法的根拠、課題等もやさしく解説

EBPMで成果を出した自治体の最新事例~EBPMの進め方、法的根拠、課題等もやさしく解説

EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)とは、経験や直感ではなく、データや合理的根拠をもとに政策を立案することで、政策をより効果的、効率的なものにするために、EBPMの推進に積極的に取り組む自治体が増えています。ここではEBPMの概要や自治体事例を紹介します。

EBPMとは?

EBPMとは、「政策手段と目的の論理的なつながりを明確にし、このつながりの裏付けとなるようなデータ等の根拠(エビデンス)を可能な限り求め、『政策の基本的な枠組み』を明確にする」取り組みのことです。

そのため、EBPMの推進には政策手段と目的の論理的なつながりを捉えることに加え、その裏付けとなるエビデンスにも焦点を当て、EBPMが実際の政策の質の向上に結び付いていかなければならないとされています。

具体的には、
①行政が様々なデータを整備又は取得し、それぞれのデータの特徴を踏まえた利活用を図る 
②行政が利活用する代表的なデータである公的統計のみならず、業務上収集した行政記録情報や民間データについても政策の立案・検証等のためのエビデンスとして可能な限り利活用していく
③一方、安心してデータが提供されるための環境整備や民間データが持つバイアス等の課題への対応
これらのことが必要だとされています。

また、EBPMを推進する際の課題としては、

  • 様々なデータを適切かつ実効的に利活用するために必要な仕組みの確保
  • データを理解して利活用できる人材の確保・育成
  • 民間データを利活用する場合に行政に対して安心してデータが提供されるための必要な取組

等が挙げられています。

EBPMの法的根拠とは?

政策評価法では、

  • 政策の必要性・効率性・有効性等の観点から自ら評価(第三条第一項)
  • 政策効果は、合理的な手法で、できる限り定量的に把握(第三条第二項)

することが求められています。

一方、EBPMは政策目的を明確化させ、その目的のため本当に効果が上がる行政手段は何かなど、当該政策の拠って立つ論理を明確にし、これに即してデータ等のエビデンスを可能な限り求め、「政策の基本的な枠組み」を明確にする取組とされています。

この2つをまとめると、
①ある政策について、「必要性・効率性・有効性」を求めると、その政策の「目的を明確化」し、「当該政策の拠って立つ論理を明確に」することになる
②政策効果を「合理的な手法で、できる限り定量的」に把握するには、当該政策に関する「データ等のエビデンスを可能な限り求める」ことになる
つまり、EBPMは「政策評価に必要な思考ツール」なので、その推進に取り組む必要があります。

次からは総務省が実施している「Data StaRt Award~第9回地方公共団体における統計データ利活用表彰」(平成6年10月発表) 受賞団体及び受賞取組を紹介します。

高知県~IoP(Internet of Plants)が導く「Society5.0型農業」への進化

概要

高知県では、産学官連携により、毎日の営農に必要な様々なデータや情報を一元的に集約・共有・活用できるデータ連携基盤『IoPクラウド(SAWACHI)』を構築し、現在、既に1,420戸を超える農家が、SAWACHIを活用し『もっと楽しく、もっと楽に、もっと儲かる農業』を実践しています。

課題・きっかけ

農業は長年の「経験」と「勘」によって培われた技術が多く、若者への継承等は難しいものがありましたが、高知県ではデータ駆動型で栽培管理を行うことにより、これまでの限界収量を大きく突破し、農家の所得増加や新規就農者の成長につながりました。

実施内容

農家の貴重かつ重要なノウハウにもつながるデータの共有に当たり、県知事と各農家(1,420戸)との間で「データ利用契約」を締結し、様々なデータ収集・蓄積・共有・活用ができる体制を構築しました。

また、統計データにより得られる定量的かつ普遍的なトレンド情報と、リアルタイムデータを同時に活用・比較分析して活用する環境を整備し、収量増や品質向上につなげています。

さらに、産学官が連携したデータ駆動型農業推進協議会を組織し、それぞれの組織・機関が連携して、研究開発から普及推進、意識啓発に取り組んでいます。例えば、県では、JAグループと連携し、全ての農家に「データ駆動型農業」を普及していくための指導者の育成を図り、栽培経営指導を徹底しています。

得られた効果と展望

令和5年度に、 SAWACHI利用農家(569戸)と未利用農家(998戸)の年間出荷量を比較したところ、未利用農家と比べて、利用農家の出荷量が約3割高く、優位性が明らかになりました。

今後、利用農家数をさらに拡大し、データ駆動型農業を普及していくことで、1戸1戸の農家の所得増と県全体の農業産出額増につなげていくことにしています。

この取り組みにより高知県はData StaRt Award(第9回)で総務大臣賞を受賞しました。

仙台市(宮城県)~消防×医療機関の緊密かつ強固な連携体制の構築

概要

「EBPMの推進による限られた医療資源の有効活用を目指して」との副題がついている宮城県仙台市のこの取り組みは、データの利活用により救急医療の課題を顕在化・見える化、エビデンスに基づいた実効性のある意思決定・施策を推進し、限りある医療資源の有効活用を目指すもので、消防と医療機関が相互に協力し合う関係性を醸成するものです。

課題・きっかけ

コロナ禍で救急医療が逼迫する中、医療崩壊を防ぐため消防と医療機関の連携を強化し、実効性のある意思決定や施策を推進する必要がありました。しかし、医療機関との意見交換の際に救急搬送の積極的な受入れを申入れしていましたが、データ等を示していなかったため、受入体制の改善といった明確な結果につながらないという課題がありました。

実施内容

■救急の逼迫を示唆する一つの指標として応需率をモニタリング
応需率とは「収容可」÷「全照会件数」で算出する指標で、救急搬送の受入れの照会に対し、実際に受け入れた割合をモニタリングするものです。救急統計データから応需率を算出し週次モニタリングすることで、救急医療の逼迫の兆しを早期に把握したほか、応需率が低下するパターンが複数あることが顕在化するなど、新たな課題の抽出にも寄与しました。

■エビデンスに基づいた意見交換の実施
救急医療の課題把握や消防と医療機関の現状把握、潜在的な課題の抽出が可能となり意見交換での実効性のある意思決定や合意形成を実現しました。

■医療機関選定に関する応需率などのデータの共有
医療機関ごとに救急受入の実績や受入れに至らなかった理由の集計データを定期的に共有、データ分析により消防と医療機関の施策の検討・実施に活用しました。現在は医療政策所管部局とデータの共有や顕在化した課題に関する協議・意見交換を図っており、持続可能な救急医療体制の実現に資する施策検討にも活用しています。

得られた効果と展望

エビデンスに基づいた意見交換後、救急搬送の受入体制拡充に向けた実効性のある対策につながり応需率が向上したほか、医療機関側から医療機関選定に係るデータの提供依頼があるなど一方向から双方向のコミュニケーションへの変化が見られました。

また、データ分析から新たな課題が見える化され、コロナ禍後においても、持続可能な救急医療の実現に向けた施策の検討・実施に寄与しています。

この取り組みにより仙台市はData StaRt Award(第9回)で統計局長賞を受賞しました。

地域参加型交通安全対策事業、シティプロモーション、子ども福祉

次に、Data StaRt Award(第9回)で特別賞を受賞した3自治体の取り組みの実施内容をお伝えします。

宇都宮市(栃木県)~ヒヤリハットデータを活用した地域参加型交通安全対策事業

宇都宮市では、通信機能付きICタグを活用し、地域住民参加によるカープロープデータ(急ブレーキ、急加速、急ハンドル、速度超過)の収集を実施(得られたデータを以下「ヒヤリハットデータ」という)。ヒヤリハットデータと交通事故発生データを基に、GISを活用し、ヒートマップ(交通事故の発生状況をメッシュの色で分類)やスタックチャートによるデータの可視化を実施するとともに、相関関係の統計分析から散布図を作成し、潜在的危険箇所を抽出し、可視化したマップを活用した報告会を実施しました。

データ分析によって明らかになった危険箇所について地域住民の理解を進め、地域が主体となった「まち歩き」や「対策検討会」を踏まえた注意喚起等のソフト対策も実施しています。

真岡市(栃木県)~デジタルマーケティングの習得とシティプロモーションの実践

「日本一のいちごのまち 真岡市」を標ぼうする真岡市は、いちごプロモーションをデジタルツールで展開するに当たり、ターゲットとなる「いちご好き」層や競合となるターゲット層等を整理し、データに基づいた3C分析(顧客Customer、競合Competitor、自社Companyの3つの観点から事業環境を分析するフレームワーク)から、いちごプロモーションの戦略を立案。真岡市シティプロモーション指針としてまとめました。

具体的には、市が保有するすべてのデジタルツールの表示回数、クリック数等を数値化しダッシュボードで蓄積。仮説を立て投稿内容の見直し、実行、分析のPDCAを繰り返し実施しました。これにより、特設サイト訪問数は3倍、観光いちご園の利用者数は1.5倍、ふるさと納税の返礼品であるいちごの申込件数は20倍となりました。

関市(岐阜県)~予測モデルを根拠とした子ども福祉医療費助成年齢要件の検討

関市では、子育て世帯へのより充実した支援のために、市内の子ども福祉医療費助成における年齢要件の引上げを検討することとなり、市独自で算出した人口推計に、助成額予測係数を掛け合わせ年齢要件を引き上げた場合の予測モデルを作成し、政策検討の根拠データとしました。

具体的には、2017~2022年の4月1日及び10月1日時点住民基本台帳及び2017~2022年の人口動態推移を活用し、人口推計を算出。市保有医療レセプトデータの16~18歳の国民健康保険加入者一人当たりの医療費から16~18歳一人当たりの助成額予測係数を定め、人口推計と掛け合わせることにより、今後発生するコストを考慮した予測モデルを作成し、コスト面などを始めとした政策検討の結果、子ども福祉医療費年齢要件の引上げが実施。結果として、2023年度16~18歳医療費助成実績(概算値)と算出した推計値は誤差プラスマイナス5%以内の差でとどまりました。

〈参照〉

総務省「EBPM推進委員会データ利活用ワーキンググループ『取りまとめ』」 
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11987457/www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/ebpm/rikatsuyo_wg/pdf/torimatome.pdf

総務省「令和2年度 政策評価に関する統一研修資料~政策評価制度と政府におけるEBPMの取組」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000723040.pdf

総務省統計局「Data StaRt Award ~第9回地方公共団体における統計データ利活用表彰~受賞団体及び受賞取組」
https://www.stat.go.jp/info/guide/rikatsuyou/index.html


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