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先進事例2025.04.21

地域の公共交通を守る自治体の取り組み

地域の公共交通を守る自治体の取り組み

日本の総人口は、平成20年をピークに減少傾向に転じました。少子高齢化の進行により、働く世代である生産年齢人口も減少しています。こうした人口の減少や都市部への住民の流出などを背景に、地域の足である路線バスは、利用者の長期的な需要減と慢性的な運転手不足に悩んでいます。本記事では、ITの活用や自動運転バスの導入などによって、地域公共交通の維持に取り組む自治体の先進事例を紹介します。

9割近くの路線バスが赤字

地域住民の移動手段に欠かせない路線バス。しかし、国土交通省の調査では、路線バス事業者の87.1%が赤字となっています。採算性の悪化を受けて、各地で路線バスの廃止や減便が相次いでいます。路線バスの廃止距離は、10年で1万3,000㎞を超えます。多くの自治体は地域公共交通の維持に危機感を抱いています

「限られた財源で地域の公共交通を維持する」という難題を乗り越えるには、移動の需要と供給をマッチングさせて公共交通の運営を効率化できるような、ITの力が有効とされます。そのため、自治体のなかには、利用者の要望に応じて、機動的にルートを迂回したり、利用希望のある地点まで送迎するバスなどの「デマンド交通」の運用アプリといったシステムに注目するケースも増えています。

【湖西市】地元企業の従業員用バスを住民の足にするためITを活用

湖西市(静岡県)は、市内に立地する企業が運行する従業員送迎用シャトルバスを地域移動資源として活用し、市民の新たな移動手段の仕組みを検討するための実証実験を令和2年度に開始した。

一般利用者は登録や予約が必要なため、民間事業者の開発した地域公共交通の「予約管理システム」を導入。想定する利用者は高齢者が多いため、シンプルな使い勝手などがシステム導入の決め手となった。

「予約管理システム」の導入効果について、湖西市では、シャトルバスを運行する企業の管理担当者を含めシステムの使いやすさが好評を得ているとしています。また、システムを柔軟にカスタマイズできる点も同市は高く評価。LINEとのAPI連携や、電子決済などの機能を追加で実装し、ニーズに応じて利用者の利便性を向上できている感触をつかんでいるといいます。

人口減少への取り組みとして、同市は令和3年、「第2期湖西市まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定。このなかで、戦略方針として「超高齢社会に対応するため、交通弱者に配慮した地域の公共交通や移動サービスの充実を図ります」と宣言しました。令和7年3月末現在の湖西市の人口は5万6,971人。同市では、このままのペースで減少傾向が続けば、令和22年には4万9,305人まで減少すると算定しています。同市では、結婚・出産・子育てに関する施策とともに、公共交通の拡充を図り、安心して子どもを育てられるまちを目指すことで、高齢化率の低下と、人口減少の歯止めをかけたい考えです。

【由仁町】予約管理システムを採用してデマンドバスを運行

由仁町(北海道)の人口は4,490人(令和7年4月1日現在)。若者が進学する際に家族で町外に転出する「人口の社会減」が課題だった。そうしたなか、同町は、行政・経済・文化の中心地である札幌市方面へ運行する路線バスが廃止となったのを機に、近隣の北広島市との間をつなぐデマンドバスの運行を始めた。予約システムには、ハード面の整備が不要な点などを評価し、湖西市と同じ民間事業者が手がける「予約管理システム」を採用した。

由仁町における少子高齢化は深刻です。令和6年度の人口はピーク時から67年間で6割以上減少しました。昭和30年度に総人口の約4%だった高齢者人口は、年々増加。令和2年度には65歳以上人口は総人口の約43%にのぼりました。同町では令和6年3月、町民の生活を支えるインフラとして、持続可能で利便性の高い交通システムを構築することを目的に「由仁町地域公共交通計画」を策定。同計画では「公共交通を必要とする町民が安心して生活を続けられるために将来にわたって持続可能な地域公共交通網の確保」を基本方針に掲げています。「町外の生活圏までの移動選択肢の確保」という観点から、デマンドバスの運行を位置づけています。

由仁町のケースでは、「予約管理システム」の導入にあたり、LINEとの連携といったオプション機能の実装に加え、予約を直感的に行えるようにするためのUIの調整や、機能のカスタマイズを経て、実用性・利便性の高いシステムを構築できたということです。これにより、札幌圏へ通学する学生の足としての利用が定着するなど、活発な利用につながるといった導入効果がありました。

地域の実情に本当に合った解決策を探ることが必要

移動の需給をマッチングさせて公共交通の運営を効率化するには、湖西市や由仁町のように、地域公共交通のDXを支援するシステムなどITの活用が有効です。ただ、こうしたシステムの導入は、必ずしも個々の地域課題・ニーズに即した解決策とはなりえない場合もあります。導入する地域によって地理的条件や利用者の数・属性、運行事業者に依頼できる業務の範囲は異なります。特に、1日の移動需要が極めて少ない過疎地域では、システムとニーズのわずかなズレにより、「ほとんど利用されない」という事態にも陥りかねません。そのため、地域の実情に根本から合ったソリューションを見つけ出すことが重要といえそうです。

また、公共交通の課題解決にはデジタル化が有効な手段の一つではありますが、すべての問題をデジタル化によって解決できるわけではありません。自治体の予算や、利用者のニーズ、運行事業者の状況などを総合的に考慮し、課題を明確化。そのうえで、必要な部分はデジタル化し、紙や人の手で行う方がよい部分はアナログの運用も残すといった、地域に本当に合った解決策を探ることが必要です。

さて、いくらITを活用しても、現状では運転手がいなければ、公共交通機関を維持することはできません。バス運転手の確保は全国共通の悩みですが、島根県美郷町が目指すのは、運転手がいなくても成り立つ自動運転バスの導入。地域交通をめぐる課題を解決する「ゲームチェンジャー」になりうる技術として、知見のある民間事業者の協力を得て、実証実験を行いました。

【美郷町】自動運転EVバスの導入に向けた動き

美郷町(島根県)では住民の高齢化率が45%を超え、運転免許返納者も多い。平成30年3月には町内を通り、地域の基幹交通であったJR三江線が廃線になったことで、「町民の足」をいかに確保するかという問題が深刻化していた。現在、代替バスは運行しているが、島根県内では運転を担う人材不足から、各地でバス路線の廃線や減便が相次いでいるのが現状だ。

同町では、大型車運転の有資格者に支援金を拠出するなどの独自施策で運転手確保に取り組む一方、ICT活用に関する連携協定を結んでいる民間事業者に相談。そこで「自動運転EVバス」を導入する提案を受け、令和6年度に実証実験を行った。

美郷町の人口は3,846人(令和7年3月1日現在)。交通難民・買い物難民対策として、タクシー利用助成事業を拡充し、交通手段を持たない全ての町民が利用できるようにするなどの施策を行っています。自動運転EVバスの実証実験は将来の移動手段の仕組み構築を目指して実施したものです。実証実験は、令和6年11月、町内の主要幹線道路である石見銀山街道沿いの町道の約1.2㎞で実施しました。時速12㎞の上限速度で、交通事故などのトラブルも生じずに安全に運行。6日間の実証期間で約350人の町民が試乗し、その9割以上から自動運転EVバスに対するポジティブな評価を得たとのことです。

山間部に狭隘な道が多く、電波が届きにくい不感地帯も多い同町。冬には積雪もあるなど自動運転車にとって厳しい制約条件が多い「課題先進地域」です。同町では、今回の成果をまとめ、本格的な社会実装に向けて、次なるステップの実証実験に進みたい考えです。令和9年にシステムがすべての運転を担う「レベル4」のサービスの社会実装を目指しています。

人口減少は、自治体財政に対して大きな影響を与えます。第一次産業以外に目立った産業に乏しい自治体の財政は、人口を基礎とする地方交付税に頼らざるをえない面があります。そのため、人口減少で地方税の収入が減少すれば、さらに自治体財政をひっ迫させることが予想されます。さらに、人口減少が進めば、地域の経済を衰退化させ、住民の日常生活の基盤を揺るがすことが懸念されます。

マイカーの普及やライフスタイルの変化といった社会情勢の変遷とともに、地域の実情を踏まえた交通サービスの再構築に向けて、自治体の模索は続きます。

【参考】 
国土交通省「令和6年版 交通政策白書」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/content/001748051.pdf

静岡県湖西市「第2期湖西市まち・ひと・しごと創生総合戦略」
https://www.city.kosai.shizuoka.jp/material/files/group/7/dai2kisenryaku.pdf

北海道由仁町「由仁町地域公共交通計画」
https://www.town.yuni.lg.jp/chosei/keikaku-shisaku/koukyoukoutuu-keikaku


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