震災で免震構造の効果を実感
―現在進めている新市庁舎建設の背景を教えてください。
佐川:施設の老朽化から、庁舎の建て替えは以前からの課題でした。そこに6年前、東日本大震災が発生。これが新庁舎建設に向けた大きな契機になりました。日立市は震度6強の揺れに見舞われ、庁舎も大きな被害を受けました。建屋こそ無事でしたが、室内は什器が倒壊し、書類が散乱。機能を維持することはできませんでした。
滝:市民課や納税課といった窓口部門は、震災から6年を経た現在もプレハブの臨時庁舎で対応しています。その後も大きな余震が続くなかで、災害に強い新庁舎建設の機運が高まっていきました。
―新庁舎にはどういった理念が込められているのでしょう。
佐川:新庁舎整備の基本計画には「高水準の耐震性を確保する」という考え方が示されました。これを受け、各種の耐震・制震構造を比較検討した結果、免震構造の採用方針が早い段階で決まりました。
―それはなぜでしょう。
佐川:震災での苦い経験からです。本来、被災した市民を支援する「防災拠点」として機能しなければならなかった庁舎が震災時に機能せず、近隣の消防本部に防災拠点を移設せざるを得なかったのです。消防本部は免震構造を採用していたため、机上の本ひとつ倒れていない。あまりの状況の違いに驚きました。はからずも免震構造の効果を実感したのです。
滝:多少のコストアップに値する十分なメリットがあるとの結論にいたりました。
新庁舎は震災復興の総仕上げ
―免震構造の採用に対し、周囲の反応はいかがでしたか。
佐川:市民懇話会や議会を通じて、市民や議員への説明をていねいに繰り返し、理解の醸成に努めました。市民や議員のなかにはものづくりに携わる人も多く、総じて技術に対する造詣が深いです。そのため、免震構造の採用に対する反対意見はありませんでした。
市民への説明と同時に、市としても財政負担を軽減する努力も重ねてきました。早くから基金を積み立てたほか、震災復興特別交付税や被災施設復旧関連事業債・合併特例債を活用することで、6年間で総額130億円の事業費に市税を一切投入しない財政スキームを構築。こうした市の取り組みも、免震構造採用への市民の理解醸成の一助になったと認識しています。
―これから防災行政をどのように強化していきたいですか。
佐川:新庁舎には災害対策本部室が常設され、気象や津波監視といった情報を一括管理できます。災害時の安全な防災センターとして、市の防災機能強化に大きな役割を期待しています。日立市にとっては、新庁舎は震災復興の総仕上げという位置づけです。市が進める「ひたち創生戦略プラン」のシンボルとして、市民に受け入れられるよう望んでいます。