※下記は自治体通信 Vol.20(2019年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
各自治体で進む防災対策の主眼は、いまや災害時の利用はもちろん、平時での利活用を視野に入れた投資の効率性に置かれつつある。その意味では、豊後大野市(大分県)での事例は、その先進事例のひとつとなりそうだ。防災対策として整備したIP電話網の整備が、平時での「市内電話無料化」という画期的な住民サービス向上も同時に実現している。このことを同市担当者に、整備の背景なども含め聞いた。
豊後大野市データ
人口:3万5,585人(令和元年7月31日現在) / 世帯数:1万6,117世帯(令和元年7月31日現在) / 予算規模:291億3,200万円(令和元年度当初) / 面積:603.14km² / 概要:大分県の南西部、大野川の中・上流域に位置する。平成17年3月31日に三重町、清川村、緒方町、朝地町、大野町、千歳村、犬飼町の5町2村が合併して誕生した。起伏に富み、かつ複雑な地形を活かすとともに、大小の河川を集めて別府湾に注ぐ大野川の豊かな水利があり、県内屈指の畑作地帯を形成している。
90%を超える世帯が利用
―豊後大野市がIP電話を整備した背景を教えてください。
平成17年に5町2村が合併して誕生した当市では、防災無線や情報通信の整備状況に地域格差が存在していました。さらに、平成23年の地上デジタルテレビ放送への移行を控え、市内山間部では難視聴世帯の発生も予想されました。そのため、市は光ファイバーを敷設し、これを介して地上デジタルテレビ放送の提供や行政・防災情報などの伝達を図りました。この光ファイバー網の有効活用の一環として整備したのがIP電話でした。
―狙いはなんだったのでしょう。
ひとつは、防災対策として、電話回線を冗長化(※)することです。一般電話回線とIP通信回線を確保することで、大規模災害で一般電話回線が遮断された際にも、IP通信網を活用することができます。もうひとつの狙いは、日常での住民サービスの向上です。合併後の当市には3つの市外局番が混在し、市内電話料金の差異が問題視されていました。そこで、IP電話を導入すれば、市内電話を無料化できる点に着目したのです。
※冗長化:システムの障害に備えて、同じ機能や役割の要素をあらかじめ複数用意しておくこと
―どのような仕組みですか。
市役所および公共施設、ケーブルテレビサービスに加入する市内世帯の固定電話を、新たに導入したサーバタイプのIP電話交換機(クラウドPBXサーバ)で結びました。これにより、結ばれたすべての固定電話間の通話を内線電話として扱うことができ、市内電話を無料化することができました。 この無料電話サービスを利用するには、ケーブルテレビサービスへの加入が必要になりますが、行政・防災情報、市民チャンネル放送なども受信できます。この市内電話の無料化サービスが受けられることもあって、現在では加入率は90%を超え、実に1万3,000世帯が無料電話サービスを活用しており、当市が誇る住民サービスの目玉のひとつになっています。
今後も住民サービスの目玉に
―IP電話の導入にどのような 効果を実感していますか。
なんといっても、有事の際に備えた「電話回線の冗長化」で大きな安心をえられたことです。クラウドPBXサーバ自体を庁舎から離れた場所に設置すれば、防災対策上のリスク分散も図れます。また、無料電話サービスが住民間のコミュニケーションを活性化してくれていることも大きな効果です。
雷多発地帯の当市では、まれに接続装置の一部が故障しますが、地元保守会社の迅速な対応がサービスの安定的な運用を支えてくれていて、サービス開始以降、大きなトラブルもなく、安定して稼働していることも評価しています。
市としては、今後も住民サービスの目玉として、このサービスを継続していく考えです。
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