※下記は自治体通信 Vol.26(2020年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
全国各地で局地的豪雨が頻発し、水害リスクが年々高まるなか、住民の生活を守る社会環境整備が使命の自治体にとって、水害対策の強化は最重要課題のひとつ。その課題に取り組むべく、南島原市(長崎県)では独自の雨量観測器を市内各所に設置した。同市担当者に、具体的な水害対策の取り組みや機器設置で期待する効果などを聞いた。
南島原市データ
人口:4万4,725人(令和2年7月末現在)世帯数:1万8,883世帯(令和2年7月末現在)予算規模:463億8,526万3,000円(令和2年度当初)面積:170.11km²概要:長崎県の南部、島原半島の南東部に位置する。1,000mを超える雲仙山麓から南へ肥沃で豊かな地下水を含む大地が広がり、魚介類豊富な有明海と橘湾に広く面する海岸線を有す。歴史的には1560年代にキリスト教がこの地に伝来。「島原・天草一揆」の終焉の地として有名な「原城跡」は、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産のひとつとして、世界文化遺産に登録されている。
観測値にタイムラグがあれば、避難対策が後手に回る懸念
―水害対策の取り組み状況を教えてください。
これまでは、市内に1ヵ所ある気象庁の気象観測器『アメダス』と、県の雨量観測器で雨量情報を収集していました。そのうえで、大雨や土砂災害の警報が発令された場合、すぐに災害警戒本部を庁内に設置して、住民への迅速な避難情報の発令体制を整えています。
―そういった状況のなか、どのような課題があったのでしょう。
当市は東西に約22km、南北に約17kmで、面積が約170km²と広く、天候がエリアごとに異なることもよくあります。しかしながら、エリアごとの雨量情報をリアルタイムに収集できていない状況にありました。丘陵地が多い当市には、土砂災害警戒区域が約1,400ヵ所あります。昨今の局地的豪雨の頻発により、エリアごとの雨量情報を迅速に収集しなければ、避難対策が遅れる可能性も。そう考えると、『アメダス』はリアルタイムに収集できますが1ヵ所しかなく、各エリアの状況をリアルタイムに収集できる雨量観測器の設置を独自に検討しました。
―その際、なにを重視しましたか。
コスト面と物理面から見た「設置のしやすさ」です。
コスト面では、『アメダス』のような大規模な機器ではなく、雨量を正確に観測できる必要最低限の機器であればコストが抑えられるため、市内各所に設置できます。また、物理面では、たとえば電源の確保が難しい山間地など、観測したい場所に容易に設置できれば観測地点を広げられます。
―その結果、どのように検討を進めたのでしょう。
当市の防災行政無線のシステムを構築しているエコー電子工業に相談したところ、ソーラーパネルとバッテリーで稼働する電源不要の小型雨量観測器『EQROS(エクロス)』の提案がありました。雨量観測に特化したことで低コストが実現し、小型かつ電源不要なので物理的にも設置しやすい。現在、川の上流や土砂災害が懸念される地点などに7台設置しています。
夜間でも「避難勧告」を、躊躇なく発令できた
―導入後、どういった効果がありましたか。
避難対策の判断に、より確信をもてるようになりました。たとえば今年の7月6日、九州北部の記録的大雨の際、市内全域に「避難勧告」を発令しました。夜間だったため、避難所への移動の危険を考えると、発令するか迷いが生じるところです。しかし、『エクロス』の雨量情報を見て、「一刻も早い避難が必要」と判断できました。その後、もっとも緊急性の高い「避難指示」の発令も、『エクロス』を注視して関係各所と協議した結果、不要と判断しました。『エクロス』の情報をもとに、適切な避難対策が講じられたと思います。
―『エクロス』を今後の水害対策にどう活用しますか。
『エクロス』で得た雨量情報は住民も市のホームページ上で閲覧でき、さらに、一定雨量を超せば登録アドレスに注意喚起のメールを自動通知する機能も今後実装予定であるため、自助・共助につながる活用を促します。そのほか、今後『エクロス』に蓄積されるデータをもとに、「水害の確率が高まる降雨量」などを分析し、さらなる迅速な避難対策に活かしたいです。