沖縄県与那原町/山形県庄内町の取り組み
行政窓口のオンライン化①
住民満足度の高い行政窓口を、『LINE』アカウント上で実現
与那原町 総務課 臼井 洋平
庄内町
企画情報課情報発信係・主事(当時) 柿崎 脩平
総務課改革推進係・主任 佐藤 和恵
行政のデジタル化が自治体の共通課題となるなか、住民サービスの向上にもつながる行政手続きの電子化は、特に注目される取り組みのひとつだ。しかし、どういったツールを用い、どのような手続きを電子化すればよいかわからず頭を悩ませる自治体も少なくない。こうしたなか、与那原町(沖縄県)と庄内町(山形県)は、SNSの『LINE』を活用し、さまざまな手続きの電子化を実現している。取り組みの詳細について、両町の担当者に聞いた。
※下記は自治体通信34号(Vol.34・2021年11月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[与那原町] ■人口:2万47人(令和3年9月末現在) ■世帯数:8,645世帯(令和3年9月末現在) ■予算規模:118億4,163万円(令和3年度当初) ■面積:5.18km2
学校の欠席連絡を電子化。満足度は94.8%に
―与那原町が行政手続きの電子化に着手した経緯について聞かせてください。
町立学校における保護者からの欠席連絡に関する電話対応に、学校職員が毎朝追われている状況を知ったのがきっかけでした。当町では保護者との連絡手段にはすでにメール配信サービスが導入されていましたが、ほとんど使われていないとのことでした。これは、SNSの普及により、保護者が電子メールをほとんど利用しなくなったことが背景にあるようです。そこで新たな連絡手段として、老若男女を問わず普及している『LINE』アプリに着目。『LINE』に連絡や申請といった機能を追加できる『GovTech Express』を導入し、今年1月に運用を始めました。
―導入の決め手はなんだったのでしょうか。
リッチメニュー*1として設けられる機能を柔軟に追加できる点です。『GovTech Express』は、複数の機能パーツをもとに、オリジナルのメニューを定額でいくらでも追加できるのが特徴です。今後、学校だけでなく、行政におけるさまざまな手続きを電子化していくことを考慮し、この点を高く評価しました。
―導入で得られた成果を聞かせてください。
欠席連絡の多くが『LINE』に置き換わり、電話対応にかかる学校職員の負担が半減されたという声が届きました。保護者からも、なじみのある『LINE』を使って簡単に連絡できる点が評価されています。実際にアンケートを行ったところ、満足度は94.8%に達しました。現在、当町の『LINE』公式アカウントには、新型コロナウイルスワクチン接種の予約や、図書館の書籍貸出予約などのメニューも実装しています。今後も、さまざまな手続きを電子化することで、職員の業務効率化や行政サービスの向上につなげていきます。
[庄内町] ■人口:2万367人(令和3年8月末現在) ■世帯数:7,135世帯(令和3年8月末現在) ■予算規模:175億1,932万8,000円(令和3年度当初) ■面積:249.17km2
アカウントの「友だち」は、人口の約3割相当まで急増
―庄内町では、どういった経緯で行政手続きの電子化に取り組んでいるのですか。
柿崎 当町では、令和元年から『LINE』公式アカウントを開設していました。ただ、単なる情報発信手段としてではなく、住民サービスの向上につながるプラットフォームとして、より積極的に活用すべきとの声が庁内であがっていました。そこで、『LINE』と連携できる約10のサービスを検討した結果、サブスクリプション型の契約で、さまざまな機能を柔軟に実装できる『GovTech Express』を評価し、令和3年2月に導入しました。現在、新型コロナウイルスワクチン接種の予約や、道路・街路灯などの異常に関する通報、ゴミ分別の自動回答、セグメント配信など、10のリッチメニューを設けています。
―住民による利用状況はいかがでしょうか。
佐藤 非常に多くの住民に利用され、導入後わずか半年で大きな成果を得ています。たとえば、ワクチン接種では全体の約75%を『LINE』経由の予約が占めています。また、当町公式アカウントの「友だち」の数は、今年8月現在で人口の約3割に当たる7,000超と、『GovTech Express』導入時の14倍に増加。多くの町民がアカウントの追加にメリットを感じている証だと思います。
今後は、「個人認証」が必要な手続きにも電子化の取り組みを広げ、さらなる利便性向上を図っていきます。
富山県魚津市の取り組み
行政窓口のオンライン化②
『LINE』×マイナンバーカードで、オンライン申請の充実化に期待
魚津市 企画部情報広報課 下野 洋平
ここまで紹介した自治体を一例に、『LINE』を活用した行政手続きの電子化に取り組む自治体は増えている。こうしたなか、魚津市(富山県)は、『LINE』に「個人認証」の仕組みを連携させた行政手続きの電子化を計画しているという。どのような効果を期待しているのか。同市の下野氏に聞いた。
[魚津市] ■人口:4万695人(令和3年9月末現在) ■世帯数:1万7,017世帯(令和3年9月末現在) ■予算規模:332億9,798万円(令和3年度当初) ■面積:200.61km2
個人認証機能の実装で、適用の幅が一気に広がる
―行政手続きの電子化をめぐる、取り組みの状況を教えてください。
新型コロナワクチン接種の予約や、ワクチン接種証明の申し込み、水道の開閉栓、イベントの予約・申し込みといった手続きの電子化を、『LINE』公式アカウント上で実現しています。当市が導入した行政手続きの電子化プラットフォーム『GovTech Express』は、コストや時間をかけてシステム開発を事業者に委託する必要がなく、職員自ら行政手続きをノーコードで開発できる点が最大の魅力です。今後は、プラットフォーム上で利用できる機能が新たに追加されると聞いており、住民サービスのさらなる向上を目指します。
―どういった機能でしょう。
たとえば、オンラインで各種申請を行う際、なりすましやデータ改ざんを防ぐために確認を行う「公的個人認証サービス」(以下、JPKI*2 )との連携機能に注目しています。これにより住民は、『LINE』アプリとマイナンバーカードを使うだけで、個人認証が必要な申請を行えるようになるため、適用できる行政サービスの幅が一気に広がると期待しています。『LINE Pay』やクレジットカードといったキャッシュレス決済も可能とのこと。このJPKIとの連携機能により、「オンライン窓口」としての当市『LINE』公式アカウントが一層便利になると期待しています。
―今後はどういった行政手続きを電子化していきますか。
申請件数が多く、かつ、手数料が発生する手続きを優先的に電子化していきます。たとえば、現時点では、住民票・戸籍や印鑑登録証明書、転出届、各種税証明、犬の登録といった申請のオンライン化を検討しています。将来的には、住民が『LINE』アプリさえ開けば、ほぼすべての行政サービスを受けられるような状態にしていきたいですね。
支援企業の視点①
「個人認証」活用の障壁をなくせば、オンライン化は成功に近づく
株式会社Bot Express サクセスマネージャー 淺田 恵里
ここまでは、『LINE』と「JPKI」を組み合わせ、「個人認証」が必要な申請のオンライン化を目指している魚津市の事例を紹介した。『LINE』とJPKIとの融合によって、自治体や住民はどういったメリットの享受を期待できるのか。『GovTech Express』の開発元であるBot Expressの淺田氏に聞いた。
自治体はあらゆる申請を、オンライン化できるように
―JPKIの活用に注目する自治体は多いのでしょうか。
自治体DXの推進や、コロナ禍における人と人との接触回避の観点から、JPKIを活用したオンライン申請に注目する自治体は増えています。ただし、これからJPKIを活用していくには、多くの住民にオンライン申請を実際に利用してもらえるような仕組みづくりが重要になります。
―具体的には、どういったことがポイントになりますか。
住民が特別な端末やソフトウェアを用意することなく、オンライン申請を行えるようにすることです。マイナンバーカードに記録された電子証明書の読み取りには、ICカードリーダーや専用のアプリが必要で、このことが、住民がオンライン申請を行う際の障壁となります。実際、JPKIを活用したオンライン申請の利用は住民に広がってきませんでした。そこで当社では、JPKIによる個人認証が行える機能を、『GovTech Express』に実装。これにより、住民は『LINE』アプリがインストールされたスマートフォンとマイナンバーカードさえあれば、さまざまなオンライン申請を簡単に行えるようになります。
―自治体はどういったメリットを得られますか。
個人認証を要するものであれば、原則あらゆる申請をオンライン化できるようになります。総務省が示す、申請にマイナンバーカードの利用が想定される31の手続きをはじめ、住民票の申請や転出届など、それ以外の手続きについても、自治体は柔軟にオンライン化できます。現在、このJPKI連携機能は、魚津市を含め、約10自治体が導入を予定しています。
予定当社の『GovTech Express』は、『LINE』活用に関する総務省のガイドラインに適合しているうえ、管理システムには、ISMAP*3に登録された『Salesforce』を採用しており、セキュリティ面でも安心して利用いただけます。行政サービスの向上に、ぜひ役立ててほしいですね。
淺田 恵里 (あさだ えり) プロフィール
平成8年、三重県生まれ。平成26年に高等学校を卒業後、名古屋市役所に入庁。住民基本台帳事務の調整等を経験後、令和3年、株式会社Bot Expressに入社。自治体向けのカスタマーサクセスを担う。
支援企業の視点②
行政窓口のオンライン化③
住民目線に立った電子化こそ、行政サービス向上のカギ
株式会社Bot Express 代表取締役 中嶋 一樹
ここまでは、行政手続きの電子化を図っている自治体の事例や、オンライン申請実現に向けたJPKI活用のポイントについて紹介してきた。このページではその総括として、Bot Express代表の中嶋氏を取材。行政手続きの電子化を成功に導く要諦を聞いた。
オンライン申請の住民利用が、1%未満にとどまるケースも
―自治体の行政手続きに関する電子化の現状を聞かせてください。
行政手続きを電子化する自治体は増えていますが、住民による利用は伸び悩んでいるのが実情です。たとえば、当社がある自治体に対して行った調査では、オンライン申請の利用率が1%未満にとどまっているケースもありました。
―住民による利用が伸び悩んでいるのはなぜでしょう。
住民目線でのサービス設計や、住民からのフィードバックを受けたサービス改善が十分でないためだと思います。多くの自治体はこれまで、行政サービスの向上を目的に行政手続きの電子化をシステム上で実現してきました。しかし、住民がそのシステムを使うために、専用の端末やソフトウェアを用意する手間がかかるのならば、本当の意味で行政サービスの向上につながっているとは言えないでしょう。そのうえ、オンライン手続きは住民がリアルの職員と対面できないため、手続きの内容が複雑であれば、住民が利用自体をあきらめてしまうことも少なくありません。
そこで当社では、住民の目線に立った行政手続きの電子化を実現するソリューションとして、『GovTech Express』を提案しています。
―どういった特徴がありますか。
住民が『LINE』におけるチャットボットとの対話だけで、手続きを進められることです。数ある『LINE』連携サービスのなかには、『LINE』のリッチメニューから、オンライン手続きを行う別のアプリやWebページに誘導するものも少なくありません。つまり、「入り口」は『LINE』であっても、住民は別のサービスを介して申請を行う必要があり、結果として、使い慣れないサービスに戸惑うことになってしまうでしょう。その点、『GovTech Express』は『LINE』アプリの操作だけで手続きを完結できます。『LINE』のチャットボットが、職員の代わりに住民を案内する役割を担うのです。
また『GovTech Express』は、自治体側が導入メリットを享受できるサービス設計も特徴です。
改善サイクルを高速に回し、さらなる行政サービス向上を
―自治体はどういったメリットを得られるのですか。
職員が自らの手でオンライン申請・手続きの作成や修正を、繰り返し行えることです。『GovTech Express』では、『LINE』のトークを使った手続きや住民とのコミュニケーションをノーコードで開発できるうえ、サブスクリプション型の契約により機能の追加や修正に費用がかかりません。こうしたサービス設計により、自治体は都度予算化する必要なく、行政手続きの電子化をめぐる改善サイクルを高速に回すことができます。そうすることで、システム開発を外部に委託する時間やコストを省きながら、「多くの住民に利用されるオンライン手続き」の実現を図れるようになるでしょう。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
当社は、自治体に『GovTech Express』を導入いただいた後も、住民にサービスを共に提供するパートナーとして、エキスパートがその運用を支援する体制も整えており、自治体と伴走しながら行政サービスの向上を一緒に目指していきます。オンライン申請の利用率向上に向けて効果検証を行う実証実験も受けつけていますので、ぜひ、お気軽にご連絡ください。
中嶋 一樹 (なかじま かずき) プロフィール
昭和53年、大阪府生まれ。平成13年に大学を卒業後、一貫してエンジニアとして活躍を続ける。日本オラクル株式会社、株式会社セールスフォース・ドットコム、LINE株式会社などを経て、平成31年に株式会社Bot Expressを設立、代表取締役に就任。
株式会社Bot Express
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