※下記は自治体通信 Vol.51(2023年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
いま、多くの自治体がDX推進を掲げ、さまざまな業務のデジタル化を進めている。特に学校における連絡業務のデジタル化は、教職員と保護者の双方にメリットを生み出せる分野として注目されている。そうしたなか、岡山市(岡山県)は市立学校における連絡業務にSNSのLINEを活用し、業務効率化の効果を得ているという。取り組みの詳細を、同市教育研究研修センターとデジタル推進課の各担当者に聞いた。
[岡山市] ■人口:69万9,698人(令和5年5月末現在) ■世帯数:33万9,312世帯(令和5年5月末現在) ■予算規模:6,383億4,900万円(令和5年度当初)
■面積:789.95km² ■概要:旭川と吉井川が瀬戸内海に注ぐ岡山平野の中央に位置し、南部は地味豊かな沃野、北部は吉備高原の山並みが広がる。温暖な瀬戸内海特有の風土により春秋は快晴の日が多い。人口10万人当たりの医師数や文化施設数、百貨店・スーパーマーケット数、人口ひとり当たりの都市公園面積などが政令指定都市間で一桁台にランクインするなど、高度な都市機能が集積している。
学校の連絡ツールには、馴染みのSNSを採用したい
―市立学校における連絡業務で、LINEの活用を始めた経緯を教えてください。
赤枝 働き方改革が求められている教育現場で、いかに教職員の事務負担を減らし、児童生徒と接する時間を増やすかは、当市においても近年重要なテーマです。その具体的な取り組みとして、保護者との連絡手段をデジタル化する学校が増えています。しかし、教職員が異動した先の学校で、異なるメールサービスや専用アプリが導入されていた場合、教職員はその都度ツールの使い方を覚える必要があります。そこで岡山市教育委員会は、市立の小・中・義・高等学校(以下、学校)で統一した連絡ツールを整備しようと考え、LINEを活用することにしました。
―LINEを選んだのはなぜですか。
赤枝 多くの人が使っているSNSであり、教職員と保護者の双方にとって使いやすいツールになると考えたからです。また、「LINEを積極的に活用していく」という岡山市の方針に合致したことも理由でした。
吉田 当市では平成30年にLINE公式アカウントを開設しており、その後、「セグメント配信」といった便利な機能をLINEに実装できる「拡張ツール」の導入も検討していました。そうしたなかで、「市立学校の連絡ツールを導入したい」という教育委員会の要望を受けたのです。そこで、複数の拡張ツールを検討した結果、Bot Express社の『GovTech Express』の導入を決めました。
機能のブラッシュアップで、ユーザーの利便性を追求
―導入の決め手はなんでしたか。
吉田 サブスクリプション契約により、LINEに機能を数の制限なく実装できる点です。将来、LINEの活用を庁内で広げていくことを考慮し、この点は高く評価しました。導入後は約3ヵ月間の実証実験を行いながら、学校連絡に関する機能を作り込んでいきました。
赤枝 この機能は、保護者がチャットボットの案内に従って一問一答形式で答えていくだけで、児童生徒の遅刻や欠席を学校に連絡できるものです。学校は、この連絡を『GovTech Express』の管理画面で確認できる仕組みです。令和5年4月から市立学校126校で実態に応じた運用を開始しました。
―導入効果を教えてください。
赤枝 教職員からは、「始業前の電話連絡が減った」「職員室と教室で欠席などの連絡を確認できる」という声が寄せられました。保護者にも、「朝の限られた時間に電話をかける負担がなくなった」と好評です。この機能以外でも、セグメント配信機能により、教職員は学年や学級など異なる区分の保護者へメッセージをまとめて送れるようになり、情報伝達が効率化されました。『GovTech Express』では従来よりセグメント配信が可能でしたが、当初は操作に複数の手順を踏む必要があり、教職員がハードルを感じるものでした。それをBot Expressに伝えたところ、学年や学級などを選択するだけで誰でも簡単に配信できるよう、わずか1週間で機能を拡張してくれました。機能を柔軟にカスタマイズしてユーザーの利便性を追求できる点で、同社のサポート体制を高く評価しています。
吉田 今後は、紙の配付物をPDFに変換してLINEで共有する機能も実装し、学校業務のさらなるDXを図っていきます。今回の市立学校におけるLINE活用は、DXの新たな事例として庁内の他部署にも大きなインパクトを与えています。今後もLINEと『GovTech Express』を活用し、多くの部署でこのような事例を生み出していきたいです。
学校業務へのSNS活用②
使い放題のLINE拡張ツールを用い、最小の費用で最良の行政サービスを
ここまでは、学校と保護者の間の連絡手段にLINEを活用し、学校業務のDXを実現した岡山市の取り組みを紹介した。ここからは同市を支援したBot Expressを取材。教育分野でLINEを活用する際のポイントを同社の淺田氏に聞いた。
株式会社Bot Express
パートナーサクセスマネージャー
淺田 恵里あさだ えり
平成8年、三重県生まれ。平成26年、名古屋市役所に入庁。住民基本台帳事務の調整等を経験後、令和3年、株式会社Bot Expressに入社。パートナーとなる行政・自治体の職員とともに住民に向き合い、サービスをつくりあげる「パートナーサクセスマネージャー」を担う。
機能追加に費用がかかれば、予算要求の時間もかかる
―学校業務にLINEの活用を検討する自治体は増えていますか。
はい。現在、自治体における多様な業務でLINEの活用が増えていますが、なかでも学校業務は特に高い関心を集めている分野の一つです。その理由は、ユーザーである保護者にオンライン手続きへの抵抗感がなく、LINEに特に親しみを感じる30~40代の層が多いからです。実際、当社による支援事例を見ても、この世代の層はLINEを活用した行政手続きの利用率や満足度が高いことがアンケート調査などからわかっています。保護者側の利用率向上が、デジタル化の恩恵となって学校教職員の業務効率化につながることを考えれば、LINEは学校業務のDX推進基盤として有効な選択肢になります。ただしその場合、LINEにさまざまな機能を実装する「拡張ツール」の選定が重要になってきます。
―詳しく聞かせてください。
拡張ツールによっては、実装する機能の数を増やすたびに追加費用がかかります。その場合、財政負担が大きくなるだけでなく、予算要求にも多くの時間と手間がかかってしまいます。それに対して、当社の『GovTech Express』の場合、多様な機能を定額料金で数の制限なく実装できる点が導入自治体から高く評価されています。
―たとえば、どういった機能を実装できるのでしょう。
学校業務関連ならば「欠席連絡」や「セグメント配信」など。それ以外にも「ごみの収集予約」や「証明書のオンライン申請」といったほかの担当部門でも活用できる多様な機能をテンプレートとして用意しています。そのうえで、こうしたテンプレートが使い放題であるだけでなく、さらに別の「機能パーツ」を組み合わせてカスタマイズしたり新たな機能をゼロから開発したりできることこそ、『GovTech Express』の最大の特徴です。ノーコードツールであるため、職員は自らカスタマイズや開発を行い、利用者のニーズに合わせて最良の行政サービスを作り込めるのです。この「作り込み」こそがLINE活用を成功させる重要なポイントです。当社では、そうした機能の作り込みを専属スタッフが徹底的に伴走支援する体制も整えています。
現場のニーズを反映し、機能改善を重ねている
―具体的に、どのような支援を行っているのですか。
一般的なテクニカルサポートはもちろんのこと、自治体が実装したい機能のプロトタイプを数日間という短期間で作成したり、他自治体が実装している機能を雛形として提供したりしています。実際、岡山市を支援するなかでセグメント配信のUIを改善したように、我々は自治体への伴走支援を通じて掴んだ現場のリアルなニーズを積極的に機能へ反映させています。『GovTech Express』自体も、週1回の頻度でアップデートされ、自治体がLINE活用に対してより大きな成果を追求できるようブラッシュアップを重ねています。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
現在、『GovTech Express』の導入自治体は150以上を数えます。自治体支援を通じて当社が蓄積してきたLINE活用に関する知見は、毎月の無料オンラインセミナーや公式「note」で未導入の自治体にも共有しています。当社のLINE公式アカウントでは、導入事例を紹介しているほか、機能デモも体験可能です。ぜひご確認ください。