長野県大鹿村の取り組み
高齢者見守り事業の拡充
ICTによる「音声対応型見守り」で、高齢者に感じてほしい「つながる喜び」
大鹿村 保健福祉課 管理栄養士 在宅介護支援センター 介護支援専門員 塩澤 大樹
※下記は自治体通信 Vol.37(2022年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
各自治体が、さまざまなツールを活用した高齢者見守りサービスを提供するなか、大鹿村(長野県)では、ICTによる新たな見守りサービスを開始した。利用する高齢者本人以外にも、遠方にいる家族からも高い評価を得ているという。同村担当者の塩澤氏は、「見守りの機能だけでなく、高齢者に『つながる喜び』を感じてもらえる機能が特徴」と話す。同氏に、新たな見守りサービスの詳細を聞いた。
[大鹿村] ■人口:942人(令和4年1月31日現在) ■世帯数:474世帯(令和4年1月31日現在) ■予算規模:29億3,839万5,000円(令和3年度当初) ■面積:248.28km2 ■概要:長野県の南部エリアに位置する。東には南アルプス3,000m級の山々がそびえ立ち、西は伊那山脈に隔てられた山村。平成17年に全国7町村により設立された「日本で最も美しい村」連合に加盟している。地域内で伝統的に「唐辛子味噌」に加工されている「大鹿唐辛子」は、「信州の伝統野菜」に認定されている。
従来の緊急通報システムでは、異変を把握できない懸念も
―ICTによる見守りサービスを開始した経緯を教えてください。
当村では、高齢者見守りの一環として、委託したNPО法人の「安心見守り隊」が、一人暮らしの高齢者宅へ定期的に訪問してきました。高齢者と顔を合わせることにより、心身の状態を直接確認するためです。そのほか、緊急通報システムの導入を支援し、見守り体制の強化にも力を入れてきました。
しかし、マンパワーの制約から頻繁に訪問することは難しく、緊急通報システムに関しても課題がありました。
―どのような課題ですか。
たとえば、あまりにも急な体調不良の場合、高齢者はボタンを押すことができず、私たちが異変を把握できないのではないか、といった懸念があったのです。そこで、新たな見守りサービスの仕組みを検討した結果、日々の生活状況を確認できる「音声操作対応型」のスマートスピーカーを活用した日本郵便のシステムに注目し、令和2年10月から実証実験を行いました。
―システムに注目したポイントはなんでしたか。
まずは「使いやすさ」に魅力を感じました。このシステムは、スマートスピーカーが毎日決まった時間に「今日の体調は、よいですか」「薬は飲みましたか」といった日常生活に関する声かけをしてくれます。その際、高齢者は複雑な操作が不要で、スピーカーの問いかけに音声で答えるだけで済みます。また、私たちが離れた場所から、高齢者の生活状況を日常的に把握できる点も評価のポイントでした。高齢者は「体調はいい」と返事をすれば、その内容が村役場に自動通知される仕組みです。仮に反応がない、もしくは「体調は悪い」という回答があれば、私たちは異変を早期に察知でき、必要な対策を講じられます。さらにもう1つ、大きく評価できる機能がありました。
見守りサービスで提供できる、「生きがいや楽しみ」
―どのような機能でしょう。
高齢者に、「つながり」を日常的に感じてもらえる機能です。たとえば、遠くに住む家族と非対面のコミュニケーションが図れる「ビデオ通話」や、家族や私たちからのメッセージが音声で伝わる「お知らせ通知」です。これらの機能が、毎日の生活に「生きがいや楽しみ」を与えてくれると期待しました。実際に実証実験では、多くの高齢者が「とても楽しめる機能」だと喜んでくれました。家族からも「顔を見られるので安心」といった評価をいただけました。実証実験により効果を確認できたことから、令和3年度に本格導入を決定。令和4年度は、さらに多くの利用者を募集する予定です。
―今後、見守りサービスをどのように充実させていきますか。
「つながる機能」をさらに活用し、たとえば、ケアマネージャーが高齢者と頻繁に連絡できるような体制を構築できればと考えています。そうすれば、実際に訪問しなくても高齢者の生活状況を日常的にチェックできるような密度の濃いサービスを提供できるようになります。ひいてはそれが、地域全体で高齢者を見守る「地域包括ケア」の土台になると思います。
支援企業の視点
これからの高齢者見守りに必要なのは、「つながる喜び」や「楽しさ」の提供
日本郵便株式会社 地方創生推進部 担当 篠原 圭介
―高齢者の見守りをめぐる現在の自治体の課題はなんですか。
高齢化の進展で高齢単身世帯が増加するなか、社会からの孤立化の問題や、支援の担い手不足といった問題が顕著になりつつあります。くわえて、昨今のコロナ禍によって、感染症対策という新たな課題も浮上。「新しい生活様式」への対応から、非対面でのコミュニケーションの重要性も高まっています。ますます高齢化が進む今後を見すえ、新しい高齢者見守りのあり方を模索する自治体は増えています。
―新しい高齢者見守りにおいては、どのような点が重要になるでしょう。
我々は、「つながる」「楽しむ」という機能をいかに提供できるかだと思っています。たとえば当社では、IoT機器を活用し異変を察知するだけではなく、会話を通じて誰かとつながる喜び、写真や動画によって周囲とやり取りすることの楽しさを感じてもらいたい。そんな想いでサービスを設計し、スピーカーが発する会話の言葉選びや声質にまでこだわっています。
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
当社では、全国津々浦々に張り巡らされた郵便局のネットワークを活かし、郵便局社員などによる高齢者への「みまもり訪問サービス」も展開しています。人と機器を組み合わせた他社にはまねできないサービスを提供することで、自治体の高齢者見守り事業を支援していきます。我々が目指すのは、高齢者の笑顔です。関心のある自治体のみなさんは、ぜひお問い合わせください。
篠原 圭介 (しのはら けいすけ) プロフィール
昭和62年、兵庫県生まれ。平成22年、郵便局株式会社(現:日本郵便株式会社)に入社。令和3年4月より現職。
日本郵便株式会社
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