大阪府公民戦略連携デスク
連載「大阪発 公民連携のつくり方」第10回
民間のビジネス機会を広げれば、公民連携はさらに促進する
藤井寺市長 岡田 一樹
※下記は自治体通信 Vol.37(2022年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
複雑化、多様化する社会課題の解決を掲げ、大阪府では公民連携の促進を目的に、一元的な窓口機能を持つ「公民戦略連携デスク」を設置している。このような専門部署を設けて公民連携を強化する動きは、府内の各自治体にも広がっている。連載第10回目の今回は、令和2年7月に公民連携の専門窓口として「企業パートナーシップデスク」を設置した藤井寺市を取材。設置の経緯やデスクの設置によって得られた成果などについて、市長の岡田氏と同市担当者に話を聞いた。
[藤井寺市] ■人口:6万3,423人(令和4年2月末現在) ■世帯数:2万9,518世帯(令和4年2月末現在) ■予算規模:471億7,749万9,000円 (令和4年度当初案) ■面積:8.89km2 ■概要:南河内地域の一番北にある。全国の市のなかで5番目に面積が小さい。羽曳野市と藤井寺市にかけて広がる古市古墳群は、堺市の百舌鳥古墳群とともに世界遺産に登録された。
「社会貢献」だけでは、公民連携は持続しない
―令和2年7月に「企業パートナーシップデスク」を設置した経緯を教えてください。
私は市長就任前に、地元商店街で理事長職に就いていました。実際に商売をしていたからこそ、公民連携を進めるにあたってはCSV*1の考え方を意識しています。民間企業にとっては、社会貢献につながる取り組みだとしても、ビジネスとして成立しなければなかなか継続しにくいのが本音です。だからこそ、民間には当市を「ソリューションモデルの実証の場」として活用してもらい、公民連携の取り組みが事業として成立するのかどうか検証してほしいと考えています。そのために、大阪府公民戦略連携デスクの協力を得て、まずは私たち行政と民間の情報を一元的に集約する窓口としての「企業パートナーシップデスク」を設置しました。
―専門窓口の設置後、得られた成果について教えてください。
デスク設置後の約1年8ヵ月で、70以上の企業とディスカッション、8企業と連携協定を結び、実際に市の観光促進を目的とした実証実験や市民の健康促進などの取り組みを進めています。また、窓口設置により、各課と民間企業が「どうすればもっと良いまちになるか」と議論する機会が増えたことで、新たなアイデアが生まれたり、各業界のことを知ることができたりと職員の育成にも一役買っています。
―今後のビジョンを聞かせてください。
当市は、歴史遺産などの地域資源はあるものの、特産品や産業資源が豊富なわけではありません。だからこそ、民間企業や学生など市内外のさまざまな方々が関わりアイデアを出し合ってもらうことで、既存の地域資源に価値を付加し、磨き上げていっています。
公民連携を進めることで、さらに多くの民間企業と市職員の対話を生み出し、取り組むことで唯一無二な市へと変貌を遂げていきたいと思っています。公と民が「パートナー」としてWin-Winの関係になり、さらに市民のQOLも高まるような三方良しを「藤井寺モデル」として全国に発信していきます。
ICTで生み出す新たな観光資源を、まちのブランディング戦略の核に
藤井寺市 政策企画部 次長 山本 晃司
「企業パートナーシップデスク」はいま、凸版印刷と連携協定を結び、新たな観光資源の発掘に向けて実証実験を進めている。同デスク担当の山本氏によると、この実証実験は、新たな「ブランド化」に向けた藤井寺市の挑戦の第一歩だという。取り組みの内容や期待する効果などを同氏に聞いた。
「名所」がなくても、にぎわいのあるまちへ
―凸版印刷と連携協定を結んだ経緯を教えてください。
当市には以前、プロ野球球場がありましたが、閉鎖後は人を集める「名所」がない状態でした。しかし、令和元年7月、百舌鳥・古市古墳群の世界遺産登録で、観光・商業振興策の強化機運が高まりました。そこで、観光分野のDX推進に注力している凸版印刷と、令和3年12月に連携協定を締結。今後、ICTを活用し、「まちなか周遊の促進」「バーチャル観光の創出」「食の観光資源の創出」といった3つの取り組みを進めます。特に「食の観光資源の創出」に関しては、コロナ禍においても飲食店が続々と開業しており、観光資源としての可能性を非常に感じています。
―具体的に教えてください。
当市は、古墳づくりに活躍した古代のものづくり集団「土師氏」の本拠地でした。一方、近年は味・素材・デザインにこだわる飲食店が増えています。おしゃれな飲食店も素材の良さを最大限に引き出す、いわば現代のものづくり集団。この取り組みでは、市内外の生産者と市内飲食店を凸版印刷のスマートグラス技術を用いて遠隔でマッチング。卸事業者などを介さず直接コミュニケーションを生み出すことで、より深い関係が構築されます。そうしてさまざまな産地からものが集まり、当市で加工・デザインされて付加価値がつくという一貫した流れを生み出し、「加工場フジイデラ」としてブランディングを図っていきます。
また、市内に分散する観光スポットを観光音声ガイドアプリとデジタル版商品券を使って「周遊促進」する取り組みや、ⅤR技術を駆使した「バーチャル観光」も創出していきます。
―今後どのような効果を期待しますか。
3つの取り組みを一体的に進める今回の実証実験は、新たな観光資源を生み出し、地域振興を図りたい自治体にとって、ひとつのモデルケースになるかもしれません。さまざまな自治体へのソリューション展開を図りたい凸版印刷にとっても、ビジネスモデル検証の場にしていただければと思います。
支援企業の視点
CSVを貫く藤井寺流の公民連携は、企業にとっても持続可能なもの
凸版印刷株式会社
西日本事業本部 関西事業部 関西ビジネスイノベーションセンター ビジネス開発部 部長 関田 雅光
―藤井寺市との取り組みに、どのような期待をしていますか。
当社が30年以上前から開発に着手してきたVR技術は、コロナ禍でより一層注目を集め、さまざまな活用法が提唱されるようになりました。しかし、この技術をいかにマネタイズしていくかは、多くの企業にとってまだまだ難しい課題です。今回の藤井寺市との連携は、まさにその課題に挑むもの。地域課題の解決や技術的な実証にくわえ、事業化の道筋を探るという企業としての重要な命題もあります。
たとえば、今回「食の観光資源の創出」の一環として実証される「スマートグラスを使った飲食店と生産者のマッチング」は、一次産業がほとんど存在しない弱みを逆手に取った取り組みです。「一次産品を藤井寺に持ってくれば、美味しい料理に変えて差し上げます」という「加工場フジイデラ」の実証実験には、技術の力で地域の弱みを強みに変える新しいVRビジネスの萌芽を見ています。
―連携相手となる「企業パートナーシップデスク」の活動は、どのように評価していますか。
優れたビジネス視点で事業を推進する姿勢が、大変心強いです。先日も、当社のソリューションを紹介した際、市の課題に結びつけた実証実験の構想が持ち上がりました。その際、デスクは、実証実験後の事業化ビジョンまで議題にのせ、別の地域企業への協力要請といった発展的な提案をしてくれました。こうしたCSVの実践こそ、公民連携を企業にとっても持続可能なものにするカギだと感じています。
関田 雅光 (せきた まさみつ) プロフィール
昭和42年、大阪府生まれ。平成3年、凸版印刷株式会社に入社。企業プロモーション支援や社会課題解決に向けた地方創生関連業務を手がけ、令和2年から現職。
大阪府公民戦略連携デスクの視点
コンパクトシティならではの公民連携「藤井寺モデル」の確立に期待
令和2年7月に公民連携のワンストップ窓口となる「企業パートナーシップデスク」を設置した藤井寺市では、CSVの観点から、企業・事業者・大学などとの公民連携による社会・地域課題の解決に取り組んでいます。連携相手には、「ビジネスチャンスの獲得」「宣伝機会の増加」など、公民連携を通じた新たな価値創造をメリットとして伝えると同時に、市の課題をオープンに提示。多様なジャンルや部署横断的な提案を受け付け、公民連携による実証実験も積極的に行っています。地域資源を活かした、全国で5番目に小さいコンパクトシティならではの持続可能なまちづくり、「藤井寺モデル」の確立に期待が高まります。