
熊本県・宮崎県・鹿児島県の取り組み
観光需要の喚起策
LINEを活用したスタンプラリーで、一過性で終わらないキャンペーンに
宮崎県 商工観光労働部 観光経済交流局 観光推進課 国内誘致担当 主事 横山 達哉
鹿児島県 観光・文化スポーツ部 PR観光課 国内誘致係 主事 熊野 友里花
※下記は自治体通信 Vol.42(2022年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
観光客の誘致や周遊促進を期待して、スタンプラリーを実施した経験のある自治体は多いだろう。熊本県、宮崎県、鹿児島県の南九州3県は、令和3年度に合同で、LINEを活用した新たなデジタルスタンプラリーを実施した。「LINEの活用により、一過性で終わらないキャンペーンになった」と手ごたえを語るのは、熊本県の柳邊氏。どのようなイベントを実施できたのか。宮崎県の横山氏と鹿児島県の熊野氏も交えて、詳しく話を聞いた。



デジタルスタンプラリーは、即効性の高い観光振興策
―南九州3県が、合同でデジタルスタンプラリーを実施するにいたった経緯を教えてください。
柳邊 我々3県は、観光事業の相互発展を目的に「南九州広域観光ルート連絡協議会」を設けています。コロナ禍以前は、修学旅行の誘致を中心に活動してきましたが、最近ではコロナ禍の影響でそのような観光振興策を打ち出せずにいました。そうしたなか、政府による移動制限が緩和されたこともあり、令和3年度の事業として、個人観光客の誘致を目的としたデジタルスタンプラリーのキャンペーンを熊本県が協議会で提案しました。コロナ禍以前に、地元熊本でIT事業を手がけるMARUKU社と当県が協働でデジタルスタンプラリーを実施した実績があり、高い集客効果を実感していたからです。
熊野 コロナ禍の影響で、長い期間にわたり観光PRができずにいたなか、私たちも「スタンプを集める」という動機づけができるデジタルスタンプラリーなら、複数の観光スポットを周遊してもらえると期待したのです。懸賞を用意することで参加意欲を高めることもできるかもしれない。即効性の高い観光振興策と考えました。
横山 県外往来自粛などの要請がまたいつ出るかわからない状況のため、柔軟かつ早急に準備を進める必要がありました。その観点からも、デジタルスタンプラリーは、従来の紙によるスタンプラリーにはないメリットもあると考えました。
―どういったメリットでしょう。
横山 参加者がスタンプを集める際は、自身のスマートフォンやタブレット端末などを活用します。そのため、従来の紙のスタンプラリーのように、私たち運営側が各スポットに台紙やスタンプ、インクを設置する時間や手間がなくなり、そのぶんだけ準備を早められます。
熊野 また、キャンペーンの参加者が初めてスタンプを取得した際、運営側は氏名、住所、性別といった基本情報をデータとしてそのまま取り込めます。そのため、従来のように懸賞の応募用紙に書かれてある情報を私たちがシステムに入力する必要がなく、運営はさらに効率化します。
柳邊 それらの基本情報を蓄積して、今後のプロモーション活動においてマーケティングデータとしても活用できます。このように、デジタルスタンプラリーには従来の紙にはないメリットが多くありますが、さらにMARUKUのシステムはLINEを活用した仕組みであるため、より大きな効果が期待できると考えました。
かなり高い「ダウンロード」のハードル
―LINEを活用することで、どのような効果を期待したのですか。
熊野 参加希望者は、普段使っているLINEから、今回のキャンペーンのLINE公式アカウントを「友だち」に追加するだけで参加できるようになります。わざわざスタンプラリー専用のアプリをダウンロードする手間がないため、参加者の増加が見込めると期待しました。旅先や出先で、日常的に利用しないアプリをダウンロードしてもらうためのハードルは、かなり高いと思います。スマートフォンの操作に慣れていない高齢者などであれば、なおさらでしょう。
柳邊 私たちにとっても、友だち登録をしてもらった時点で、南九州3県や観光に対して興味のある方々のLINE連絡先を把握できるメリットがあります。LINEを使うことで、今回のデジタルスタンプラリー以降もさまざまな観光情報を継続的に発信できるようになるのです。単発のスタンプラリーという、一過性のキャンペーンでは終わらないプロモーション活動ができると期待しました。
―実際、スタンプラリーはどのように実施したのでしょう。
柳邊 各県とも30ヵ所の観光スポットをピックアップし、最大90ヵ所を巡ってもらうキャンペーンを企画しました。期間は令和3年11月中旬から令和4年1月中旬までの約2ヵ月間です。参加者は、GPS機能を活用して各スポットでスタンプを獲得します*1。懸賞は、獲得したスタンプ数に応じて用意しました。キャンペーンの成果として、実際の友だち登録人数は約1,500人、スタンプを1つでも獲得した参加者は約250人にのぼりました。
―これらの実績をどのように評価していますか。
横山 じつは宮崎県では、観光振興策として独自にデジタルスタンプラリーを実施したことがあります。そのときは独自Webサイトへの登録が必要な仕組みであり、実施規模などが違うので単純な比較はできませんが、LINEを活用した今回のキャンペーンは想像以上の友だち登録数だと評価しています。
熊野 参加が未定でも、「面白そうだから、友だち登録だけでもしよう」と気軽に参加できるのもLINEキャンペーンのメリットです。そのことが、友だち登録数の伸びにつながったのだと思います。
柳邊 想像以上の実績を残すことができたのは、効果的にキャンペーンの告知ができたことも影響していると考えています。今回はSNSを利用して、旅行に関する情報を収集している人を対象に、居住地域や年代をセグメントして広告配信を行いました。LINE公式アカウントをもっているからこそ、広告をクリックするだけでそのアカウントへと導く設計ができました。
リピーターを増やして、観光業復活の起爆剤に
―観光振興策について今後の方針を聞かせてください。
熊野 今後、コロナ禍の収束を待って、鹿児島県でも独自に観光需要促進策を積極的に展開していきます。そこでは、今回のスタンプラリーで友だち登録をしてくれた人たちにも継続的な情報発信を行うことで、当県に足を運んでいただくきっかけを提供できればと考えています。
横山 LINEを活用したスタンプラリーは、継続して参加者のデータを蓄積できることが大きな特徴だと思います。これから実施回数を重ねて、データの蓄積量を増やしていけば、年齢や性別、居住地といった属性別の訪問先やルートなど、より細やかな情報を把握できるようになるでしょう。そのデータをもとにした事業改善や他の誘導策への活用など、ニーズを踏まえた効果的なプロモーションにつなげることができるのではないかと考えています。
柳邊 この7月には、今回と同じデジタルスタンプラリーを令和4年度も南九州3県で合同実施することが正式に決まりました。LINEを通じて参加者とつながり続け、リピーター獲得に向けたプロモーション施策を推進できるこのデジタルスタンプラリーを、観光業復活の起爆剤にしていければと思っています。
導入自治体
熊本県天草市の取り組み
「観光スポットの周遊促進」と「運営負担の軽減」を両立できる

当市は令和3年に、市内にある5ヵ所の「道の駅」を巡るスタンプラリーを実施しました。従来型の紙によるスタンプラリーでしたが、多くの方々にご参加いただき大変好評でした。一方で、私たち運営側の負担が大きいという課題がありました。というのも、スタンプを集めた参加者がすぐに懸賞に応募できるよう、それぞれの道の駅に応募箱を設置したのですが、個人情報漏えい防止などの観点からこまめに回収する手間がかかっていたのです。また、応募用紙の集計や取得情報のシステム入力作業も大きな負担でした。
そうした運営側の課題はあるものの、反響の大きさから令和4年度も周遊促進の施策としてスタンプラリーを実施することにしました。その際、デジタルスタンプラリーの仕組みをMARUKUから聞いたのです。システムによって懸賞応募に関する情報はデータとして自動集計され、職員が情報を入力する必要もないため、運営側の負担は大きく軽減されると期待。また、利用者が多いLINEがツールなので参加者も多く集まるだろうと、実施を決めました。スタンプラリーは夏休み期間中と今秋の実施を予定しています。運営側の負担が軽いため、道の駅以外にもたくさんの観光スポットを周遊ポイントに設定できます。多くの参加者に、天草市のいろんな場所を巡ってもらうきっかけになってほしいですね。
支援企業の視点
参加者に継続して情報発信できれば、リピーター獲得のPRにもつながる

―デジタルスタンプラリーを実施する自治体は増えていますか。
増えていますね。まだ実施にはいたっていなくても、コロナ後を見すえた自治体からの問い合わせは急増しています。そもそもスタンプラリーには、観光客の集客や周遊効果を高める効果が期待できます。それがデジタルになることで、実施の準備や懸賞に関する集計作業といった運営側の負担が大幅に軽減され、実施しやすい観光振興策の1つとして関心が高まっています。
―実施に際して、どのような点に留意すればいいのでしょう。
集客効果を上げるために、重要なのは、「一過性で終わらせない」ことです。そう考えた場合、当社のデジタルスタンプラリー『mawaru for LINE』は、その解になります。LINEを活用したシステムなので、専用アプリのダウンロードが必要なく、それだけで参加のハードルが下がり、高い集客効果を見込めます。また、LINEを使って参加者へ継続的に情報発信できるほか、参加者のさまざまな情報をデータとして蓄積し分析することで、リピーター獲得のPR戦略も立案できます。まさに、スタンプラリーを「一過性で終わらせないキャンペーン」にできるのです。
―今後、自治体をどのように支援していきますか。
当社では、東大発知識集団「QuizKnock」制作・監修のクイズをスタンプラリーに取り入れるなど、参加満足度をさらに高めるさまざまな企画も準備しています。デジタルスタンプラリーをどう実施すればいいか悩んでいる自治体を、きめ細かくサポートしていきます。
設立 | 平成29年7月 |
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資本金 | 100万円 |
売上高 | 2億2,600万円(令和4年6月期) |
従業員数 | 12人 |
事業内容 | 地方創生ICTサービス事業、Web制作のコンサルティング・制作・構築事業、デジタルコンテンツのコンサルティング・制作事業など |
URL | https://maruku.biz/ |
お問い合わせ電話番号 | 0967-72-9190 (平日 10:00~17:00) |
お問い合わせメールアドレス | sales@maruku.biz |
『mawaru for LINE』の詳細はこちら | https://mawaru.co.jp/line-stamprally/ |
*1:※GPS機能のほかに、二次元コードを読み取ってスタンプを獲得する方法もある