
※下記は自治体通信 Vol.48(2023年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
IoTを活用したスマート農業に取り組む自治体が増えている。効率的な収穫量の増加や、熟練者に限られた技術の平準化など、持続可能な農業の運営体制構築が求められているからだ。そうしたなか、舞鶴市(京都府)では、同市発祥であり「京のブランド産品」に認定されている「万願寺甘とう」の栽培にスマート農業を導入し、有益なデータ結果を得たという。同市担当の吉田氏に、導入の背景やデータ結果の詳細を聞いた。

栽培管理が難しく、収穫量の差が大きかった
―舞鶴市がスマート農業に取り組んでいる背景を教えてください。
地域全体における「万願寺甘とう」の収穫量を底上げするためです。当市の伝統野菜である万願寺甘とうは栽培管理が難しく、生産者によって収穫量の差が大きいという課題がありました。万願寺甘とうは共選・共販方式*1で市場に出荷されており、価格の安定や市場の需要に応えるためには、出荷数量を全体で安定的に増やす必要があったのです。そこで、平成30年に地域活性化を目的とした連携に関する協定を結んでいたKDDIと当市、さらに、当市の生産者で構成された「京都丹の国農業協同組合舞鶴万願寺甘とう部会」および京都府が協力し、スマート農業を進めていくことにしたのです。
―どのように取り組みを進めていったのですか。
令和元年の11月頃に関係団体が集まって話し合った結果、「高収量生産者の栽培環境を見える化して有効活用できないか」という話になりました。そこで、当市の高収量生産者5人の協力を得て、各圃場にIoTセンサーを設置。温湿度や日照、地温などのデータを収集し、クラウド上でグラフ化して共有・分析を行う実証実験を令和2年3月から開始したのです。その後、定期的にWeb会議を実施し、関係団体で分析や議論を重ねていきました。令和3年には、綾部市や福知山市の高収量生産者3人を京都府によって新たに追加。また、一定基準に達すると病害が発生する可能性が高まることから、平成4年にはアラート機能を実装する、といった改善を少しずつ重ねていったのです。
得られたデータを、横展開していく予定
―取り組みの成果は出ましたか。
気温が日平均23~27℃、地温が日平均22~26℃、日照が日積算10.6MJ/m2*2以上という条件下であれば、生育が良かったとのデータ結果が出ました。生産者からは「なんとなく肌で感じていた良い栽培条件が、数値化された」などの声が聞かれましたね。
―今後におけるスマート農業の取り組み方針を教えてください。
データを横展開し、万願寺甘とう栽培のお手本として活用する予定です。一軒の生産者が取り組むIoTは限定的ですが、産地全体でスマート農業を活用し、関係団体が連携したこの取り組みは、アナログも活用した最先端の取り組みだと自負しています。KDDIにはIoTの提供やデータの分析はもちろん、事前に綿密なヒアリングをしてもらい、全体のまとめ役としても貢献してもらいました。今後もスマート農業を改善しつつ、当市が掲げる「ITを活用した 心が通う 便利で心豊かな田舎暮らし」を目指していきます。

―自治体がスマート農業に取り組むうえでのポイントはなんでしょう。
まず、スマート農業に取り組む目的を明確にすることですね。「収穫量を上げる」「品質を向上させる」など、最終的なゴールをあらかじめ設定しておく必要があります。単に「スマート農業に取り組む」など、手段を目的化してしまうと「そもそもなにをやりたいんだったっけ」となりかねません。当たり前の話に聞こえますが、じつは、見過ごされがちなポイントです。また、ソリューションありきでスタートしないことです。地域の環境や扱っている農作物によって、課題はさまざま。それぞれの課題を解決するのに最適なソリューションを選び、活用すべきです。当社の場合、この2点に留意したうえでスマート農業の提案を行っています。
―具体的にどのような提案を行うのですか。
まずは自治体の方々と膝を突き合わせて、スマート農業でなにを実現したいかをじっくりヒアリングします。我々はIoTに関する知識はありますが、農業のプロではありません。そのため、必要であれば関係団体を巻き込み、ディスカッションする場を設けます。そうしたプロセスを経たうえで、適切なソリューションを提供し、目的達成のために伴走支援をするのです。
―自治体に対する今後の支援方針を教えてください。
このように技術と対話の両輪で、一次産業の発展に貢献したいですね。そして、自治体の方々と一緒に地域の活性化を目指していきます。
創業 | 昭和59年6月 |
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資本金 | 1,418億5,200万円 |
売上高 | 5兆4,467億円(令和4年3月期) |
従業員数 | 4万8,829人(連結) |
事業内容 | 電気通信事業 |
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