※下記は自治体通信 Vol.53(2023年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
DXの推進が自治体の重要テーマとなるなか、システム導入によって業務改善を図る事例が増えている。原村(長野県)では、職員の業務負担の重さが深刻だった人事評価業務のシステム化を図り、大きな成果をあげたという。同村副村長の清水氏は、「人事評価システムの導入は、組織の風土を変えるきっかけになった」と評価する。その詳細やシステム導入の経緯などについて、総務課の行田氏も合わせた2人に話を聞いた。
[原村] ■人口:8,103人(令和5年8月31日現在) ■世帯数:3,552世帯(令和5年8月31日現在) ■予算規模:65億1,772万5,000円(令和5年度当初)
■面積:43.26km² ■概要:長野県の中央、諏訪盆地の南東に位置する。360°の眺望の中に日本有数の山々を眺めることができ、東には雄大な八ヶ岳連峰を間近に擁し、西に諏訪湖、そのはるか後方に北アルプス連峰、南に南アルプス甲斐駒ケ岳、北に蓼科山や霧ケ峰などを望む。国史跡阿久遺跡、村史跡臥竜遺跡などに代表される縄文時代を中心とした遺跡の宝庫で、村内の尾根上などには多くの遺跡が埋蔵されているほか、住居跡や土器、石器が発見されている。
紙による煩雑な作業に追われ、面談に手が回らない場面も
―原村では、どのような方針で人事評価を行ってきたのですか。
清水 当村では、人事評価制度の運用にあたっては、公平性をいかに担保し、被評価者の納得感を高められるかを重視してきました。その前提として、評価や業務に対する意識をすり合わせ、組織として目的意識を共有するため、人事面談の実施にも力を入れてきました。
行田 その一方で、感じていた課題もありました。それは、一連の人事評価業務が表計算ソフトとそれを印刷した紙をベースに運用していたことによる事務負担の重さです。人事担当者は期末の取りまとめや内容チェックといった作業だけで数日を要し、超過勤務が常態化していました。部下の評価を行う管理者の負担も重く、紙による煩雑な事務作業に追われ、重要な人事面談に手が回らないといった場面もあったようです。人事担当の我々としても、一次評価、二次評価と進む各部署での進捗状況さえ把握できない状態にあったため、システムの導入による業務改善が必要と判断しました。
―システム化はどのように進めていったのでしょう。
清水 令和元年度からの導入を目指し、複数のシステムを比較検討した結果、人材育成支援システム『ざいなる』の導入を決めました。制度の公平性を担保するうえで重要なのは、期初の設定目標の妥当性ですが、『ざいなる』では目標のレベルやウエイトを自由に設定・調整できる機能があり、これまで以上に緻密な評価ができる点を評価しました。また、評価結果が数値化して示され、主観や印象論が排されている点、さらに評価結果について部署を越えた甘辛診断など分析がしやすい点も、評価への納得感を高められると感じました。業務の効率化だけではなく、人事評価制度の運用改善にもつながると期待したのです。
的確な目標設定のコツを、個々の職員がつかみ始めた
―導入効果はいかがですか。
行田 各部署からの評価データが自動で集計されるようになり、期末における管理職や人事担当の取りまとめ作業は大きく効率化されました。その結果、当村がこれまで重視してきた人事面談が手薄になるといったこともなくなったようです。システムを介して評価者・被評価者双方の動きが透明化されたことで、進捗管理が可能になっただけでなく、評価に対する納得感も高まっていると感じます。
清水 『ざいなる』の運用によって、個々の職員が徐々にコツをつかみ、的確な目標設定ができるようになったことも大きな成果です。その結果、当村では令和4年度から職員の設定目標を全庁的に開示するように運用を改めました。このことが、自身の役割はもとより、周囲の業務や目的を理解しながら目標を共有する強い組織への基盤づくりにつながっていると実感しています。
職員の能力向上が必要な今こそ、人事評価のシステム化を図るべき
株式会社内田洋行
自治体ソリューション事業部 東日本営業部 営業2課
桑島 尚吾くわしま しょうご
平成8年、大分県生まれ。平成31年4月に株式会社内田洋行に入社。令和元年7月より現職。
業務の複雑化、多様化が同時に進む昨今、職員の能力向上や組織力の強化が重要だと考える自治体が増えています。そのためには、人事評価制度を適切に運用し、公平な評価を行うことが前提になります。しかし、現在も紙ベースでの運用による膨大な事務作業に追われ、人事評価の運用改善を必要とする自治体が多いようです。今こそ人事評価のシステム化を図るべきです。
人事評価システムの導入で、システムに求めるべきは「使いやすさ」と有用な「分析機能」だと当社は考えています。特に、基本的に全職員が使う人事評価システムは、誰もが使える分かりやすさは必須の条件になります。今回登場の原村からは、「人事評価システムの導入が、職員のデジタル化への意識を醸成し、庁内DX推進の先駆けになった」との評価もありました。
設定目標の妥当性診断が「評価の公平性」担保のカギに
ICTコンストラクション株式会社
内部情報ソリューション部 HRソリューション課 課長
田上 公洋たのうえ きみひろ
昭和52年、熊本県生まれ。平成12年4月に行政システム九州株式会社へ入社。その後、グループ会社であるICTコンストラクション株式会社に転籍。平成26年より人材育成支援システムの企画・開発に従事。
人事評価における課題として、多くの自治体が指摘するのは「評価の公平性」をいかに担保するかです。昨今重要視されているのは、評価者による評価基準のバラつきのほか、目標設定が適切かという問題です。職員のキャリアアップをテーマに開発された『ざいなる』では、集計結果をもとに部署ごとの評価傾向を分析できるほか、設定目標を分解し、各部署の目標設定の妥当性を評価することもできます。当社では、多くの自治体への導入実績を背景に、現場の声を反映した新たな機能開発にも力を入れています。今後も職員の能力開発や組織力の向上につなげられるシステムを提供していきます。