※下記は自治体通信 Vol.60(2024年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
日々の業務が繁忙を極めるなか、限られた数の職員で行政運営の持続可能性を担保するために、職員個々の能力や組織力をいかに高めていくか。この問題意識のもとで、いま人事評価制度の運用改善を図る自治体が増えている。日向市(宮崎県)では、人事評価に専用システムを導入することで、評価の公平性や職員の納得感を高める制度運用を実現しているという。取り組みの詳細を、同市担当者2人に聞いた。
[宗像市] ■人口:9万6,769人(令和6年7月31日現在) ■世帯数:4万5,051世帯(令和6年7月31日現在) ■予算規模:739億5,000万円(令和6年度当初) ■面積:119.94km² ■概要:北九州市と福岡市の両政令指定都市の中間に位置し、北を除く3方向を山に囲まれ、玄界灘に大島、地島、沖ノ島、勝島を有している。沖ノ島に宿る神を崇拝する伝統が、古代東アジアにおける活発な対外交流が進んだ時期に発展し、今日まで継承されてきたことを物語る稀有な物証として、平成29年7月にユネスコ世界文化遺産に登録されている。
手作業による集計に追われ、評価結果を有効活用できない
―人事評価の専用システムを導入した経緯を教えてください。
矢野 当市では、平成20年に策定した「人材育成基本方針」のもと、職員一人ひとりの能力を高め、組織力を強化していくことを目的に、人事評価制度を運用してきました。その後、国の方針に沿って、この人事評価結果を処遇に反映させる方針も定めていますが、その前提となる評価結果の集計や分析に多大な時間と労力を使っており、ここに課題を感じていました。
小泉 というのも、それまでは紙と表計算ソフトを使って運用していたため、約600人分のシートを手作業で集計しなければならなかったからです。集計だけでも大変で、本来の期限通りに集計をまとめられないケースもあり、それを分析し、評価結果を活かす取り組みに力を注げない状態にありました。職員課の負担軽減と評価結果の集計・分析プロセスの改善を目的に、令和3年度からシステム化の検討に着手したのです。
―その後、システム化はどのように進めたのですか。
小泉 システム選定にあたっては、おもに3つのポイントを重視しました。1つ目は、約600人の職員が利用するシステムであることから、直感的に操作ができるシステムとしての使いやすさです。2つ目は、これまで当市が運用してきた人事評価のシート様式を踏襲し、大きな違和感なく利用できるインターフェースであること。そして3つ目が、庁内で運用中の人事給与システムとの連携ができることです。これらを条件に複数のシステムを比較検討し、人材育成支援システム『ざいなる』の導入を決めました。令和5年4月から運用を開始しています。
97%の職員が示した、評価制度に対する「納得感」
―運用効果はいかがですか。
矢野 集計・分析作業にまつわる職員課の負担は大きく軽減されました。各課における人事評価の進捗も一目で把握できるようになったこともあり、集計から分析までを含めても3月半ばには終えられるようになりました。評価結果が「見える化」されたことで、評価の客観性や公平性がこれまで以上に担保されるようになったと評価しています。今年度から評価結果を処遇に反映するのですが、そのための体制が整備できました。
小泉 システム運用後に行った庁内アンケートによると、じつに97%の職員が現在の人事評価制度に対して「納得感がある」と回答していますが、そこにはシステム導入による効果もあるかもしれません。実際に、運用面において半数以上の職員が「システム化して良かった」と回答しています。
今後は、『ざいなる』の機能を日常的に活用し、組織の目標共有や目標到達への進捗管理も図っていきたいと考えています。
運用が複雑化する人事評価には、柔軟性に優れたシステムで対応を
ICTコンストラクション株式会社
マーケティング推進部 ソリューション営業課 セールスコンサルタント
岩本 ゆかいわもと ゆか
平成元年、福岡県生まれ。ICTコンストラクション株式会社にて、平成30年9月より人材育成支援システムの販売促進活動に従事。
―人事評価をめぐり、自治体にはどのような課題がありますか。
いまも紙や表計算ソフトを使って人事評価を運用している自治体では、集計に多くの時間と労力が費やされています。また、評価の公平性を担保するために制度が複雑になっているうえ、評価制度に変更が加わるたびに、シートの様式を編集したり、計算式を設定し直したりするためにマクロを組むといった作業は、人事担当部門の大きな負担になっています。こうした負担を軽減し、人事評価制度の運用を改善するために、当社では、人材育成支援システム『ざいなる』を提案しています。
―特徴を教えてください。
制度の変更や運用の見直しが起こった場合にも追従できるシステムの柔軟性が特徴です。パラメーターを設定し直したり、新たな項目を追加したりすることが自由にできるため、標準搭載している機能だけで変化に対応できます。入力画面の編集においても自由度が高く、従来の用紙レイアウトに近い形で設定できるため、システム化によって視認性が大きく変わるようなことはなく、スムーズなシステム移行を実現します。使いやすさにもこだわり、人事評価を楽しく、ポジティブに感じてもらえる工夫を随所に加えているのも特徴です。
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
当社では、導入後の運用段階においても、自治体の現場を熟知したSEが円滑に運用するための手厚いサポートを行っています。人事評価の運用改善に向けて、ぜひお問い合わせください。
人事評価システムの導入②
人事評価のシステム化で組織力を高め、理想の職場環境を実現する
ここまで登場した日向市同様、人事評価のシステム化を通じて、人事評価の運用改善だけでなく、組織目標の共有、さらには人材育成の強化につなげているのが宗像市(福岡県)である。同市では、「自律型人材の育成」を掲げる人材育成ビジョンのもと、施策の強化を図っているが、そこにシステムが一役買っているという。ここでは同市担当者2人に、取り組みの詳細とともに、システム導入の効果などを聞いた。
[宗像市] ■人口:9万6,769人(令和6年7月31日現在) ■世帯数:4万5,051世帯(令和6年7月31日現在) ■予算規模:739億5,000万円(令和6年度当初) ■面積:119.94km² ■概要:北九州市と福岡市の両政令指定都市の中間に位置し、北を除く3方向を山に囲まれ、玄界灘に大島、地島、沖ノ島、勝島を有している。沖ノ島に宿る神を崇拝する伝統が、古代東アジアにおける活発な対外交流が進んだ時期に発展し、今日まで継承されてきたことを物語る稀有な物証として、平成29年7月にユネスコ世界文化遺産に登録されている。
先進的な人事制度にも、形骸化などの課題が浮上
―宗像市が人事評価をシステム化した経緯を教えてください。
中村 当市では、平成14年度から人事考課を導入しており、評価結果の処遇反映も先駆けて行ってきました。その後、策定した「人材育成ビジョン」のもと、「自律型人材の育成」に力を入れており、これまで職員の活躍によって「団地の再生」や「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群の「世界遺産登録」といった成果をあげることができました。
青木 一方で、長年の運用で課題も浮上しており、重視してきた人事面談の形骸化や、組織目標の共有の希薄化といった指摘が出てきているのも事実です。また、人事課の立場からは、これまで人事考課の結果は表計算ソフトを使って運用してきたため一元管理ができておらず、評価の経年変化を把握することが難しかったといえます。加えて、法改正対応やOSのバージョンによりソフトが作動しなくなることも課題でした。こうした課題を受け、人事評価をシステム化することで一元管理を図り、制度運用を改善しようと考えました。
―どのように進めたのでしょう。
青木 令和2年秋からシステム選定を開始し、複数の人事評価システムを比較検討しました。その結果、直感的に使いこなせる点や、従来の評価シートと変わらぬ様式をシステム上で再現できる点などを評価し、人材育成支援システム『ざいなる』を選定。令和4年4月から運用を開始しています。
実現した効率化で集計作業は、100時間以上から20時間へ
―運用効果はいかがですか。
青木 『ざいなる』では、個々人の設定目標は、システム上で組織の設定目標と紐づけるように設定されているため、各職員は必ず組織目標を意識するようになりました。その結果、業務理解が進み、職員のモチベーションアップにもつながっているとの声が寄せられています。また、人事課で行う集計作業は、前任者の時代に100時間以上を要していましたが、現在は20時間以内に終えられるようになりました。
中村 ここで空いた時間は、人材育成施策の企画検討に充てています。当市では、令和6年度の重点施策の1つに「人への投資」を打ち出しています。その方針のもと、令和5年度に新設された人材育成係では現在、「人材育成ビジョン」の改定作業を進めながら、研修メニューの充実といった人材育成環境の整備を精力的に進めているところです。
―今後のシステムの運用方針を聞かせてください。
青木 『ざいなる』の機能を活用した360度評価や上司評価など新たな仕組みの導入も検討し、より納得感の高まる人事評価制度の確立に役立てていきたいです。その先には、「働きたい、働き続けたい職場」という当市が理想に掲げる職場環境を実現していきたいと考えています。
システム化による適切な人事評価は、組織風土の改善にもつながる
ICTコンストラクション株式会社
マーケティング推進部 ソリューション営業課 セールスコンサルタント
松崎 優衣子まつざき ゆいこ
平成11年、福岡県生まれ。ICTコンストラクション株式会社にて、令和6年4月より人材育成支援システムの販売促進活動に従事。
―人事評価をめぐる自治体の課題をどのように見ていますか。
近年、人事評価の結果を人材育成の基礎データとして活用したいと考える自治体は増えていますが、紙や表計算ソフトでの運用では煩雑な集計作業の負担が重く、それが実現できていないケースは多いようです。人事評価本来の目的を果たすために、当社では人材育成支援システム『ざいなる』の導入が有効な手段になると考えています。
―どのような効果がありますか。
『ざいなる』を活用することで、「適切な評価」を効率的に行うことができます。評価の基準となるべき重要な目標設定は、組織目標を確認しながら、それに紐づけて設定していく仕組みです。そのため、職員は組織が向かう方向性に沿った努力ができ、それに見合う適切な評価を受けやすくなります。個人のモチベーションアップは組織力の向上や組織風土の改善にもつながるはずです。また、業務の効率化で生まれた時間や余裕は、行政サービスの提供に向けられ、住民の満足度向上にもつなげられると期待できます。
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
当社では、導入自治体の声を新たな機能開発につなげており、年に2回のバージョンアップで、つねに最新の開発成果を提供しています。システム上で適切な人事配置を検討できる機能のほか、近日には、年度単位の雇用職員の評価者にも配慮した新たな機能もリリース予定です。人事評価に課題を感じているみなさんは、ぜひお問い合わせください。