※下記は自治体通信 Vol.53(2023年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
国を挙げての自治体DXが進められるなか、システム化によって学校現場における教職員の業務負担軽減を図ろうとする自治体が現れている。口座振替やコンビニ決済などによって事業者が自治体に代わって集金を行う「集金代行サービス」を導入し、市立の小中学校における学校徴収金の徴収業務をシステム化した熊本市(熊本県)も、そうした自治体の1つだ。同市教育委員会の北本氏に、取り組みの経緯や、その効果について聞いた。
[熊本市] ■人口:73万7,174人(令和5年8月1日現在) ■世帯数:33万7,670世帯(令和5年8月1日現在) ■予算規模:6,971億8,323万6,000円(令和5年度当初)
■面積:390.32km² ■概要:熊本県のほぼ中央部に位置。有明海に面し、坪井川・白川・緑川の3水系の下流部に形成された熊本平野の大部分を占めている。豊臣時代に建設された熊本城の城下町として、肥後熊本の政治・文化・経済における中心となった。現在の産業はサービス産業が中心で、IC産業、都市型農業、水産業など各種産業も展開されている。
熊本市
教育委員会事務局 教育総務部 教育政策課 参事
北本 陽子きたもと ようこ
現金による管理が、教職員の心理的負担に
―熊本市が、学校徴収金の徴収業務に集金代行サービスを導入した経緯を教えてください。
従来は、児童・生徒が徴収金の入った集金袋を学校へ持参して教職員に手渡すという、学校現場で現金を取り扱う方法で徴収していました。教職員は一つひとつの集金袋から現金を取り出して金額を確認し、表計算ソフトなどで集計する必要があったのです。その作業自体に手間と時間がかかるうえに、集めたお金を自校の口座へ入金するまで現金で管理することは教職員にとって心理的な負担でした。そこで、DXによる教職員の働き方改革の一環として、徴収業務のシステム化を検討しました。
―どのように検討を進めたのでしょうか。
当市では、令和2年度から学校徴収金のうち給食費のみを公会計化し、原則として口座振替で徴収することが決まっていました。そこで、給食費以外の学校徴収金も口座振替で徴収する方向で検討を進めました。口座振替ならば、手作業での集計も現金の管理も基本的には不要になり、教職員の業務効率化につながると考えたからです。そうしたなか、市と金融機関との間で口座登録手続きや口座振替請求業務は発生するものの、保護者と学校の負担を軽減できる「集金代行サービス」の導入を決定。複数の事業者を検討した結果、令和2年度からリコーリースのサービスを導入することに決めました。
―導入の決め手は、なんだったのでしょう。
まず、利用できる金融機関が多く、振替手数料が低いため、保護者の負担を抑えられる点です。加えて、市として契約しても各学校が徴収金を独自に請求でき、徴収金が各学校の指定口座に入金される「部課所管理機能」がある点も魅力でした。この機能を利用すれば、保護者から回収した徴収金を市が各学校の口座に振り込むという業務は発生せず、各学校の口座への入金にかかる時間を短縮できます。また、口座振替だけでなく、「コンビニ決済」を利用できる点も決め手の1つでした。急な転入などの事情により口座振替を利用できない家庭の児童・生徒がいても、教職員は現金で徴収する必要がなく、口座振替と同じシステムで管理できるからです。
DXによる業務効率化に、徹底して取り組んでいく
―集金代行サービスの利用で、得られた成果を教えてください。
教職員は手作業による学校徴収金の回収・集計が不要になり、徴収状況をWeb上の管理画面から一目で確認できるようになりました。そのため、物理的にも心理的にも負担が大きい現金での徴収業務から、教職員の多くは解放されたと聞きます。徴収業務のシステム化で得た成果を広げていく形で、今後はほかの業務にもDXの取り組みを波及させ、教職員の働き方改革につなげたいと考えています。
契約を自治体に一本化できれば、域内全校でシステム化を進められる
内海 真うつみ まこと
昭和52年、神奈川県生まれ。平成12年に大学を卒業後、平成16年にリコーリース株式会社に中途入社し、令和元年から現職。
リコーリース株式会社
BPO本部 決済営業課 アシスタントマネージャー
若林 悠也わかばやし ゆうや
平成2年、宮城県生まれ。平成26年に大学を卒業後、平成29年にリコーリース株式会社に中途入社し、令和3年から現職。
―自治体が集金代行サービスを導入する際に、注意すべきポイントはなんでしょう。
内海 教職員だけではなく、保護者や自治体にもメリットがあるサービスを選ぶことです。たとえば当社の集金代行サービスでは、保護者が口座振替とコンビニ決済の2つの支払い手段を利用できます。自治体にとっては、「部課所管理機能」の存在が大きなメリットになります。
―どのような機能ですか。
若林 自治体が契約者であっても、各校が学校徴収金を請求・管理できる機能です。これにより、契約を自治体に一本化しても自治体は業務負担を抑えられ、域内全校ぶんの集金代行サービスを用意しやすくなります。自治体が用意すれば、各校で導入サービスを検討する必要がなくなり、徴収業務のシステム化が域内全校で一気に進むはずです。さらに、自治体は各校の請求漏れや利用状況をチェックでき、徴収業務の適正化も図れます。
―自治体に対する今後の支援方針を教えてください。
内海 自治体や学校の運用に寄り添った提案・取り組みを継続していきます。今後はサービス拡充に加えて、徴収業務のシステム化に関する出張講座やWebセミナーといった情報発信も積極的に行いながら、学校現場のDX推進に貢献する方針です。