※下記は自治体通信 Vol.57(2024年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
公金の収納・還付手続きは、住民や金融機関との間の手続きが煩雑であり、DXによる効率化が必要と指摘される業務の代表格といえる。これに対し、相模原市(神奈川県)では、専用システムの導入によって庁内業務の効率化を果たしたのにとどまらず、期限内納付率の向上などの成果もあげているという。ここでは、同市の担当者2人にシステム導入の経緯とその効果について聞いた。
[相模原市] ■人口:72万3,785人(令和6年3月1日現在) ■世帯数:34万5,281世帯(令和6年3月1日現在) ■予算規模:5,781億3,875万1,000円(令和6年度当初) ■面積:328.91km² ■概要:神奈川県の北部に位置する政令指定都市。森林や湖、川などの自然豊かな景観の中でキャンプやハイキング、釣りなどが楽しめる緑区、桜の名所や小惑星探査機「はやぶさ2」など宇宙科学研究の拠点となっている「JAXA相模原キャンパス」がある中央区、利便性に優れ、大規模商業地として活気のある南区の3区で構成されている。
手続きが煩雑で、口座振替への移行は進まず
―公金収納業務でシステム化を進めた経緯を教えてください。
橋本 当市の公金収納は、口座振替のほか、ATMやコンビニ、クレジットカードによる支払いなどに対応してきました。これまでも、確実な期限内納付が期待できる口座振替への切り替えを推奨してきました。しかし、市か金融機関の窓口で紙の申請書類を直接提出する必要があるなど、市民にとってはその手続きが煩雑で、切り替えは進んでいませんでした。この切り替え促進と同時に、担当職員の業務効率化の観点からも、手続きを簡便にする必要があると考え、システム化を検討しました。
―業務負担は大きかったと。
橋本 はい。手書きの申請書類は、判読が難しい場合や誤記載があるので、そのたびに確認や差し戻しの手間が発生し、年間数千件の処理に伴う業務負担は問題となっていました。そこで、口座振替手続きのシステム化で先行する複数の自治体にヒアリングしたところ、もっとも多くの導入実績があり、マルチバンク対応による高い利便性やLGWAN対応の安心感も確認できたヤマトシステム開発のシステムを選定し、「Web口座振替受付サービス」として令和3年度から導入しています。
―どのようなサービスですか。
橋本 市のHP上の受付窓口から申請を行うと、その情報が金融機関に送られ、市を介さずに口座振替登録が完了する仕組みです。後日、口座情報は同社からLGWANを介して送られてくるので、セキュアな環境で管理できます。金融機関への照会作業がなくなり、職員の業務負担は格段に軽減されました。Web口座振替の利用割合は年々増加し、現在では35%を超えていて、期限内納付率の向上にもつながっています。
石原 この実績を評価し、同じくデジタル化が課題となっていた還付業務でも、令和6年度から同社のシステムを導入し、「オンライン還付金請求受付サービス」として開始することを決めました。
公金受取口座情報を自動取得
―どういった仕組みですか。
石原 Web上から24時間365日いつでも還付金請求手続きができ、後日、同社から口座情報がLGWANを介して送られてくる流れは「Web口座振替受付サービス」と同様です。この定型業務の効率化で、職員リソースをコア業務へ振り分けられます。さらに同サービスでは、マイナポータルとのAPI連携で、「公金受取口座」情報を自動取得できます。従来は情報取得に手間がかかるため、当市では公金受取口座を指定した受け取りができていませんでした。
橋本 今回の「税務DX」によって、市長が掲げる「行かない市役所」に一歩近づいたと自負します。
システム化とBPOの活用で、税務にまつわる住民接点の改善を
ヤマトシステム開発株式会社
ソリューション事業本部 ビジネスソリューション部 アソシエイト
吉田 晶子よしだ しょうこ
ヤマトシステム開発株式会社入社後、技術職として民間企業の業務自動化支援を担当。令和2年より、おもに自治体に対するソリューション営業および企画担当として従事。
―公金収納や還付の業務では、今も紙による手続きは多いですか。
多いですね。しかし、税務関連の手続きは金銭のやり取りにかかわるうえ、住民接点も生まれる重要な業務なので、効率化やデジタル化への問題意識は各自治体の間でとても高いです。特に口座振替による公金収納の効率化は、期限内収納や収納率の向上といった観点からも、住民に推奨している自治体は多いです。しかし、その切り替え手続き自体が紙ベースのため、思うように切り替えが進んでいないようです。一方、還付業務でも事情は同様で、紙ベースの手続きが多く残っており、職員の業務負担や住民の利便性の観点から、効率化やデジタル化が必要とされています。そこで当社では、今回相模原市が導入しているそれぞれのサービスを、『公金収納支援サービス』『還付業務効率化サービス』という名称で自治体に提案しています。
―どのような効果がありますか。
デジタル化によって、これまで職員が行ってきた書類の確認作業のほか、書類の不備や誤記載への対応は必要なくなり、業務負担は大きく軽減できます。すでに130を超える自治体に導入されており、口座振替の登録件数の増加、収納率の改善といった具体的な成果もあげています。
還付業務に関しては、デジタル化の提案のほかに、BPO*による業務改善の提案も行っています。請求書情報や口座情報のデータ化、住民への通知書の発送といった周辺業務も請け負うことで、税務担当職員の業務負担軽減を総合的に支援していきます。ぜひお問い合わせください。
*BPO: Busuiness Process Outsourcingの略。業務プロセスの一部を一括して専門業者に外部委託すること