※下記は自治体通信 Vol.59(2024年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
いま、多くの自治体が「ゼロカーボンシティ」を相次ぎ宣言し、脱炭素化に向けた取り組みを進めている。公用車の電気自動車(以下、EV)への転換も、その代表的な取り組みの1つとなっている。そうしたなか、岸和田市(大阪府)ではリユースEV(中古の電気自動車)の活用可能性を検証するための実証実験を進めている。リユースEVに着目した理由や、実証実験に期待する成果などについて、同市市長の永野氏に聞いた。
[岸和田市] ■人口:18万7,290人(令和6年6月1日現在) ■世帯数:9万351世帯(令和6年6月1日現在) ■予算規模:2,076億2,674万円(令和6年度当初) ■面積:72.72km² ■概要:大阪府南部に位置する。大阪湾に臨む中心市街は寛永年間(17世紀初め)以降、岡部氏の城下町として発達し、明治中期以後は泉州綿織物を主とする紡織工業都市として発展。金属、機械器具、レンズ工業も行われ、臨海部の埋立地には昭和41年以降、木材コンビナート、鉄工団地が建設された。古くから「城とだんじりのまち」として知られる。水産業も盛んで、府内屈指の漁獲量を誇る。
公用車を用いた実証実験で、EV利用への不安を払拭へ
―リユースEVの実証実験を始めた経緯を聞かせてください。
海や山など比較的自然に恵まれた岸和田市は、古くから一次産業が盛んで、漁獲量や農業産出額は大阪府内で最大規模を誇っています。都市部では商工業も栄えました。こうした産業を今後も維持・発展させていくために、脱炭素化は当市にとって非常に重要なテーマです。そこで当市は令和3年に「ゼロカーボンシティ宣言」を表明し、地球温暖化対策実行計画「事務事業編」の策定に着手しました。そのタイミングで、住友三井オートサービス(以下、SMAS)から、EVに関する実証実験の提案を受けたのです。その内容は、業務でリユースEVを一定期間使用し、バッテリー診断などによる検証を経て、その活用可能性を探っていくというものです。
―その提案をどのように受け止めましたか。
大変意義のある取り組みになると直感しました。この実証実験では、EV普及のハードルとなっている「費用」や「性能に対する不安」といった課題の解決策を検証します。この検証に公用車を走らせて取り組むことは、EV利用への市民のためらいや不安を払拭するのに有効だと考えました。また、当市を舞台にこの実証実験を行うことにも意味があります。EVは、どのような道路をいかに走行するかでバッテリーの劣化度合いが異なると言われます。そのため、海も山も住宅地もある当市でEVの活用可能性を探ることは、広く泉州地域におけるEVの活用モデルづくりにつながると考えたのです。
そこで我々は令和6年2月に3台のリユースEVをリース方式で導入するとともに実証実験を展開しています。
EV以外にも探れる、バッテリー利活用の可能性
―実証実験には、どういった成果を期待していますか。
大きく3つの観点に分けた検証を通じ、それぞれの成果を目指しています。1つ目は、「リユースEVの耐用性」に関すること。ここではたとえば、「バッテリーの充電能力を低下させない運行ノウハウの蓄積」などを成果として目指しています。低価格のリユース車でも十分に活用できることを証明できれば、広くEVのリユースの促進にも寄与できるものと期待しています。2つ目は、「公務に馴染むEV運用の見極め」です。具体的には、公用車としての運用に適した車種や用途、運行・管理方法を特定し、庁内でのリユースEVの導入拡大を目指します。
3つ目は、「バッテリーの再利用」の可能性を探る検証です。
―バッテリー単体にフォーカスする狙いはなんでしょう。
バッテリーは、劣化によってEVを駆動させるのに十分な最大容量を確保できなくなっても、インフラとして活用できる可能性が大きいからです。たとえば、近年開発が進むEV用交換式バッテリーは、街路灯や非常用電源などに転用できます。私はこの交換式バッテリーに大きな将来性を感じており、「バッテリーを専用ステーションで交換し、その容量の差分を対価として支払う」といったインフラ構想を考えています。今回の実証実験では、そうした構想の実現可能性も探っていきたいです。
―脱炭素化の実現に向けた今後の方針を聞かせてください。
市民とともに脱炭素に取り組んでいくために、多くの人々に身近な自動車は重要な存在です。EVにはまだ、「高額で実用面でも不安」というイメージがありますが、今回の実証実験でそのイメージを払拭し、EVを「手頃な価格でも購入できる、身近で便利な車」にしていきたいです。そのために今後も、EVやモビリティに関する幅広いソリューションを持つSMASを良きパートナーとして、EVの導入や活用を促していきます。
公用車へのリユースEV活用②
公用車への積極的な「リユース車調達」。EVだからこそ実現できる
ここまで紹介したように、岸和田市ではリユースEVの活用可能性を探る実証実験を進めている。ここでは、実証実験を主導する同市環境保全課の北川氏を取材。現場視点から見た、実証実験の手応えについて聞いた。
岸和田市
市民環境部 環境保全課 環境政策担当 主幹
北川 直正きたがわ なおまさ
職員がEVへの理解を深める機会にもなっている
―実証実験の進捗状況を教えてください。
現在は、GPS受信機などを搭載した3台のEVを業務で使用しながら、EV利用に関するデータの蓄積を進めているところです。具体的には、充電の頻度や運転中に出す最高速度、連続運行時間、走行した路面の傾斜、外気温などです。こうした要素がバッテリーの劣化に与える影響度合いを検証しています。このようにさまざまなデータを集めて分析することは、我々が将来、リユースEVの調達を拡大していくうえで非常に重要な意義があると考えています。
―それはなぜでしょう。
リユース車を調達する際の仕様書において、部品の劣化状況に関する条件を明確な指標で示せるようになるためです。たとえば、EVの動力源については、バッテリー容量の劣化状態を示す「SOH*」が何%以上といったように、具体的な数値で条件を設定できるようになります。これに対してガソリン車の場合、エンジンの劣化を数値化できないため、リユース車の調達条件を設けることは容易ではありません。財政負担を抑えられるリユース車を公用車として積極的に調達することは、EVだからこそ実現できると思っています。
―実証実験では今後、どういった検証を行っていきますか。
「バッテリー残量への不安感など、リユースEV利用時の職員心理」、「新車EVやガソリン車と比較したリユースEVの経済的メリット」といった検証に着手していきます。具体的な結果を示せるのはこれからですが、多くの職員は初めてEVに触れるなかでその使い勝手を知り、EVそのものに対する理解が深まってきた手応えを得ています。EVへの転換を率先していく自治体として、これも重要な成果と捉えています。
*SOH : State of Healthの略。バッテリーの「健全性」とも訳される
公用車に「リユースEV」という選択肢。実現のカギは「循環経済モデル」の確立
これまでは、公用車へのリユースEV活用に関する岸和田市の取り組みを紹介した。ここでは、同市の取り組みを支援するSMASを取材。EV導入をめぐる自治体の動向や、リユースEVを活用した実証実験を提案した背景などについて、同社の田中氏に聞いた。
住友三井オートサービス株式会社(SMAS)
常務執行役員 営業部門長補佐 (西日本担当) 兼 近畿圏営業本部長
田中 義人たなか よしと
昭和41年、兵庫県生まれ。平成元年、神戸商科大学(現:兵庫県立大学)を卒業後、太陽神戸銀行(現:株式会社三井住友銀行)に入行。姫路法人営業部長などを歴任後、平成30年、住友三井オートサービス株式会社に入社。令和6年4月より現職。西日本の営業部門を統括。
―EV導入をめぐる自治体の動きをどのように見ていますか。
脱炭素化の機運向上に伴い、公用車のEV転換を方針に掲げる自治体が急増しています。一方、ガソリン車と比べ割高な価格がハードルとなり、導入に踏み切れないでいる自治体が多いのも事実です。ただ、ここに来てようやく、リース期間の満了などに伴うリユースEVが市場に出始め、価格面でのハードルを乗り越える糸口が見えてきました。この先、リユースEV市場が相応に形成されてくれば、安価なリユース車はEV購入の際の有力な選択肢の1つになるでしょう。ただしそのためには、リユースEVでも使用形態に応じて活用できる「運用モデル」を確立する必要があります。そこで当社が提唱しているのが、「EV利用の循環経済モデル」です。
―詳しく聞かせてください。
バッテリーや部品の劣化度合いに応じ、EVを余すことなく利用するという構想です。EVを新車でフル活用した後は、2次利用のサイクルが始まりますが、そこでは特定の拠点間など移動航続距離を勘案して活用します。その後、寿命を迎えたバッテリーに再生技術を用いれば、EVの「3次利用」も目指せるかもしれません。EVに使用できなくなった再生バッテリーも、再エネ由来の電力を有効利用するための蓄電池や、非常用電源として活用できる可能性を追求できるのです。このモデルは複数の自治体から賛同を得ており、岸和田市のほか、大阪府の能勢町や豊能町でもリユースEVを用いた実証実験が進んでいます。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
約15年にわたり企業などのEV導入を支援し蓄積してきた知見を生かし、自治体のEV導入と活用を一貫支援していきます。たとえばEVの活用については、「エネルギーマネジメントとの併用」や地域住民との「カーシェアリング」といった取り組みをお手伝いできます。ぜひお気軽にご連絡ください。