※下記は自治体通信 Vol.59(2024年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
公用車を運用するあらゆる自治体に発生する、車両管理業務。ノンコア業務の1つとされるが、車両の保守・点検への対応を含むことから、安全性や法令遵守の観点で欠かすことのできない業務でもある。この車両管理について、宮城県では業務効率化の一環として、大部分を民間事業者に委託。「アウトソーシングによる業務負担軽減」だけにとどまらない、確かな成果を得ているという。取り組みの詳細を、同県行政経営企画課の2人に聞いた。
[宮城県] ■人口:223万3,232人(令和6年5月末現在) ■世帯数:105万1,079世帯(令和6年5月末現在) ■予算規模:1兆5,197億円(令和6年度当初) ■面積:7,282.30km² ■概要:東京から約300km北東、東北地方の中心に位置する。1,300年ほど前は福島県や岩手県とともに陸奥国と呼ばれ、東北地方の政治の中心となる役所が多賀城に置かれた。400年ほど前に、伊達政宗が仙台藩の基礎をつくった。明治元年に戊辰の役で仙台藩が降伏。明治4年の廃藩置県より仙台県が置かれ、明治5年に宮城県となった。その後、県の廃止や改正が繰り返され、明治9年に今の面積や形となった。
宮城県
総務部 行政経営企画課 働き方改革推進班 主幹(班長)
吉田 寛よしだ ひろし
約160台を各課室が管理。車検切れリスクなど懸念に
―業務効率化に向けて、公用車の管理に着目した経緯を教えてください。
三浦 当課に働き方改革推進班が設置された翌年の令和元年、働き方改革の一環として長時間勤務を是正するため、事務改善に関するアンケート調査を全庁で実施しました。その結果、「負担が大きい」と感じる業務として、「車両管理」がもっとも多く回答にあがったのです。県の本庁舎には、管財課が所有する共用車のほか庁内の各担当課室が保有する約160台の公用車があります。共用車の台数は限りがあるため、自部署で車を保有しない場合はほかの課室から車両を借りて出張するのですが、空き車両の問い合わせや鍵の貸し借りなどが、公用車を保有する部署職員の負担になっていたのです。
吉田 車両管理に関する業務上の負担は、こうした日常的な公用車利用に伴うものだけではありませんでした。
―ほかにどういった負担があったのですか。
吉田 車両の保守・点検に伴う業務です。たとえば、公用車を保有する各課室の担当者は、1年ごとに行う法定点検や、2年ごとの継続車検に対応する必要があります。さらに、豪雪地帯を抱える本県では、年2回のタイヤ交換も必須です。いずれも、発生頻度こそ多くありませんが、毎回まとまった時間が必要になり、職員の本来業務をその都度圧迫している状況だったのです。
三浦 また昨今は、自治体が車検切れに気づかず公用車を使い続けてしまうという事案が全国で相次いで発覚し、問題となっていました。当県ではそうした事案は起こっていないものの、160台にのぼる車両を各課室が個別に管理する体制では、どこかでうっかり継続車検の実施を忘れてしまうリスクがあると懸念を持っていました。
そこで我々は、公用車の運用・管理に関する状況を全庁規模でより詳細に把握し、業務効率化に向けた有効な解決策を探るため、令和3年に公募プロポーザル方式により選定した大手シンクタンクにコンサルティングを依頼しました。
管理業務の委託により、約8割の時間削減効果も
―コンサルティングの結果はいかがでしたか。
三浦 たとえば、車両の調達方法について、「リース方式で公用車を借りる」という提案を受けました。リース方式であれば、初期投資を抑えつつ、リース期間中で毎年の費用の平準化が図れるという財政面のメリットを享受できるうえ、車両の保守・点検にまつわる業務を丸ごとリース会社に委託できます。業務委託の効果については、1台当たりの対応時間を年間72時間から12時間程度へと、じつに約8割も削減できるという試算結果も示されました。
―提案内容をどのように受け止めましたか。
吉田 車両管理にかかわる職員は多いため、その業務負担を丸ごと手放せるという効果は全庁的な業務効率化に有効だと評価しました。そこで我々は、更新時期を迎えた車両から順次、リース車両に切り替えていく方針を決めました。そのうえで、車両23台分をリース方式で調達しようと、令和4年に一般競争入札を実施。住友三井オートサービス(以下、SMAS)が提供する、リース料金に保守・点検費用を含む「メンテナンスリース」を選定しました。
同時に、リースに切り替えるまでの期間でもできるだけ多くの職員の業務負担を軽減したいと考え、車両管理のみを委託するサービスも検討しました。これについても入札の結果、SMASの「メンテナンス・マネジメント・サービス」を採用し、現在ではリース車両と県の保有車両を合わせた110台の車両管理を同社に委託しています。
―実際に車両管理を委託した感想はいかがでしょう。
吉田 SMASが請け負う業務項目の豊富さは、選定の1つの理由でもあったのですが、そのメニューから、長期的に得られる負担軽減効果は大きいと感じています。具体的には、「法定定期点検・継続車検などの期日管理」や「自賠責保険の付保更新手続き」、「タイヤ交換」や「整備工場との折衝」といった業務は従来のように職員が行う必要がなくなりました。職員は、保守・点検に関するほぼすべての車両管理から解放されました。
三浦 それでいて、SMASの「メンテナンスリース」で借りている車両や「メンテナンス・マネジメント・サービス」で管理を委託している車両については、それぞれの管理状況をいつでも簡単かつ詳細にWebシステム上で確認することができています。こうした「車両管理のDX」により管理状況を可視化できたことは、車両の使用者である我々にとって、安心できるポイントになっています。
管理業務を集約できたことで、公用車運用の効率化が進展
―どのような仕組みで管理状況を確認できるのですか。
三浦 SMASが提供するWeb情報管理システム『e-ADVICE』にアクセスするだけで、リースやサービスの契約状況や、点検予定日、整備履歴などを詳細に確認できるのです。車両の整備履歴などはほぼリアルタイムに反映され、確実に保守・点検が行われているかをチェックできるので、安心して管理を任せられています。
吉田 こうした管理業務を民間事業者に委託してからは、職員の業務負担軽減だけにとどまらない成果も生まれています。
―どういうことでしょう。
吉田 車両の利用手続きなど、庁内に残った管理業務についてはすべて、各部局の総務部門に集約できたのです。これは、当県が職員の業務負担軽減のために進めている「庶務業務の集約化」の流れにも一致するものです。業務委託により車両の管理負担を大きく低減できたからこそ、総務部門の業務を圧迫することなく車両管理の集約を実現できたと振り返っています。
三浦 車両管理の集約により、公用車の運用をめぐるさまざまな効率化施策に取り組みやすくなりました。たとえば、全庁規模で公用車を共用できるようになったのに合わせ、車両の利用予約システムを導入したほか、このシステムで予約した利用者がマイナンバーカードで鍵を自由に取り出し返還できるボックスも設置しました。これにより、公用車を使う職員の業務効率化も実現するという効果が生まれています。さらに、各課室で行っていた車両運用は全庁規模で「全体最適」を図れるようになったため、今後は保有台数そのものの削減も目指せるようになりました。
―公用車の運用に関する今後の方針を聞かせてください。
三浦 我々は働き方改革の一環として「公用車運用の効率化」を進めてきましたが、公用車は、運用次第でEVに置き換えて環境施策につなげたり、シェアリング事業を展開して地域振興施策につなげたりもできます。車両管理を委託しているSMASには、自治体が抱える公用車に関するさまざまな課題を多様なソリューションで解決につなげていってもらいたいですね。
信頼できる専門家に業務を委託し、抜け・漏れのない車両管理を
ここまでは、公用車の管理を外部に委託し、車両運用の効率化につなげている宮城県の事例を紹介した。ここでは、同県の取り組みを支援したSMASを取材。車両管理を委託するに当たってのポイントなどを、同社執行役員の三嶋氏に聞いた。
住友三井オートサービス株式会社(SMAS)
執行役員 北海道東北営業本部長
三嶋 知己みしま ともみ
昭和42年、埼玉県生まれ。平成元年に明治大学を卒業後、住商オートリース株式会社(現:住友三井オートサービス株式会社)に入社。令和3年より現職。北海道東北営業本部を統括。
―車両管理をめぐる自治体の課題はなんでしょう。
「安全性」や「法令遵守」といった特に重要な観点から言えば、慢性的な人手不足により、保守・点検の管理が不十分になる恐れがあることです。保守・点検には、予算要求や各種手続きといった実質的な業務負担がその都度、発生しますが、それ以外にも、抜け・漏れのない期日管理をいかに徹底するかを課題と捉える自治体は多いです。こうした課題を解決するには、車両管理を丸ごと外部に委託するのが有効です。ただしその際は、委託する事業者の選定が重要になります。
―事業者選びのポイントを教えてください。
車両管理に関する豊富な実績を持つ専門の事業者を選ぶことです。たとえばオートリース業界のリーディングカンパニーである当社では、保有・管理台数が約102万台という全国最高水準の実績と、そこで蓄積した知見を生かし、自治体の車両管理ニーズや車種に合った適切な保守・点検メニューを提案できるのが強みです。管理サービスを含む自動車リースと、管理のみを請け負うサービスの双方を提供できるため、リース車両、保有車両を問わず、あらゆる車両の管理負担軽減を支援できます。また当社では、サービスの信頼性を担保すべく、車両が抜け・漏れなく管理されているかどうか、職員が簡単にチェックできる仕組みも整えています。
―どのような仕組みですか。
車両の契約・点検状況などの情報を確認できる、『e-ADVICE』というWebシステムです。これは、整備工場から当社に行う料金請求のデータとも連動しているため、保守・点検の実績が即時に反映されやすい点が特徴です。工場による整備内容が直接開示され、契約に沿った整備が確実に履行されているかが一目瞭然なため、信頼してもらいやすい仕組みになっているのです。安心して当社に車両管理を任せ、職員の業務効率化と働き方改革につなげてほしいですね。