※下記は自治体通信 Vol.63(2025年1月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
業務改善を目的に生成AIの導入を検討する自治体は増えているが、機密情報などの漏えいを懸念する声も多い。また、導入しても職員に使いにくいと判断されて活用が進まなかった事例もある。こうした課題を乗り越えるため、四日市市(三重県)は、情報セキュリティ対策と職員の使いやすさを重視して、生成AIシステムを調達。全庁的な活用へとつなげている。同市デジタル戦略課の2人に、導入に至った経緯や今後の展望などを聞いた。
[四日市市] ■人口:30万6,614人(令和6年12月1日現在) ■世帯数:14万6,070世帯(令和6年12月1日現在) ■予算規模:2,978億2,840万2,000円(令和6年度当初)
■面積:206.50km² ■概要:三重県北部に位置し、中京工業地帯の中核をなす工業都市。臨海部には四日市コンビナートが立地し、内陸部には電子機器や半導体といったハイテク産業が集積するなど、日本の産業を支える重要な拠点となっている。工業だけでなく、お茶やそうめんなどの名産品も生産されている。
四日市市
総務部 デジタル戦略課 行政DX推進室 室長
吉田 純平 よしだ じゅんぺい
一般的な生成AIでは、情報漏えいリスクがあった ―生成AIの導入を検討した経緯を聞かせてください。
吉田 当市で令和3年度に策定した「四日市市情報化実行計画」に基づき、業務改善を目的とした「AI活用」に向け、令和5年春から本格的な調査を開始しました。調査を重ねるうち、各種資料の作成や表計算ソフトのマクロ作成など、時間がかかっていた業務を生成AIなら数分でできるのではと思い至りました。しかし同時に、導入に向けたハードルも判明しました。
―どのようなハードルですか。
森本 非公開情報の漏えいリスクです。一般的な生成AIは、入力された情報を学習し、第三者への回答にも使用するため、職員が非公開情報を入力すると、漏えいリスクが高まります。また、多くの生成AIサービスは海外サーバを経由するため、非公開情報が国外に提供され、個人情報保護法に抵触するおそれもありました。こうした課題の解決が導入の大前提でした。
吉田 プロンプト* 入力の難しさも課題でした。生成AIへの質問や指示内容を失敗すると、一般的な検索エンジン程度の回答しか得られません。そのため、職員に使いにくいと判断され、活用されない事例も見られました。そこで当市では、生成AI導入に向け「情報セキュリティ対策」や「職員の使いやすさ」を仕様書に盛り込み、令和6年5月に入札を実施。『exaBase生成AI for 自治体』に決定し、翌月から運用しています。
―運用後の感想はいかがですか。
森本 当初懸念された課題が解決され、想定以上に職員の利用が進んでいます。情報セキュリティ対策では、生成AIが入力した非公開情報を学習せず、データ処理を国内サーバで完結する仕組みにより、運用上の不安が払拭されました。一方、プロンプト入力ではテンプレートが豊富で、職員は生成AIの理解度に関係なく的確に指示出しできるので、全職員が使える環境が整いつつあります。加えて、当市の条例や議事録などの独自情報を学習できるRAG機能も実用的です。たとえば議員の質問に対する回答案を作成する際、過去の膨大な議事録をRAGに取り込み、関連する答弁内容を生成AIで抽出しました。結果、議員の質問に対応する過去の答弁を的確に抜き出し、短時間で回答案を作成できた実績があります。
*プロンプト : ユーザーが、AIに対してテキストで入力する指示や質問のこと
庁内での利用拡大を実感 ―今後の方針を教えてください。
吉田 生成AIを活用する職員を増やし、全庁的な業務改善を図ります。その点、同サービスの料金は、作成できるアカウント数に制限がない定額制で、期中でも一定予算のままアカウントを追加できます。アカウント発行数は、運用から約4ヵ月でほぼ倍増し、庁内での利用拡大を実感しています。
森本 最近は、企画の「アイデア出し」など、より創造的な領域でも手応えを感じています。いずれは市民サービスなどのコア業務にも活用を拡げていきたいですね。
「改善」できるSaaS型生成AIなら、多様な自治体業務に適応できる
株式会社エクサウィザーズ
常務取締役 兵庫県生成AI活用 アドバイザー
大植 択真 おおうえ たくま
昭和63年、大阪府生まれ。京都大学工学部卒業、
同大学大学院工学研究科修了。ボストンコンサルティ
ンググループを経て、平成30年に株式会社エクサウィ
ザーズに入社。AI導入支援やDX研修の講師として多
数の実績を持つ。
―自治体における生成AIの導入状況をどう捉えていますか。
自治体の導入事例は増えていますが、生成AIが非公開情報を学習することで起こる情報漏えいリスクを懸念して、導入を躊躇する例も多いようです。そこで当社では、生成AIによる非公開情報の学習をシステム上で防止して、LGWAN対応も含む情報漏えいリスクを抑えた『exaBase 生成AI for 自治体』というSaaSを提供しています。現在50以上の自治体に導入され、情報セキュリティ対策だけでなく、生成AIの専門的な知識がない職員でも利用しやすい点も評価されています。
―どのような点が評価されているのですか。
まずは、プロンプトのテンプレートを実装しているため、職員が入力時の細かな指示などを習得することなく利用できる点です。そのうえ、RAG* 機能は日々の改良で精度を高め、導入自治体から「使いやすい」と評価されています。このように自治体が求める機能を搭載できたのは、運用中でも改修できるSaaSの利点を活かし、当社が伴走支援するなかで得た「自治体の声」を、反映してきたからです。現場の意見に基づいた改善を繰り返すことで、多様化する自治体業務にも迅速に適応するため、継続的な運用につながります。
―自治体への今後の支援方針を聞かせてください。
庁内でのAI人材の教育を目的とする研修やセミナーの実施に加え、今後は運用代行サービスも展開し、全庁的な生成AI活用を支援します。2営業日以内にトライアルも利用可能なので、まずはご相談ください。
*RAG : AIがテキストを作成する際、独自に学習したデータからも情報を参照することで、回答精度を向上させる技術のこと