※下記は自治体通信 Vol.63(2025年1月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
現在、DXを推進する自治体の多くが「処分通知の電子化」に注目している。処分通知の発行件数は膨大な量にのぼるため、電子化による業務効率化の効果が大きく期待できるためだ。デジタル庁が特に処分通知を取り上げ、電子化の「ガイドライン」*を策定しているゆえんだ。そんななか、令和4年度からこの取り組みを先駆的に進めているのが、東大阪市(大阪府)である。同市行政管理部の部長である瀬川氏は、「DXの効果を最大化するために必要不可欠な取り組み」と振り返る。この取り組みを支援したGMOグローバルサイン・ホールディングスの牛島氏を交え、取り組みの経緯や効果などを聞いた。
*「ガイドライン」: 令和5年3月31日にデジタル庁が発行した「処分通知等のデジタル化に係る基本的な考え方」
[東大阪市] ■人口:47万7,940人(令和6年11月末現在) ■世帯数:25万1,334世帯(令和6年11月末現在) ■予算規模:3,972億9,582万2,000円(令和6年度当初)
■面積:61.78km² ■概要:大阪府内では、大阪市、堺市に次いで3番目の人口規模を誇る中核市。「モノづくりのまち」「ラグビー(スポーツ)のまち」として有名。また、近畿大学、大阪樟蔭女子大学、大阪商業大学、東大阪大学の4つの大学があり、多くの学生が通う「大学のまち」としての特徴もある。
瀬川 政嗣せがわ まさつぐ
昭和45年、大阪府生まれ。平成5年、東大阪市役所に入庁。生活支援部を経て、令和6年より現職。
GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社
電子契約事業部 部長 デジタル・ガバメント支援室 室長
牛島 直紀うしじま なおき
昭和52年、福岡県生まれ。平成19年、GMOホスティング&セキュリティ株式会社(現:GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社)に入社。経営企画室社長室、法務部などを経て、平成27年より現職。
「入口」は電子化されても「出口」はアナログのまま
―「処分通知の電子化」に取り組んだきっかけを教えてください。
瀬川 当市は令和2年度に、行政手続き全般のオンライン化の検討を本格的に始めました。翌年度には電子申請システムを導入し、「中小企業設備投資補助金申請」など、住民や事業者からの申請をオンライン上で受理できる体制を整えました。非対面で効率的に申請を受理できる電子申請システムは、特にコロナ禍以降に自治体で普及が進み、確かに業務の効率化を大きく前進させましたが、当市では「もう一歩先」の取り組みが必要と考えていました。それが「処分通知の電子化」でした。
―「もう一歩先」とは、どういうことですか。
瀬川 「申請の受理」という「入口」のDXこそ進みましたが、申請に対する「処分(結果)の通知」という「出口」のDXは、当市を含め多くの自治体が未着手のままでした。当市では、公印を押すために文書管理システムから処分通知書を一旦紙に出力し、押印のうえ申請者へ郵便などで送っていました。当市が電子申請で受理する申請件数は年間約3.5万件と膨大な量にのぼるため、依然としてこの業務負担は大きかったのです。DXの効果を最大限に享受するためには、デジタル化の領域を、アナログのままだったこの「出口」にまで広げなければならないと考えたのです。
牛島 東大阪市と同様の考えから、「処分通知の電子化」に関心を持つ自治体が増えています。当社が自治体での契約電子化を支援するなかで、じつは、むしろ電子契約以上に多く興味を示されるのが「処分通知の電子化」なのです。自治体では処分通知が日常的に発行されており、その数は契約の何倍にものぼるため、業務改善へのインパクトが大きいのは確かです。
―実際に、「処分通知の電子化」をどのように進めたのですか。
瀬川 令和3年度後半から、公印に代わる電子署名、いわゆる「電子公印」の導入を模索しました。それが実現できれば、申請者への処分通知をオンライン上で行えるようになります。そのために、2つの課題を解決する必要がありました。
カギは「いかに操作負担なく、真正性を担保できるか」
―どういった課題でしょう。
瀬川 1つは「真正性の担保」です。公印に代わるものなので偽造は許されません。もっとも、以前から、公的認証局のLGPKI*を利用することで、真正性を担保すること自体はできました。しかし、当時の仕組みでは、申請者が処分通知のファイルを受け取った際、専用サイトで定められた手順を踏まなければ、電子公印の真正性を確認することができませんでした。この操作負担は逆に「住民サービスの低下」につながりかねません。まさに、この「操作負担の解消」が2つ目の課題でした。
―どのように解決したのですか。
瀬川 当時は自治体での前例がなく、システムベンダーなどから、さまざまな電子署名サービスの情報を収集しました。そのなかで、「当事者型」の電子署名の存在を知りました。電子認証局による厳格な本人確認のもと発行される電子証明書によってLGPKIと同等の真正性が担保されるため、「当事者型」電子署名を電子公印として利用できると判断したのです。そこで、「当事者型」の電子署名サービスを提供するGMOグローバルサイン・ホールディングスに協力を依頼し、令和3年12月から半年間、実証実験を行いました。
―結果はいかがでしたか。
瀬川 電子証明書発行までの情報セキュリティ体制などを検証し、真正性は担保できると確認できました。また、申請者も処分通知書をAcrobat Readerで開いた段階で、電子公印が自動検証されるため、操作負担なく真正性が確認できると判断しました。そのほか、職員は作成した処分通知書を電子署名システムにアップロードするだけで電子公印の申請処理が完了し、署名済みの通知書をダウンロードしてそのままデータ送信ができます。実証実験では、1件の処分通知完了までの作業時間が従来の約21分から約11分へと短縮され、郵送関連費用は約88円削減できるとの試算*を得ました。まさに「出口」のDXにつながる手ごたえをつかみ、令和4年7月から正式運用を始めています。
牛島 現在は、デジタル庁の「ガイドライン」により、「真正性基準」と「情報セキュリティ基準」が公開されていますが、当時はまだそれがなく、当社も実証実験であらゆる検討を重ねました。現在、東大阪市が利用している電子署名サービス『GMOサイン行革DX 電子公印(以下、GMOサイン電子公印)』は、その実証実験を経て実用化されたものですが、真正性はその後公開された「ガイドライン」に準拠したものです。加えて、国際認証の取得など、「ガイドライン」が求める情報セキュリティ基準も満たしており、安心してご利用いただけます。
*LGPKI : 地方公共団体組織認証基盤
*東大阪市の試算 : 従来の作業時間の内訳は、公印申請・公印審査・発送までの作業時間。郵送関連費用の内訳は、紙代、印刷代、封筒代、郵便運賃
文書管理システムとの連携で、さらなる利用拡大へ
―正式導入後の運用状況を教えてください。
瀬川 処分通知は年間数万件にのぼるため、いちどに電子化すると職員も困惑すると考え、段階的に着手しています。令和4年度はコロナ禍での導入ということもあり、まずは新型コロナ関連の補助金申請などに絞って運用を始め、1,144件の処分通知を電子化しました。その後、令和5年度も用途を広げ、少しずつ件数を伸ばしています。この間、利用した職員は業務改善効果を実感しているようで、利用機運は全庁的に高まっています。今後は、文書管理システムと『GMOサイン電子公印』とのシステム連携も検討していく方針です。それにより、職員は処分通知書を文書管理システムから『GMOサイン電子公印』へとアップロードする手間さえなくなり、DXの効果はさらに高まるでしょう。年間数万件にのぼる「処分通知の電子化」で、間違いなく自治体DXは完結に向かうと考えています。
牛島 そのシステム連携には当社も一緒に取り組み、東大阪市とともに「処分通知の電子化」の1つの完成モデルをつくり上げ、多くの自治体のみなさんにご提案していきたいと考えています。
現場に改善実感をもたらす操作性が、「電子公印」の利用機運を高めた
ここまで見てきたように、東大阪市では「当事者型」の電子署名の仕組みを応用した「電子公印」を導入し、「処分通知の電子化」を進めている。ここでは、日々の業務で処分通知書へ押印する法務文書課の藤井氏に、「処分通知の電子化」状況のほか、現場で実感する導入効果などを聞いた。
前例がないなか、まずは「スモールスタート」で
―「処分通知の電子化」の取り組み状況を教えてください。
実証実験を経て、電子署名サービス『GMOサイン電子公印』の運用を始めた令和4年度は、補助金関係の申請を中心に8つの手続きを「処分通知の電子化」の対象にしました。実証実験は行ったものの、やはり前例がないことでしたので、「スモールスタート」を意識してのことでした。その後、この2年間で利用可能な申請手続きを18まで増やすことができています。特に新型コロナ関連の補助金申請については、オンライン上で申請者へ素早く結果を通知できたため、安心感の提供につなげられたと考えています。
こうした実績の積み重ねにより、全庁的に「処分通知の電子化」への取り組み機運が高まってきたと感じますが、その背景には、『GMOサイン電子公印』が持つ特徴も影響していると思います。
―どういった特徴でしょう。
一番は、「簡単な操作で利用できる」ということです。職員は文書管理システムで作成した処分通知書を『GMOサイン電子公印』にアップロードするだけで、電子公印の申請手続きが完了します。これまでは、処分通知書を紙に出力して、私たちのような公印を管理する部署まで足を運んでもらう必要がありましたが、そうした手間が一切なくなったため、職員の業務効率は大きく改善しています。こうした変化が、利用促進の1つのきっかけになるのだと思います。また、申請者に郵送していた費用などがなくなるコストメリットも、利用促進を後押ししています。
―今後の方針について聞かせてください。
年間数万件にのぼる「処分通知」の電子化を進めることは、市全体における文書業務の変革にもつながると考えています。そこに向けて、『GMOサイン電子公印』と文書管理システムとのシステム連携など、これまで以上に職員が利用しやすくなる環境を整えることで、「処分通知の電子化」への機運をさらに高めていきたいと考えています。
「ガイドライン」準拠の電子公印で、安心安全の「処分通知の電子化」を
ここまで紹介したように、東大阪市では他自治体に先駆けて「処分通知の電子化」を進めている。その取り組みを支援しているのが、GMOグローバルサイン・ホールディングスだ。いま多くの自治体に注目されている「処分通知の電子化」を、いかに進めればいいのか。同社の齋藤氏に詳しく聞いた。
GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社
電子契約事業部 デジタル・ガバメント支援室
齋藤 潤さいとう じゅん
昭和56年、イギリス・ロンドン生まれ。某SIerにて、官公庁、地方自治体、金融業界へのITインフラ全般の提案営業に従事。令和3年、GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社に入社。
「すべての電子署名サービスが利用できるわけではない」
―「処分通知の電子化」に注目する自治体が増えているようですね。
はい。数年前から「契約の電子化」に取り組む自治体は増えていますが、「契約」の何倍もの発行件数があり、自治体DXの大きな課題だったにもかかわらず、「処分通知の電子化」はほとんどの自治体が未着手のままでした。どうすればいいのかが、はっきりわからない状況だったからでしょう。そこでデジタル庁では令和5年3月、状況の改善を目的に「ガイドライン」を発行しました。そこでは、電子契約における電子署名の仕組みを応用して「処分通知の電子化」に取り組めることがはっきり示され、それ以来、当社にも多くの自治体から問い合わせが来ています。ただし、注意点があります。
―どういったことですか。
「すべての電子署名サービスが電子公印として利用できるわけではない」ということです。ガイドラインには、「GPKI*の官職証明書やLGPKIの職責証明書の基本領域を参考にすること」と記載されています。これは「真正性の担保」の要件を示した内容で、当社では、この「基本領域」に「当事者型」の電子署名タイプが該当すると考え、当社独自の「当事者型」の電子署名タイプを応用して『GMOサイン電子公印』を提供しています。ここでは、「首長等の職責を記載した電子証明書の発行」など、ガイドラインに準じて真正性を担保する仕組みを構築しています。加えて、「情報セキュリティ対策」でもガイドラインに準じた対策を講じています。
―具体的に教えてください。
「要保護情報の処分通知の場合、完全性、機密性、可用性を担保すること」との要件を満たすために、「ISO27017」「SOC2」「ISMAP」など複数のセキュリティ認証を取得しています。さらに、処分通知書を申請者へ送付する際のセキュリティ認証の仕組みも確立しています。こうした内容が評価され、「ガイドラインの基準をクリアした電子署名サービス」という認知が自治体に広がっているようです。実際、令和7年度から新たに6自治体で本格運用が決まりました。
「処分通知の電子化」により、職員の業務負担の大きな改善効果が期待されますが、その際、現在自治体が活用している「文書管理システム」と『GMOサイン電子公印』を連携させることで、その効果は最大化すると考えています。
*GPKI : 政府認証基盤
文書管理システムとの連携で、コスト低減効果が最大化
―どういうことでしょう。
文書管理システム内で作成された処分通知書が、『GMOサイン電子公印』へ自動的にアップロードされ、手作業によるアップロードが不要になるのです。自治体によっては、処分通知の発行件数が何十万件のケースもあり、アップロード作業だけでも膨大な時間を要します。システム連携により、『GMOサイン電子公印』の導入効率は格段に高まり、その結果、人件費などを含めたコストも大きく削減されます。実際、当社では全国の自治体を対象に、両システムの連携による、「処分通知の電子化」の業務削減時間を算出し、それを基に人件費などのコスト削減効果を試算しました。結果*は、電子公印の導入前は処分通知1件あたり約50分だった発行処理時間が、導入後は約10分に短縮します。コストは、導入前の約2,000円が約100円に削減されます。あくまで試算ですが、DX推進の効果を十分証明できる結果だと捉えています。
―今後の方針を聞かせてください。
文書管理システムとの連携を含めた『GMOサイン電子公印』の導入支援で、これまで全国の自治体における懸案だった「処分通知の電子化」をお手伝いします。ぜひご連絡ください。
*試算結果 : 導入前の「作業時間」には、押印申請、押印処理、申請者への発送準備などを含む。「コスト」には、人件費、切手代といった郵送費などを含む。年間処分通知が50万件の場合