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注目企画
先進事例2025.03.12

【持続可能なまちづくり】専門的知見で築く新たな「地域創生」
地域課題解決コンサルティング / 地域創生Coデザイン研究所

[提供] 株式会社地域創生Coデザイン研究所
【持続可能なまちづくり】専門的知見で築く新たな「地域創生」(地域課題解決コンサルティング / 地域創生Coデザイン研究所)
この記事の配信元
株式会社地域創生Coデザイン研究所
株式会社地域創生Coデザイン研究所

※下記は自治体通信 Vol.64(2025年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

山積する地域課題を前に、各自治体が「公民連携」の重要性を今ほど認識していることはないのではないか。人口減少や少子高齢化が進み、地域経営の持続性が危ぶまれる中、各自治体は限られた資源で、社会課題の解決を迫られている。一方で、その社会課題は年を追うごとに複雑化・多様化し、解決に向けてはこれまで以上に高度な専門性や綿密な計画性、多くのステークホルダーとの協働が求められている。いわば、公民連携の「精度」が厳しく問われるステージに突入していると言っても過言ではない。昨今、そうした時代状況を反映し、民間の高度なコンサルティングノウハウを駆使して、各分野の地域課題を解決へと導いている公民連携プロジェクトが各地で報告されている。それらの事例に共通しているのは、これまでの常識にとらわれない柔軟な発想で、地域課題解決に挑む自治体の姿、そして民間事業者が持つ「高い専門的知見」と「深い地域理解」という2つのキーワードである。本特集で紹介するそれらの事例から、新たな地域創生のかたちを探りたい。

奈良県観光局×支援企業2社 鼎談
観光政策
「データ活用」で地域の魅力を磨き上げ、観光産業の持続的な発展をめざす

「地域創生」が、経済・社会活動を活性化し、持続可能な社会形成をめざす取り組みとすれば、そこではいかに域外から人を呼び込むかが極めて重要になる。多くの自治体が観光事業に力を入れている所以だ。そうしたなか、観光政策の戦略的な改革に乗り出しているのが奈良県である。強力な観光コンテンツを有し、すでに国内有数の人気観光地である同県が、いまなぜこうした取り組みに着手しているのか。取り組みを支援する地域創生Coデザイン研究所の中村氏、西日本電信電話(以下、NTT西日本)奈良支店長の浅井氏を交えて、同県観光局長の竹田氏に話を聞いた。

[奈良県] ■人口:128万3,679人(令和6年12月1日現在) ■世帯数:55万7,909世帯(令和6年12月1日現在) ■予算規模:9,244億8,400万円(令和6年度当初) ■面積:3,691.09km²
インタビュー
竹田 博康
奈良県
観光局長
竹田 博康たけだ ひろやす
奈良県生まれ。昭和63年に奈良県庁に入庁。平成23年より、奈良公園でのハード&ソフト施策のプロジェクトを牽引。また、奈良公園周辺でのまちづくり、誘客促進、警備・管理など奈良公園の価値の維持向上に携わり、奈良公園室長や地域デザイン推進局次長等を経て、現職。なら・まちづくりコンシェルジュとしても活動中。
インタビュー
浅井 達之
西日本電信電話株式会社
奈良支店 支店長
浅井 達之あさい たつゆき
平成10年に日本電信電話株式会社に入社。平成23年より西日本電信電話株式会社 九州事業本部 設備部にて沖縄県の離島をはじめとする九州エリアのブロードバンド提供エリア拡大に携わる。平成27年より同社 設備本部 サービスマネジメント部国際プロジェクト推進室にてG7伊勢志摩サミットや東京2020関連事業に従事。令和4年より現職。
インタビュー
中村 彰呉
株式会社地域創生Coデザイン研究所
取締役 コンサルティング事業部長 兼 戦略企画部長
中村 彰呉なかむら しょうご
大阪府生まれ。平成7年に日本電信電話株式会社に入社。平成11年より、西日本電信電話株式会社にてサービス開発のマーケティング、新規事業開発に従事。平成26年より日本電信電話株式会社広報室で広告宣伝業務、グローバルビジネス推進室でグローバル事業推進を経験。令和2年に西日本電信電話株式会社に復帰後、令和3年に株式会社地域創生Coデザイン研究所を立ち上げ、現職に。

「安い」「浅い」「狭い」奈良県観光の3つの課題

―奈良県では、観光政策の戦略的な改革を進めていると聞きます。その背景を聞かせてください。

竹田 当県の観光事業をめぐっては、集約すると大きく3つの課題があり、それは「安い」「浅い」「狭い」という言葉で表現されてきました。「安い」とは、日帰り観光客が多いことによる観光消費額の低さを指します。「浅い」とは、滞在時間が短いため、歴史や文化への理解が深まらないこと。そして「狭い」は、県北部の奈良公園周辺地域に観光客が集中する地理的な狭さを意味します。コロナ禍後のインバウンドの回復といった環境変化もあいまって、これらの課題がさらに顕著になっています。こうした状況を受けて、観光産業の振興に力を入れている当県としては、あらためて現状の課題を正しく分析・理解し、実効性のある施策を立案していく必要があると考えたのです。その際に必要性を感じたのが「観光データの活用」でした。

―それはなぜでしょう。

竹田 行政の観光政策や観光産業界の動きを見ても、これまで「データ活用」という習慣がほとんどありませんでした。特に奈良では、平城京遷都以来1,300年の歴史があり、強力な観光コンテンツが多いこともあって、昔からの経験や感覚が重んじられることが多かったと振り返っています。しかし近年では、旅行客の志向性の変化を受けて、従来の経験が本当に正しいのかという疑問が生じています。また、経験に頼った施策だけでは激しい環境変化には対応できないという危機感も強くなってきました。そこで、令和5年度から「観光データ『見える化』推進事業」を立ち上げるとともに、令和6年5月には「奈良県観光戦略本部」を設置し、民間の知見を得ながらデータ活用を通じた観光産業の持続的な発展を後押ししています。この事業の参画パートナーが、NTT西日本とグループ内のコンサルティング会社である地域創生Coデザイン研究所です。

データは相互理解のための「共通言語」になりえる

―支援企業の立場から、従来の観光政策の課題をどう見ていますか。

浅井 観光産業はステークホルダーの多い産業の1つですが、いまも勘や経験に頼った施策にとどまっている印象です。その意味では、近年EBPMの考え方が広まっているなか、観光政策はその有効性が特に期待できる分野といえます。

中村 また、ステークホルダーの多さゆえに、地域内でどのようなことに取り組むかの意思決定が難しいことも観光産業の特徴の1つです。データは相互理解を醸成するための「共通言語」になりえるので、そこにもデータ活用の意義は大きいと考えています。

―観光データ「見える化」推進事業では、これまでどのような取り組みを進めてきたのですか。

竹田 県内をいくつかのエリアに分け、それぞれの特性に基づいて課題やあるべき将来像を議論し、データ活用に向けた実践的な施策を検討してきました。事業初年度となる令和5年度は、各事業者にデータ活用の有効性を伝え、機運を醸成するための勉強会を開催するとともに、その機会を利用して事業者間連携の素地となる地域コミュニティづくりを進めています。この間、データ活用に興味を示す事業者が現れ、活発な議論が見え始めているのは成果ですね。「はじまりの奈良」といわれるように、PDCAではなく、いわばDCAPのようなイメージで積極的に試行錯誤を重ねていく考えです。

中村 これと同時に、観光データ「見える化」ツールとなる「みるなら」の構築を進めています。ダッシュボードには「人流推計データ」や「来訪者インタビュー」などの独自調査データも取り込み、誰でも無料で使えるオープンデータとして運用されます。そのうえで、各エリアの課題に合わせて、どのようなデータがさらに必要か、各地域の事業者の声も反映させていきます。

重要な視点は、いかに地域に実装していくか

―データ選定において、地域の声も反映される理由はなんですか。

竹田 観光戦略本部がめざすのは、それぞれの地域が魅力を磨き上げることで、暮らしに立脚した観光地経営をめざす、いわば「観光地域づくり」にほかなりません。どのような観光地域をめざすのか、その理想は行政ではなく、地域が主体的に考えるべきものであり、課題もそれぞれのはずです。そこで使えるデータでなければ意味はありませんので、データ選定に地域の声を反映させることは不可欠です。また今回は、事業者自らがそれらのデータを使いこなせるようになることを目的としていますので、その意味でも地域の意向を反映させることは重要なのです。

―両社はそこでは、どのような支援を提供しているのでしょう。

中村 当所では、全国各地の観光政策に対するコンサルティングサービスで培った専門的な知見を活かし、ダッシュボードの構築から独自の分析フレームワークの提案、全国各地の先進事例の紹介などを通じて、地域における観光データ活用の企画立案から、勉強会の開催を通じた地域への定着までを支援しています。

浅井 まさにここで重要なのは、いかに地域に実装していくかという視点です。「データベースを構築して終わり」「レポートを書いて終わり」ではまったく意味がありませんが、この「地域への実装」にこそ当社グループの強みがあります。通信会社として西日本30府県に拠点を持ち、地域に根差したサービスを展開してきた「深い地域理解」という強みを活かし、目的に沿ったツールの選定や導入支援など、地域にデータ活用が定着するためのあらゆる支援を一気通貫で提供しています。

観光とは地域づくりそのもの

―将来に実現したい奈良県観光の姿とは、どのようなものですか。

竹田 観光とは、日常生活に根ざした地域独自の姿が磨かれ、それが魅力となって人々が「訪れたい」と思ってもらうことだと思っています。その意味では、観光の本質とは、地域づくりそのものだと考えています。観光地域づくりを通じて、地域の人々がそこでの生活に「光を観る」ことができるような将来像をめざしています。

中村 まさに我々がめざすのも、地域が主体的に共創できる社会づくりにあります。観光産業は裾野が広いだけに、社会課題が複雑に絡み合う現場、いわば地域の「生活の縮図」ともいえます。当所発足以来、各政策分野で積み上げてきた専門的なコンサルティングの知見を観光政策に結集するとともに、それらの知見を幅広い政策分野でも展開していきたいと考えています。

【奈良県観光データポータルサイト「みるなら」URL】 https://nara-tourism-data.pref.nara.jp/

奈良県三郷町の取り組み
総合戦略策定 Well-Being指標の活用
専門的知見の導入で策定に挑む、Well-Being指標を活用した総合戦略

ここまで紹介した奈良県の観光政策と同様に、民間の「専門的な知見」によるコンサルティング支援によって、地域創生を進めている事例がある。三郷町(奈良県)では、町の総合戦略を立案するにあたり、「いかに住民の幸福度を上げるか」という問題意識のもと、戦略策定から実行、モニタリングに「Well-Being指標」を活用することを決めたという。その新しい試みの経緯や狙いについて、町長の木谷氏に詳しく聞いた。

[三郷町] ■人口:2万2,361人(令和6年12月1日現在) ■世帯数:1万799世帯(令和6年12月1日現在) ■予算規模:159億577万7,000円(令和6年度当初) ■面積:8.79km² ■概要:明治22年の町村制施行により、立野(たつの)、勢野(せや)、南畑(みなみはた)が統合されてできた村で、三つの村を合わせるということで「三郷」の名前が誕生した。その後、昭和41年に三郷町となり、現在に至る。
インタビュー
木谷 慎一郎
三郷町長
木谷 慎一郎きたに しんいちろう

民間事業者から提案を受けた、Well-Being指標の活用

―総合戦略の策定にあたり、どのような問題意識がありましたか。

 大阪府のベッドタウンとして発展してきた当町では現在、「住民があらゆる面ですこやかに生活できること」を町政運営の柱に据えています。令和7年度に刷新される町の総合戦略では「住民の幸福度向上」が大きな目標ですが、それを実現するための戦略の策定にあたっては、民間事業者の専門的な知見を導入することとしました。プロポーザルを経て、事業者にはNTT西日本グループのコンサルティング会社である、地域創生Coデザイン研究所を選定しました。その際評価したポイントは、戦略の策定プロセスにWell-Being指標*を活用するという提案内容と、NTT西日本との連携を通じて施策の実行までを見据えた実施体制であり、従来の計画策定コンサルティングとは違うアプローチを期待しました。

―そもそもWell-Being指標とは、どのようなものでしょう。

 住民が地域に対して感じる暮らしやすさや幸福感を数値化・可視化したものです。住民アンケートなどで得られた「主観指標」と、オープンデータによる「客観指標」で構成され、Well-Beingを構成する24の因子について評価します。国も「デジタル田園都市国家構想総合戦略」の中で活用し、自治体にも活用を推奨しています。

 とはいえ、実際に戦略立案に指標を活用するには、指標の分析結果を戦略・政策に落とし込む手法など、非常に専門的な知見が必要になります。地域創生Coデザイン研究所には、Well-Being指標を分析し、政策をデザインするための公的な研修の修了者が多数在籍し、高度な専門的知見が集積されています。そこも選定ポイントの1つでもありました。

*Well-Being指標 : 住民の幸福感や生活満足度を数値化し、地域の特徴や課題を明確にし、政策やまちづくりに役立てるための指標。住民アンケートで測定する主観指標とオープンデータで評価する客観指標から成る

町がつねに考える幸福度向上、それを住民に伝えるツールに

―Well-Being指標の活用には、どのような利点があるのですか。

 まず、Well-Being指標の活用には、全国水準と比較した偏差値を用いることで町の特徴を把握できる利点があります。総合戦略や諸計画を確認することで、その自治体が抱えている課題やその解決のアプローチを把握することができるのです。人口や予算規模といった従来の基準ではなく、たとえばWell-Being指標からみて当町と類似している自治体から、先進事例を学ぶこともできるようになります。また、定期的な数値の確認を通じて、政策の効果や進捗度などが明確にわかるようになるでしょう。

―これまでに、どういった成果を実感していますか。

 現在、作成中の計画案について議論をしている最中ですが、その間に受けた印象を表現すれば「エビデンスの確かさ」と「担当者の想いの強さ」です。この議論は、強固なエビデンスが積み上げられていなければ内容が薄くなり、あらぬ方向に拡散する恐れもあります。また、想いや地域理解がなければ、策定作業はただただ町の意見を聞いてそれを整理するものとなり、深みや客観性に乏しい総合戦略になりかねません。現在の計画案が高い論理性や説得力によって有識者会議から高く評価されているのは、支援の成果にほかならないと考えています。さらに今後、総合戦略に紐づく具体的な施策を立案する際、職員はつねに「いかに住民のWell-Being向上に寄与するか」という視点で考えるようになるはずです。Well-Being指標は、町の施策の目的はつねに住民の幸福度向上にあることを住民・職員双方に伝えるツールとして機能するようになると期待しています。

支援企業の視点
総合戦略策定 Well-Being指標の活用
専門家による伴走支援を活用し、Well-Beingを高める政策の実現を

ここまで紹介した三郷町(奈良県)での取り組みを支援しているのが、西日本電信電話(以下、NTT西日本)とそのグループ会社で地域創生コンサルティングを担う、地域創生Coデザイン研究所の2社である。ここでは、NTT西日本奈良支店の瀬﨑氏と、地域創生Coデザイン研究所の満惠川氏を取材。近年注目されるWell-Being指標の活用は、自治体の政策立案・運営の現場にどのような影響をもたらすか、またそのために必要なこととはなにか。詳しく聞いた。

インタビュー
瀬﨑 健二郎
西日本電信電話株式会社 奈良支店
ビジネス営業部 ビジネス推進担当 担当課長
瀬﨑 健二郎せざき けんじろう
昭和61年、福岡県生まれ。平成21年4月に西日本電信電話株式会社に入社。令和4年より、自治体へのソリューション提供、コンサルティング業務に従事。
インタビュー
満惠川 翔平
株式会社地域創生Coデザイン研究所
研究主任 リードCoクリエイター
満惠川 翔平まえかわ しょうへい
平成元年、奈良県生まれ。地方銀行や経営コンサルティングファームを経て、令和4年7月より現職。

地域特性や生活実態を踏まえた計画策定の難しさ

―各種計画や戦略の策定・実行をめぐり、自治体にはどのような課題がありますか。

満惠川 自治体が総合計画を策定する際は、KPIを設定し、定量的評価を行いながら住民が暮らしやすいまちづくりを推進します。一方で、住民の幸福度の測定は難しく、より実態にあった政策を検討するにはどうすればよいか、課題を抱える自治体は少なくないです。

瀬﨑 こうした計画・戦略の策定が入口だとするならば、各原課での政策の実装・実行は出口といえます。そこでは、政策の実効性を高めるもっとも重要な手段である「デジタル活用」の遅れも大きな課題といえるでしょう。

―どうすればいいのでしょう。

満惠川 住民の幸福度を測る指標である「Well-Being指標」の活用は、有効な方法です。全国共通のWell-Being指標を用いることで、住民の幸福度の現状可視化や課題抽出が可能となり、政策効果を定量的に計測できるようになります。とはいえ、実際に政策策定・実行の工程へ組み込むには高いノウハウが求められます。そこで重要になるのが専門家による伴走支援です。

瀬﨑 さらに、Well-Beingの実現において、いまやデジタル技術の活用はもっとも重要な手段となります。これまで以上に総合戦略の実効性を高めるため、DX施策を政策へ落とし込むため専門的なノウハウの活用も重要になります。

明確なエビデンスに基づき、必要なデジタル技術を導入

―両社では、具体的にどのような支援を提供しているのでしょう。

満惠川 当所では、各自治体のニーズや活用希望レベルに応じたWell-Being指標活用支援メニュー(下図参照)を提供しています。Well-Being指標とはなにかを知る段階から、指標を読み解き、施策を検討できる人材の育成までご支援します。実行中の政策や住民アンケートへのWell-Being指標の導入支援、移行支援などの伴走を通じ、自治体のみなさまにもWell-Being指標の活用スキルを高めていただけたらと考えています。最終的には政策立案の現場で実践いただくことをめざします。Well-Beingの実現には、デジタル技術の活用まで一気通貫で検討、実行することが肝要であり、そこではNTT西日本と連携を図り、同社のノウハウを活かします。

瀬﨑 当社ではおもに、政策実現に資するデジタル技術の選定や導入支援、それを使いこなす人材の育成などを手がけています。この技術選定の際には、高い解像度で自治体のニーズを知るための深い地域理解が求められます。そのうえで、Well-Being指標のような明確なエビデンスに基づき、政策に必要なデジタル技術を導入することで、デジタル化自体が目的化されるような事態は避けられます。

―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。

満惠川 当所のコンサルティング能力と、NTT西日本が持つDXの知見や深い地域理解が融合することで、政策の実効性を大きく高めることができます。すでに複数の自治体でWell-Being指標の活用支援を行っています。そこで得られた知見をもとに、NTT西日本の各支店と互いの強みを活かし、地域特性にあわせて「住民の幸福度に還元する行政」の実現を支援していきたいと考えています。

島根県美郷町の取り組み
地域交通 自動運転の導入
自動運転EVバスを「町民の足」に。実証実験で導入の道筋が見えてきた

これまで紹介したような、専門的な知見を導入した地域創生の取り組みは全国各地で、また多様なテーマで進められている。人口減少による担い手不足や採算性の悪化により、各地で存続を危ぶまれている地域交通の問題は深刻な社会課題の1つである。これに対し、美郷町(島根県)では、民間企業の支援を受けて、自動運転EVバスの実証実験を行っている。町長の嘉戸氏に、取り組みの経緯や今後のビジョンを聞いた。

[美郷町] ■人口:4,044人(令和6年12月1日現在) ■世帯数:2,012世帯(令和6年12月1日現在) ■予算規模:84億3,472万8,000円(令和6年度当初) ■面積:282.92km² ■概要:島根県のほぼ中央に位置し、その南北を中国地方最大の「江の川(ごうのかわ)」が貫流。緑豊かな山々に囲まれ、美しい自然風景が四季折々の姿を見せる。自然だけでなく、石見銀山街道や神楽、美肌温泉、山くじら、最先端のICT教育など、「自然豊かで健康的」「歴史と伝統を大切にする」まちである一方で、「知恵があり、時代の最先端を走っている」まちである。
インタビュー
嘉戸 隆
美郷町長
嘉戸 隆かど たかし

相次ぐバス路線の廃線・減便で、高まる地域交通への危機感

―地域交通をめぐる美郷町の課題を教えてください。

 当町では高齢化率が45%を超え、免許返納者も多いなか、数年前に地域の基幹交通であったJR三江線が廃線になったことで、「町民の足」をいかに確保するかという問題が深刻化していました。現在、代替バスは運行していますが、島根県内では運転手の担い手不足からバス路線は各地で廃線や減便が相次いでいます。私の問題意識として、「人が自由に移動できること」は生存権に近い守るべき基本的な権利だと考えてきたため、地域交通の存続にはとりわけ危機感を強めていました。そこで、大型車運転の有資格者に支援金を拠出するなどの独自施策で運転手確保に取り組む一方、令和2年からICT活用に関する連携協定を結んでいる西日本電信電話島根支店(以下、NTT西日本)にも相談しました。そこで提案を受けたのが、「自動運転EVバスの導入」でした。

―提案をどう受け止めましたか。

 これまではバス運転手の確保に腐心してきましたが、運転手がいなくても成り立つ自動運転の仕組みは、まさに「ゲームチェンジャー」になる技術であり、ぜひチャレンジしたいと考えました。ただし、システムがすべての運転を担う「レベル4」はまだ将来技術です。また、現在実用化されている事例も特定の観光地を結ぶルートや、工場・空港といった広い特殊環境での運行が中心で、「日常の足」として実用化をめざしている例はまだ多くないと聞いています。そこで、国の事業への応募を決め、海外の自動運転技術にも知見があるNTT西日本の協力を得て採択されたことから、令和6年度に実証実験を進めてきました。

「課題先進地域」として、本格的な社会実装をめざす

―実験の内容を教えてください。

 11月11日からの6日間、町内の主要幹線道路である石見銀山街道沿いの町道の約1.2㎞において実証実験を行いました。実験中の運行速度では、時速12㎞を上限としましたが、交通事故やその他トラブルは一切なく、安全に運行できました。私も試乗しましたが、速度は都市部の路面電車とほぼ同等であるように、町の中心部を走るには速度、安全性ともに十分実用的だと感じました。直前に行われた「産業祭」というイベントでのお披露目も含めて、実証期間では約350人の町民に試乗してもらいましたが、その9割以上からポジティブな評価をもらっています。

―今後の社会実装に向けてどのようなビジョンを描いていますか。

 今回の成果をまとめ、今後は本格的な社会実装に向けて、次なるステップの実証実験に進みたいと考えています。当町には、山間部に狭隘な道が多く、電波が届きにくい不感地帯も多いです。冬には積雪もあるなど自動運転車にとって厳しい制約条件が多い「課題先進地域」ですから、当町で実現するならば、全国どの地域でも社会実装がかなうといえるでしょう。

 これと同時に、ルート設定や運行計画のほか、マネタイズの方法などの検討も必要になりますが、ここでもNTT西日本と地域創生Coデザイン研究所の知見を借りたいと考えています。両社からはこの間、企画立案や計画書の策定、実証実験の運営に至るまで一貫して手厚い支援を受けてきました。町外との交流が盛んな活気あふれるまちを理念とする当町としては、今後も地域の実情を理解し、専門的な知見をもつ両社との連携を通じて、理念の根底を支える「自由な移動」を担保していきます。

民間団体の取り組み
地域交通 医療MaaSの導入
先進技術の粋を集めた「医療MaaS」が、高齢化地域の社会課題を解決へ導く

ここまで紹介した美郷町が直面する地域交通の存続問題は、社会インフラをめぐる課題であるだけに、その影響は多方面に広がる。住民の医療に対する交通アクセスは、その代表的な影響といえよう。そうしたなか、同町が属する島根県邑智郡で総合病院を運営する社会医療法人仁寿会では、医師代替者が車両で患者のもとへ移動して医療サービスを提供する「医療MaaS」の実証実験に着手している。同会理事長の加藤氏に、取り組みの詳細を聞いた。

インタビュー
加藤 節司
社会医療法人 仁寿会
理事長
加藤 節司かとう せつし

高齢化先進地域では、病院の事業継続性が危機に

―「医療MaaS」の実証実験に着手した背景を聞かせてください。

 「高齢化先進地域」ともいえるこの地域で、私たち医療機関が直面している課題は、「人口減少」「移動の困難」「病院の事業継続性」の3つです。1つ目の人口減少はまず、社会インフラの脆弱化を招きます。その結果、地域交通の衰退や独居高齢者の増加などにより、2つ目の「移動の困難」が生まれ、医療機関への交通アクセスが悪化します。それだけではなく、人口減少は医療従事者や患者数そのものの減少にもつながりますので、その結果として3つ目の病院の事業継続性が脅かされることにもなります。この現象は全国の高齢化地域ですでに顕在化していますが、今後は日本各地が同様に直面する課題でもあります。

―それに対し、仁寿会ではどのような取り組みを行ってきましたか。

 病院単位で実施できる施策として、当法人では2つ目の「移動の困難」を念頭に、地域の集会所などに出向いて医療サービスを提供する「巡回診療」や、患者宅を訪問する「訪問診療」を実施してきました。しかし一方で、本来は病棟での稼働でこそ労働生産性がもっとも高まる医師や看護師を長時間派遣することの難しさも感じていました。そうしたなか、令和3年度に島根県の「圏域課題解決推進事業」において、ICTを活用した遠隔診療体制の構築を試みた経験がありました。そこで知り合ったNTT西日本グループとさらに深く地域課題解決を議論する中で構想したのが「医療MaaS」でした。

患者からの評価は総じて高く、実用化の手応えをつかめた

―どのような仕組みですか。

 車両内でオンライン診療を提供するための通信設備や医療機器を搭載し、そこに医師や看護師の代替者として救急救命士と准看護師が乗車して遠隔地に医療サービスを提供する仕組みです。県の遠隔医療実験で得られた示唆は、耳が遠い、ICTに不慣れといった高齢患者の遠隔診療には、そばに支援者が必要だということでした。その支援者として、今回は医師・看護師の代替者である救急救命士や准看護師を配置しています。これにより、診察現場で医療の質を落とすことなく、職務の委譲によって病院全体の労働生産性を高める「タスクシフト」の考え方を実践しているのがポイントです。この仕組みで、令和6年10~12月に実証実験を行いました。

―結果はいかがでしたか。

 実証実験では地域の集会所への巡回診療を5回、高齢者施設への訪問診療を3回、個人宅への訪問診療を7回行い、延べ約50人の診察を行いましたが、患者からの評判は総じて高かったです。医師の指示のもと、代替者が医師・看護師と変わらぬクオリティで聴診など現場のケアを担えることが確認でき、患者もそこに安心感を得られたのだと思います。病院としても、従来は1日数時間の移動がまったく不要になり、医師・看護師の負担が激減できたことで、実用化の手応えをつかみました。現在、年間80回ほど行っている巡回診療では、回数や実施地域をさらに拡大できるのではないかと期待しています。実証実験では、地域創生Coデザイン研究所が医療MaaS分野における知見によって企画立案や技術選定、プロジェクト運営など一貫して手厚い伴走支援をしてくれました。今後は、同社をはじめ、実証実験に協力いただいた自治体などとも連携しながら、早期の実用化をめざし、域外への展開にも積極的に貢献していく考えです。

医療MaaSに対する地元自治体の期待

【大田市】医療政策課
通院に関わる交通の問題や、医療機関減少による受診機会確保の課題に対し、医療MaaSは有用だと考えます。医療従事者の負担軽減にも有効だと感じており、実証実験で問題を検証し、実用化につなげてもらいたいです。

【川本町】健康福祉課
高齢化率が45%に迫る当町では、通院が困難な住民がすでに出てきており、通院の負担を減らす「医療MaaS」にはとても期待しています。薬剤指導への活用も検討しているようで、活用の幅が広がることに期待しています。

【美郷町】健康福祉課
医師数・診療科の偏在が全国的に問題となるなか、地域間格差の解消につながる取り組みだと感じています。車両には専門職が同乗されるので、オンライン診療に対する不安感の軽減にもつながるものと考えます。

支援企業の視点
地域交通 自動運転・医療MaaSの導入
深い地域理解に基づく課題解決で、持続可能なまちづくりを

美郷町や仁寿会が直面していた地域交通をめぐる課題を、MaaSという切り口で解決への取り組みを伴走支援しているのが、西日本電信電話(以下、NTT西日本)と地域創生Coデザイン研究所である。ここでは、この2つの取り組みを統括したNTT西日本島根支店長の福島氏と、地域創生Coデザイン研究所の小山氏を取材。今後、全国の高齢化地域や人口減少地域が直面するであろう地域交通をめぐる課題の解決策について聞いた。

インタビュー
福島 悦子
西日本電信電話株式会社
島根支店長
福島 悦子ふくしま えつこ
昭和48年、岡山県生まれ。平成8年4月に西日本電信電話株式会社に入社。製薬・化学業界向け法人営業や、ヘルスケアや教育分野の新規ビジネス開発、採用育成などの業務を経験。令和6年7月より現職。
インタビュー
小山 徹也
株式会社地域創生Coデザイン研究所
コンサルティング事業部 担当部長
小山 徹也こやま てつや
昭和47年、京都府生まれ。平成9年に日本電信電話株式会社に入社。複数地域での官公庁・民間企業営業に携わり、長きにわたり顧客の課題解決に従事。令和5年7月より現職。

地域交通網の維持は、自治体に課せられた使命

―地域交通を取り巻く現状をどのように見ていますか。

福島 地方を中心に、人口減少による採算性の悪化による鉄道路線の廃線や路線バス運転手の高齢化が進んでおり、地域交通網の脆弱化が懸念されています。一方で、高齢者が関係する交通事故も増加傾向にあります。当社がある島根県では、令和5年度の交通事故死者のうち、63%が高齢者であることから免許返納を促す動きも強まっています。そのため各自治体としては、住民の安心・安全な生活環境の維持に向けて、地域交通網の維持は多くの自治体に課せられた重要な使命となっています。

小山 その地域交通の脆弱化によって表れる身近な支障の1つが、医療へのアクセス悪化の問題です。医療サービスレベル低下で、その地域に住み続けられない状態に陥る恐れが出てきます。予防医療の機会も減りますので、医療費の増加にもつながりかねません。地域交通の課題は、自治体の行政経営自体に影響を及ぼしうる深刻な問題といえます。そこでNTT西日本グループとして提案しているのが、自動運転や医療MaaSといった、ICTの活用を通じた地域交通課題の解決です。

さまざまな分野で、新たな価値創造に貢献できる

―それらの支援における両社の強みはなんでしょう。

福島 まず、自動運転技術の導入に関して当社では、パートナー企業を通じて海外の先行事例や先進技術に対する豊富な知見を蓄積しています。また、スマートシティやDXといった自治体のまちづくり全体を支援してきた実績を背景に、そうした包括的な視点のもとに自動運転を位置づけて、地域における実用的な導入を支援できるのも当社の特徴です。さらに、自動運転のような先進技術の導入に際しては、国の支援も欠かせませんが、当社は国の補助事業にも精通していることから、各省庁の支援獲得を踏まえた、綿密な事業コンサルティングをグループとして提供できるのも大きな強みです。

―詳しく教えてください。

小山 たとえば、今回のような国の実証実験プロジェクトでは、多くの利害関係者との連携が必要となるため、当事者間の合意形成は不可欠です。また、地域課題もさまざまに異なるため、単にICTソリューションを導入するだけでは課題解決には至りません。いずれの観点からも地域への深い関与が必要です。当所ではその前提のもとで、地域コミュニティの組成、地域課題の探求やそれに基づく事業シナリオの構想、実行計画の策定からシナリオ検証まで、ソリューションの社会実装を見据えた徹底した伴走支援を提供しています。

―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。

小山 今回の自動運転や医療MaaSの取り組みは、当社グループの知見を活かした地域課題解決の一例に過ぎず、DX、インフラ、エネルギーなどさまざまな分野でテクノロジーを活用した新たな価値創造に貢献できると考えています。

福島 地域に根差した通信事業を長年展開してきたNTT西日本グループとして、深い地域理解に基づく社会課題解決を通じて、持続可能な地域づくりに幅広く貢献していきたいと考えています。

株式会社地域創生Coデザイン研究所
株式会社地域創生Coデザイン研究所
設立

令和3年7月

資本金

1億円

従業員数

53人(令和6年7月現在)

事業内容

地域課題解決コンサルティング、自治体・国に対する政策策定支援、地域データを活用したデジタルデータビジネス、上記に付帯又は関連する一切の事業など

URL

https://codips.jp/

お問い合わせ先
codips-promo@west.ntt.co.jp
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