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先進事例2020.12.02

オフィスを根本的に変えることで職員の働き方も変革する

オフィスを根本的に変えることで職員の働き方も変革する

愛媛県西予市 の取り組み

オフィスを根本的に変えることで職員の働き方も変革する

総務企画部 総合政策課 行革推進係 係長 亀岡 敦志 / 主任 片山 大輔

地域活性化、防災対策、環境対策――さまざまな自治体の取り組みは、住民に向けたものである。その中で“自らの職場環境”に目をつけたのが、西予市(愛媛県)だ。「住民に質のいいサービスを提供し続けるためには、まず自分たちが変わらなければならない」。そうした発想のもと、断行したのが平成27年に着手した「オフィス改革」である。現在では数多くの取材、視察があり、高い注目を浴びるまでになっている。人口4万人に満たない自治体の大きな取り組みの詳細を、同市の担当者に聞いた。

愛媛県西予市データ

人口: 3万9,057(平成29年10月末現在)世帯数: 1万8,225世帯(平成29年10月末現在)予算規模: 479億9,553万6,000円面積: 514.34 km2km²概要: 平成16年4月1日、東宇和郡の明浜町、宇和町、野村町、城川町、西宇和郡三瓶町の5町が合併して誕生。宇和海に面するリアス式海岸部、内陸盆地部、四国山地のカルスト台地につながる山間部と、その海抜高低差が1,400mにもおよぶ多様な気候と景観を有している。平成16年4月に松山自動車道西予宇和ICが開設され、愛媛県南部の広域流通拠点としての発展が期待されている。

―これまで西予市が抱えていた課題について教えてください。

 当市は平成16年に合併して誕生しましたが、合併当時から人口は8,000人以上も減って4万人を切ってしまいました。さらに、少子高齢化によってさらに人口が減ることが予想される上に合併の優遇処置も終わるため、市の職員数をカットしてコスト削減を考えなくてはならない状況にありました。しかし、それでも多様化するサービスに対応する必要があり、いままで以上により質の高いサービスを住民に提供しなくてはなりません。そこで「職員の意識改革を図って労働生産性を高めるために従来の働き方を見直そう」と、今回のオフィス改革につながりました。

―何かきっかけはあったのですか。

 平成26年5月に、総務省の大平(おおだいら)利幸氏が赴任してきたことです。同氏は、上司と部下のコミュニケーションが少なく、仕事のスピードも遅い西予市の状況に気づき、「現状を改革するため、さらに働き方を変えるためにはオフィス改革必要だろう」と、大平氏を中心に改革が進められました。

―どのようなプロセスで進めていったのでしょう。

 まずは“垣根”を取ることから始めました。それまでは、課長の席の前に課の机がズラリと並んで島を形成して、それぞれの課の間は書類棚で仕切られていました。まずこれを取り払って見渡しをよくしようと。平成27年3月に既存の机でレイアウト変更を実施し、袖机をなくし打ち合わせスペース設置しました。

 そして、第二段階の取り組みとして、平成28年4月に、デザイン経営工学の京都工芸繊維大学の仲隆介教授、社会心理学を研究している東洋大学の戸梶亜紀彦教授、一級建築士事務所オープン・エー代表の馬場正尊氏の3者と協力して進めていくことにし、「オフィス改革産学官連携・協力協定」を締結。職員向けにオフィス改革を理解してもらうために、何度もワークショップを開催してきました。

―そうしたワークショップを活かして、さらにどのような取り組みを行ったのですか。

 来庁者に気づきやすくするため、平行配置をやめ、斜めに隣り合うようにしました。

 また、業務により集中できる場所の必要性についても意見がでました。そこで「集中」をコンセプトにした窓際に一列に机が並んでいる席を設け、仕事に没頭したいときに使用しています。

 さらに、チームスペース(基本となる課の島)は存在するけれど、自分の席を持たずに机の上の書類などをすべてなくし、好きなところに座れるようにしました。チーム席は全職員の70%程度とし、残りの職員は新たに「コミュニケーションスペース」をつくり、そこで仕事をしてもらおうと考えました。職員は仕事が終わると自分のノートパソコンと書類をロッカーにしまい、出勤したらまたロッカーから出して好きな場所で仕事をするというスタイルです。これを実現するため、無線LAN環境を構築し全員にPHSを導入して、どこでも移動して仕事ができる環境となっています。

―「コミュニケーションスペース」とは、どのようなものでしょう。

 「プレイ(リフレッシュ)」「コラボ」「ウェルカム」などをテーマにした共有スペースがコンセプトの空間です。「プレイ」はカウンター席になっていて、仕事の合間に休憩をする空間。当然ですが、仕事をすることもできます。「コラボ」はボックス席や大テーブル席などが多彩な場があって、ほかの部署と打ち合わせをする空間。「ウェルカム」は市民と接する場です。対面カウンターは以前からありましたが、新たにテーブル席を設置。より市民に寄り添った対応をすることができます。

 ただ、新たにコミュニケーションスペースをつくるためには、既存のスペースを削らなければできませんでした。そこでペーパーレス化を進め、各人でもムダな資料をどんどん省いていきました。その結果、スペースを確保でき、多様なコミュニケーションスペースを設置することができました。

―ペーパーレス化はどのように進めていったのですか。

 袖机やロッカーなど、書類を保存できるスペースを大幅に減らすことで「紙で保存する」という各人の意識をなくすように促し、資料はデータで保存するように。また、会議のたびに膨大な紙資料を持ち歩いていましたが、大画面のモニターやプロジェクタを使用して資料を投影するように改善しました。

 また、大きな効果をもたらしたのがパソコン画面のデュアル化です。ノートパソコンの横にもう1台モニターを置くことで、複数の資料を画面に同時表示できるように。それまで資料をプリントして見くらべていたりしたのですが、すぐ横のモニターを見ながら作業ができるようになったので、スピードが圧倒的に速くなり、プリントする必要もなくなりました。

 さらに、複合機も3台から2台に削減してコストを抑えると同時に、プリントする意識を少なくしてもらうよう促しました。

―取り組み後の効果を教えてください。

もっとも変わったのは、職員同士のコミュニケーションが格段に増えたことです。以前は消耗品の保管場所や給湯スペースが各課にあったのですが、それも1カ所に集約。コミュニケーションが自然と生まれ、それまであまり接することのなかった人たちとの会話が増えました。それにより、他部署のことも少しずつわかるように。実際のアンケートでは約8割の職員が「以前よりコミュニケーションが増えた」と答えています。
 そして、ペーパーレス化によるコスト削減の効果も出ています。

 さらに、アンケート調査の結果から業務効率化された時間を金額に換算(単純計算による試算)したところ、最初の1年で約1,600万円相当になりました。レイアウトの変更による工事、新しい机やイス、PHS導入で約1,000万円かかりましたが、それを差し引く効果が出ていると思っています。

―改革を行ったことで懸念点はありますか。

庁内の職場改革ということで、住民からすると「ムダなお金を使っているのではないか」と思われる方もいると思います。そのため、オフィス改革によって具体的に何が変わったのかをはっきりと「見える化」することが大切だと思っています。それも、よりわかりやすいように具体的な数字に置き換えることが求められます。そうしたことがきちんと伝われば、今後のさらなるオフィス改革もスムーズに進められると思います。

―今後の展望を教えてください。

今回は全庁舎のうち、モデルとして本庁舎の4階フロアのみの改革です。今後、計画を立てほかのフロアはもちろん、4つの支所もあるため、そのオフィス改革も順次進めていきたいと考えています。

 オフィス改革とは単に内装を変えることではなく、最大の目的は「働き方を変える」ことにあります。その本質を忘れずに、従来のトップダウン型からボトムアップ型へ、指示待ちから行動派へ転換を図ることで、住民へのサービス向上に努めたいと思っています。

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