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先進事例2020.12.02

❝地元愛❞が成功の秘訣 ゆずの村おこし、年商30億円

❝地元愛❞が成功の秘訣 ゆずの村おこし、年商30億円

高知県馬路村 の取り組み

❝地元愛❞が成功の秘訣 ゆずの村おこし、年商30億円

馬路村農協 営農販売課 課長 長野 桃太

「地方創生」が、日本自治体における重要政策のひとつに掲げられており、多くの自治体が「まちおこし」の方法を模索している。そのようななか、高知県馬路村は、地元では一般的だった❝ゆず❞を独自の特産品に育て上げ、年間30億円を売り上げるまでに産業を拡大。数十年の長きにわたる取り組みが結実し、村おこしに成功したのだ。人口が1,000人に満たない小規模自治体による、成功の秘訣はなんだったのか。馬路村農協営農販売課の長野桃太課長に話を聞いた。

高知県馬路村データ

人口: 915人(平成28年11月30日現在)世帯数: 441世帯(平成28年11月30日現在)予算規模: 22億2,780万円(平成28年度当初)面積: 165.51km²概要: 高知県の東部に位置し、徳島県と接している。馬路と魚梁瀬(やなせ)の2つの大字からなる。広大な自然が広がる地域。藩政時代以降、馬路と魚梁瀬の両村にわかれていたが、明治22年に馬路村として発足した。杉の産地としても有名。ゆずの加工品で全国ブランドを確立し、年間30億円の売上高を安定計上するまでに成長している。『日本で最も美しい村連合』に加盟している。

新たな産業の構築へ 地道に販路を開拓

―「ゆずによる村おこし」の経緯を聞かせください。

 馬路村はもともと、林業で非常に栄えていました。村全体の面積の96%が森林だという特徴があり、村のほとんどの人たちが林業に携わっていました。杉を植えて材木として販売する事業でしたが、昭和20~30年代にかけて徐々に林業が衰退し、新たな職を求めて村から人口がどんどん流出していきました。そのようななか、「林業に代わる新たな産業を構築しなければならない」という機運が高まり、❝ゆず❞に脚光が当たったようです。それで、昭和38年から馬路村でゆずの栽培が始まりました。

―なぜ、ゆずに着目したのでしょう。

 高知県では昔から、ゆずが日常生活の様々なシーンで使われていました。絞り汁をお酢に入れたり魚にかけるなどして、普段の食卓で活用されていました。また、すし飯に入れるケースもあります。県内の消費量が高かったことから、馬路村でもゆずを栽培しようといった流れになったのです。

 ただ、当然ながら県内におけるほかの自治体でも同様の動きがあり供給過剰感ぎみになっていました。そこで昭和50年前後からは、県外に販路を求めて様々な商品PRを行うようになったのです。

―県外でのPRは最初からうまくいったのですか。

 いいえ。当時は、ゆずがまだ全国的に一般的ではなかったため、県外では、「ゆずってなに?」と質問されることも珍しくなかったようです。それでも百貨店での物産展やイベントで、商品紹介を地道に何年もかけて行いました。本当に、本当に地道に行ったのです。そのなかで、購入してくれた人たちから「またほしいです。どこで売っていますか」といった内容のお手紙が徐々に届くようになり、通販の取り組みもスタート。いまでは、通販での取り扱いが約30~40%になっています。

―現在は、どれくらいの商品を取り扱っているのでしょう。

 ゆずドリンク「ごっくん馬路村」、そしてポン酢しょうゆの「ゆずの村」を2枚看板に、約70種類の商品を提供しています。ゆずそのものを商品として取り扱うのではなく、ほぼすべての商品が加工品です。

―ここ数年、30億円の売上が継続できている状況です。ほかにどのような商品を取り扱っているのでしょう。

食品以外にも、ゆずの種からオイルを抽出し、それを化粧品やボディオイルに入れて商品化しました。ほかにも、新たな商品開発に注力している状況です。職員が知恵を絞ってアイデアを出し合っています。『商品力では大手企業にも負けないぞ』という意気込みです。

―加工品を取り扱うことでほかにどんなメリットがあるでしょう。

加工品は有機農法に準じた栽培が可能です。加工せずにそのまま流通させるのであれば、見栄えや形のよさも重要になりますが、加工品はそれを気にする必要がありませんから。有機農法だと見栄えがそれほどよくならないという点はありますが、消費者に安心感を提供できるといったメリットが生まれるのです。

―「商品力を企画するうえで気をつけているポイントはなんでしょう。

「馬路村を売り込んでいる」という点ですね。「田舎を売り込んでいる」とも言えます。ひと昔前であれば、田舎はマイナスイメージにしかとらえられませんでした。山奥でなにもない地域、自然しかない。しかし、それを強調することにしたのです。自然に満ちあふれている「田舎」として売り込むことを心がけました。そのほうが、一般消費者の方々も愛着がわくと考えたのです。

 「堂々たる田舎であり続ける」が私たちのキーワードです。また、商品や請求書発送の際にはお礼のメッセージを入れるなど、真心が伝えられるできる限りのことを行っています。

―多くの人から高く支持される地方特産品のひとつになりました。

ええ。みなさまから愛していただけている、高い支持をもらっていることに対しては、大変ありがたいと思っています。ただ、私たちは「単なる特産品」になってはいけないと思っています。人口1,000人に満たない村ですが、本当に多くの観光客に来ていただいています。ただ、このゆずを「観光地の特産品」だけにならないようにしなければなりません。みなさまに末永く使っていただくために、「日常」で使っていただく商品にするよう心がけています。今後もその観点で、新たな商品開発を手がけていきます。

―「まちおこし」を成功させるにはなにが必要ですか。

 大切なのは、その土地に愛着があるかどうかだと思います。昭和38年にゆずの栽培を始め、その後に販路拡大に取り組み、なかなか結果が出ず苦しんだときも「本当になんとかしてやっていこう」と村全体が一致団結しました。

 ほかの自治体以上の「危機感」が村にあったことは確かですが、「この村をなくしたくない」という想いでいっぱいでした。また、馬路村の名前が全国のみなさまに浸透しただけでなく、我々農協が経営するスーパーマーケットの運営コストの一部を、ゆずの収益でまかなうことができるため、村民に利便性向上といったメリットを提供できています。

 これからも村のため、一生懸命に商品開発していきます。

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