こんにちは、NTT東日本の北森です。
自治体DXが進んでいる今、私が庁内DXに携わってきたころから考えると、AI-OCRやRPAをはじめとして、デジタルツールを活用した庁内の効率化が徐々に当たり前になってきていることを感じています。
その中で、今回取り上げたいのは「フロントヤード改革」というテーマです。
自治体DXは庁内業務の効率化を中心に考えられてきましたが、昨年、書かない窓口の創意工夫の事例から、住民との接点(フロント)の改革(効率化)が今後のトレンドになると予想されます。
検討の経緯やポイントなど、他にはない情報を今回とりまとめましたので、ぜひ最後までお読みいただけると嬉しいです。
この記事を書いた人
北森 雅雄きたもり まさお
昭和62年、東京都生まれ。平成23年に東日本電信電話株式会社(NTT東日本)に入社後、自治体向けのシステムエンジニアとして、庁内ネットワークや公共機関向けアプリケーションなどのコンサルティングを担当。平成28年から現職にて、AI関連のサービス開発・デジタルマーケティングを担当。
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自治体フロントヤード改革の内容
自治体フロントヤード改革は、2023年より概念が生まれ、自治体DXのメインテーマとして取り上げられてきました。まずは、その内容について解説します。
フロントヤード改革は、地域との接点をデジタル化すること
フロントヤード改革とは、住民と行政との接点(フロントヤード)の改革を進めることを指しています。
具合的には、「書かないワンストップ窓口」などが該当し、今まで自治体DXの主流であった「行政手続きのオンライン化」などの庁内業務の効率化とは別物として捉えられています。
住民サービスの利便性向上と業務の効率化を進めることで、企画立案や相談対応への人的資源のシフトを促し、持続可能な行政サービスの提供体制を確保していくことが狙いです。
この改革を実現するためには、対面・非対面を適切に組み合わせることや、紙でなくデータによる対応を前提とすることも、実現に向けたポイントとされています。
フロントヤード改革が求められる背景
少子高齢化・人口減少が進み、行政資源がますます制約されていくことから、全国の自治体では、まず庁内手続きの効率化を自治体DXとして進めてきました。
効率化が進むと人手や時間に余裕が生まれますが、すると今度は「空いた稼働をどのように有効活用するか?」という問題が挙がるようになります。
その解決策で多いのが、住民サービスの向上です。実際に私の支援してきた案件の中でも、住民への丁寧な対応に時間を充てることを提案するケースがありました。
しかし近年では、住民の生活スタイルとニーズが多様化しているため、住民への対応時間を延ばすことだけが重要とはいえません。サービス向上のあり方について、社会全体が疑問視しはじめてきているのではないかと推察しています。
さらに、対応する行政職員の数が減少している現状も考慮され、アフターコロナの時代において住民との接点が拡大しています。庁内業務の効率化が進む今だからこそ、住民への対応を含んだ効率化が今まさに注目され、重要視されていると考えられます。
フロントヤード改革についての検討経緯
フロントヤード改革は、2023年の総務省の方針をきっかけに、自治体DXの新たなテーマとしてあがってきました。
以下、フロントヤード改革が進んできた時系列について、まとめております。
(本内容は、独自のリサーチした結果になりますので無断転載はご遠慮ください。)
フロントヤード改革に関する時系列
1「経済財政運営と改革の基本方針 2023」より抜粋
※本時系列については、インターネット上からのデスクトップリサーチにより時系列をまとめております。
フロントヤード改革の必要性
フロントヤード改革は、現在、自治体ごとの創意工夫のもと、取り組みが行われています。一つ一つの取り組みは、地域住民がよりハードル低く、行政サービスの恩恵を受けられることを目的としており、今後一層重視されるでしょう。
しかし庁内業務のDXと比較すると、自治体間で取り組みの進捗に差が生じていることが課題です。改革を継続的に進めていくためには、都道府県や市区町村で連携を取り、取り組みの横展開をしていくことが重要だと考えられます。
また、多様な住民ニーズに対応するためには、デジタル手続法の基本原則に則り、住民との接点の多様化・充実化(オムニチャネル化)を図る必要があります。それらの実現に向けたポイントや実現による期待値は以下のようなことが挙げられます。
● デジタルツール等を有効に活用すること
● 対面・非対面の対応を適切に組み合わせ、検討すること
● 庁舎はもとより、自宅に加え、 支所や公民館、郵便局といった住民に身近な場所でも対応可能とすること
● 紙ではなく、デジタルデータによる対応を前提とすること
これらの改革を通じて、庁舎空間が単なる手続きの場からさまざまな主体が集う地域課題の解決の場として活用されることも期待されます。
2023年更新の自治体DX推進計画:フロントヤード改革の追加
これらの経緯を踏まえ、自治体DXの基本計画となる自治体DX推進計画が2023年11月7日に改定され、方針の中にフロントヤード改革が追加されました。
ここからは、具体的な更新点について、フロントヤード改革を軸に解説します。
自治体DX推進計画の2023年の主な追加点
自治体DX推進計画では、前述で解説しているフロントヤード改革に関する記載が追加されています。
自治体DX指針計画の概要には、追加の経緯について以下のように記載されています。
”「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針2023)」に、「推進計画に基づき、デジタル人材の確保・ 育成やデジタル技術の活用、住民との接点(「フロント」)の改革など、財政の効率化等につながるデジタル化の取組を推進する」旨が記載されたこと等をふまえ、随時改定を実施。”
参照:自治体DX推進計画等の概要
随時改定された内容をみても、住民との接点(フロント)を改革していくことは、今後自治体が取り組むべきDXとして優先順位が高くなるであろうと推察されます。
フロントヤード改革を推進することで何が変わるのか?
住民と行政の接点(フロントヤード)の改革を行うことで、住民や地域事業者に対し、以下のような状態を形成することができます。
1. 書かせない
2. 待たせない
3. 迷わせない
4. 行かせない
上記の図に示されているのは、構造的にまとめられた4つの取り組みです。
これら4つを考慮することで、住民が従来感じていた窓口での時間がかかるというイメージを払拭することができると期待されます。
自治体がフロントヤード改革を推進するために行うべきこと
ここまで、フロントヤード改革を今後進める必要性について解説してきました。ここからは、具体的に自治体の方がどのようにアクションを取るべきかを、自治体DX推進計画から抜粋し解説します。
住民との接点の多様化・充実化
マイナポータルを通じ、全ての市区町村で引っ越しの手続きをオンラインによって行うことができます。
● 転出届の提出
● 転入届(転居届)提出のための来庁予定の申請
ただし、転入届(転居届)の提出はマイナポータルから行えないため、来庁が必要です。
今後は、処理件数の多い手続きを中心に、関係府省庁と連携しながらオンライン・デジタル化を推進し、フロントヤード業務全体の改革(BPR)をしていくことが重要になります。
ただし全てをデジタル化するだけでなく、個別ブースでの丁寧な相談など、対面・非対面の対応を適切に組み合わせ、住民サービスの品質が損なわれないように心掛ける必要があります。
データ対応の徹底
基幹業務システムの標準化と並行しながら、以下のようなことを意識して取り組むことが重要です。
●フロントヤードの手続きを直接「データ」で処理・運用の徹底
●内部業務(バックヤード)の効率化
●集約化(入力業務の削減や審査業務の集約など)
準備事項としては、システム申請処理に関連するデータ(処理件数、処理時間、待ち時間など)を把握することからはじめるのが重要です。
処理工程を可視化して業務課題を分析、対策を練ることで、データに基づく業務改善(データドリブンな行政経営)を実現します。
改革による人的・空間的リソースの最適配置
業務改善で得た人材を有効に再配置し、政策企画などを充実させつつ、窓口業務もより親しみやすく変えていくことが必要です。
同時に、窓口の空間を整理し、手続き専用の場所を減らしています。
これにより、住民の待ち合いスペースが広がり、庁舎が単なる手続き場所から、さまざまな人が集まり相談や交流ができる場に庁内空間が変化していくことが期待できます。
国の支援策
自治体単独では新たな施策を前に進めるのは困難といえます。
ここでは、国が準備している支援策について解説します。
事例創出と横展開のための支援
各自治体のフロントヤード改革に関して、取り組み状況を調査し、先行事例や優れた実践例を展開するため、横展開を促進するための調査や研究を実施します。
同時に、このような改革を進める自治体には必要な人材や財政的支援を提供し、模範的な改革事例を創出します。
人的支援
施策を推進するための人的支援として、自治体DX推進計画では以下の4つが紹介されています。
1. 窓口 BPR アドバイザー派遣事業【デジタル庁】
2. 窓口 BPR アドバイザー育成事業【デジタル庁】
3. 地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業(地方公共団体の DX 関係)【総務省】
4. 地域情報化アドバイザー派遣制度【総務省】
上記以外では、内閣府にて「デジタル専門人材派遣」という民間企業から人材を派遣しDXを推進する制度もあります。
NTT東日本からも、多くの人材が自治体さまの支援をしており、過去に自治体通信でも記事に取り上げていただきました。
ICT人材を活用したDX推進で、職員が自走する環境づくりを目指す
デジタル専門人材の積極登用で、DX計画策定とツール導入が加速
財政的支援
フロントヤード改革に欠かせないデジタル活用への財政的支援として、以下の交付金があります。
●デジタル田園都市国家構想交付金【内閣府】
他の地域等ですでに確立されているサービスや優良モデルを活用した実装の取り組みを支援するものです。また、モデルケースとなるような取り組みも当てはまります。
申請書作成支援システムや証明書自動交付機、各種証明書発行(住民票等)の オンライン申請などの導入といったフロントヤード改革に資する個別の取り組みを推進します。
環境支援
デジタル庁が提案している「書かないワンストップ窓口」に取り組みやすくなる環境をつくるため、以下の試みがあります。
●自治体窓口 DXSaaS【デジタル庁】
デジタル庁が整備するガバメントクラウド上に、デジタル庁が選定した複数の事業者が「窓口DXに資するパッケージ」機能(SaaS)を構築し、その機能を地方公共団体が選択して利用することで、地方公共団体が窓口 DX「書かないワンストップ窓口」に取り組みやすくなる環境の提供を行います。
自治体でのフロントヤード改革・庁内DXの導入事例
ここでは、いくつかの自治体さまのフロントヤード改革や、それを支える庁内DXの事例について紹介します。
【フロントヤード】電子契約:長野県高森町
地方自治法施行規則の改正にともない、自治体が民間企業と電子契約を締結するハードルが低くなったことを受け、電子契約システムを検討・導入する自治体が増えてきております。
高森町(長野県)さまもそうした自治体のひとつで、システムの導入により、庁内だけでなく地元事業者にもDXが波及していくことに手応えを感じているといいます。
実際に地元事業者向けの説明会の際、小さい町にもかかわらず100人を超える事業者が参加されました。地域の方々からも、電子契約に対する関心の高さが伺え、フロントヤードの改革ができた1つの事例です。
契約書のデジタル化によって、地元事業者も巻き込んだDXを実現
【窓口DX】:宮城県岩沼市
フロントヤード改革の「書かないワンストップ窓口」に一歩近づいた事例もあります。
宮城県岩沼市の自治体では、スマートフォンやインターネットなどのデジタルツールを使いこなす子育て世代などに対し、オンラインにて事前に来庁予約を実施するツールを構築しました。これにより、職員の窓口業務の効率化だけでなく、住民の待機時間短縮や窓口混雑の回避にもつながっています。
自治体職員の業務を効率化することで、住民へのサービスに還元し、双方にとってメリットが得られるようになったという事例です。
岩沼市と東日本電信電話株式会社宮城事業部との地域課題解決に向けたDXに関する実証実験の開始について (ntt-east.co.jp)
【庁内DX】AI-OCR・RPA:北海道恵庭市
時間外労働が多く、業務の効率化に迫られていた恵庭市税務課。
業務改善のため、庁内のさまざまな担当課へのヒアリングを繰り返し、RPA/AI-OCRの導入をしたことで16業務を効率化することに成功しています。その結果、最大65%の業務削減を図ることができたとのことです。
RPA化の前に、業務手順を見直し、課題を洗い出すことでBPR(業務改革)が推進され、庁内や北海道内のRPAおよびAI-OCRの導入推進の一助とすることができた事例です。
税務課主導のRPAプロジェクトで16業務の効率化に成功職員の“当事者意識”で自治体のDX推進は加速する!
【庁内DX】勤怠管理:北海道雄武町
新たな施策を進めるには、職員の勤務状況を適切に把握しなければいけません。
雄武町役場では、庁内職員の勤務状況を正確に把握できるようになり、労働時間に対する職員の意識変革が促されました。
給与計算の自動化も実現し、作業時間の短縮や精神的負担の軽減につながったとのことです。勤怠の打刻を外出先からもできるようになり、テレワーク促進など働き方改革をより推進していく足がかりができました。
クラウド型勤怠管理サービスで“出勤簿にハンコ”から脱却正確な労働時間の可視化で職員の意識変革を促進!
フロントヤード改革の実現に向けて対応すべきプロセス
フロントヤード改革の実現に向けて、重要性についてはご認識いただけたかと思います。
しかし、まだ明日から何をやれば良いかわからない、といった本音もあるかと思います。
ここからは、今後施策を具体的に進めていく上での手順を解説します。
事例を集め、対象課の実態を整理する
フロントヤード改革の支援策の中でもあったように、まずはユースケース・事例を集め、それを参考にしながら対象の課と意見交換をすることが重要です。
業務でのお困りごとや、事例を当てはめたときに課題となる点などをヒアリングすると、改善策が見えてくるでしょう。
一歩ずつ課題をひも解き、対策を進めることがDXには重要です。
一方で、そんなに都合よく事例がないよ、と思われた方もいらっしゃるかと思います。
そのような方々に向けて、自治体さまの生の声を聞けるイベントを企画していますので最後にご紹介させていただきます。
解決できるDX・デジタルツールを調査・推進人材の設置
フロントヤード改革では、デジタルを前提とした設計が重要といわれています。事例を解決する上で、どのようなツールが必要なのか、またそれを推進するためのパートナーや庁内での推進役としては誰が適切なのかを整理していきましょう。
NTT東日本では、電子契約やAI-OCRだけでなく、全国のハブとなってさまざまな自治体DXを全面的にサポートさせていただくことが可能です。
まとめ:自治体の事例を集めるために「自治体業務DXのホンネ」に申し込もう!
フロントヤード改革を進めていくため、最初の一歩として他自治体の生の声や事例を集めることからはじめたいと思われる方も多いかと思います。
NTT東日本では、総務省をはじめ、全国の自治体DXを推進する方を集め、「自治体DXのホンネ」を2023年3月21日(火)13:30より開催いたします。
本セミナーは終了しました。
講演① (10分) | 「自治体業務DXに『ホンネ』が必要な理由」 東日本電信電話株式会社 ビジネス開発本部 CXビジネス部 業務DXサービス担当/北森 雅雄 氏 |
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講演② (30分) | 「自治体DX推進に向けた総務省の取組」 総務省 自治行政局 地域DX推進室 室長/君塚 明宏 氏 |
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講演③ (30分) | 「県と市町村の電子契約共同導入(仮)」 長野県 企画振興部 DX推進課 主事/南澤 達哉 氏 |
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講演④ (30分) | 「It "Will" be fine!~DXのカギは現場の想い~」 恵庭市 総務部 財務室 債権管理課 主査/浅見 宏太 氏 |
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講演⑤ (30分) | 「ローコードを活用した定型業務の効率化および業務スキルの伝承」 大鰐町 保健福祉課 課長/山中 竜也 氏 東日本電信電話株式会社 ビジネス開発本部 無線&IoTビジネス部 WiFi/LAN企画担当 チーフ/長谷川 洋 氏 |
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講演⑥ (30分) | ローコード・ノーコード及び生成AIによる自治体業務DXの取り組み(kintone、power app) 東日本電信電話株式会社 ビジネス開発本部 クラウド&ネットワークビジネス部 クラウドサービス担当/岡部 佑太 氏 東日本電信電話株式会社 ビジネス開発本部 CXビジネス部 業務DXサービス担当/北森 雅雄 氏 |
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※講演内容や時間配分等は変更になる可能性がございます
本セミナーは無料でご視聴いただけます。フロントヤード改革や自治体DXに関してお悩みの方、ご興味がある方はぜひお気軽にご参加ください。
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