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議論を重ねて、エリアごとに防災対策を練る それが「静岡方式」の取り組みです

議論を重ねて、エリアごとに防災対策を練る それが「静岡方式」の取り組みです

静岡県 の取り組み

南海トラフによる巨大地震に備え、独自の施策を展開

議論を重ねて、エリアごとに防災対策を練る それが「静岡方式」の取り組みです

静岡県知事 川勝 平太

「いつ起こってもおかしくない」と言われ続けている、南海トラフによる巨大地震。平成24年に内閣府が出した被害想定では、死者は全国で32万2000人。その3分の1が震源域が直下にある静岡県に集中するとされた。元より防災意識が高かった同県だが、発表を受けて防災施策をさらに加速させている。知事の川勝氏に取り組みの詳細を聞いた。

※下記は自治体通信 Vol.12(2018年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

震災支援を行いつつ県の防災対策に反映

―静岡県といえば「地震対策先進県」のイメージがあります。

 そのとおりです。東海地震説が出た直後の昭和54年から、約40年にわたり、防災対策を進めており、自他ともに認める防災先進県です。

 基本姿勢は「どこの災害も他人事とは思わず、支援を惜しまず、現地で学ぶ」です。東日本大震災と熊本地震の被災地には、いまも支援員を交代で派遣しています。支援員が戻ると現地の課題を聞き、防災政策に活かしています。

 東日本大震災では、私も職員と現地に何度も足を運び、津波の怖さを実感。そこで、地震対策に偏っていた対策に津波対策をくわえました。津波避難訓練を重視し、平成25年に「地震・津波対策アクションプログラム」を策定し、南海トラフ巨大地震・津波による想定犠牲者10万人以上の数を10年間で8割減らすことを目標に、すでに3分の1余りの対策は終えました。

―どのような取り組みを行っているのですか。

 津波対策の方法に特徴があります。県・市町・地区住民が協働で決める方式です。他県では、当局が「コンクリートの防潮堤をつくる」など、上から一方的に決めて住民ともめている例があります。当県では、住民と議論し、合意のうえで、津波対策を進めており、内外から高い評価を得ています。

 たとえば浜松市では、早くに協議が整い、内陸部に仮設住宅用の台地を造成し、そこで出た土砂にセメントを混ぜた防潮堤を造成中です。袋井市では江戸時代の「命山」で住民の命が守れたことが誇りで、「平成の命山」を造成したところ、見学が絶えません。掛川市の海岸では「潜在自然植生」による❝ふじのくに森の防潮堤づくり❞を実施しています。清水港では港から少し入った所にぐるりと防潮堤を築くことで合意にいたりました。伊豆半島では美しい海岸線を壊す防潮堤は不用という意見が圧倒的で、避難路・避難場所を確保して訓練を繰り返し「逃げる」を最優先にすることで合意し、ソフト対策を進めています。

 こうした沿岸地区ごとに合意形成を図って取り組む方式は「静岡方式」といわれています。

防災の基本となるのは県民の「自助」意識である

―議論することで、住民の防災意識も高まりますね。

 ええ。防災意識の向上は、大きな課題です。以前の想定は「東海地震は予知できる」というものでした。しかし、阪神・淡路大震災も東日本大震災も熊本地震も予知できませんでした。現在の想定は「確実な予知はできない」というものです。突発的な地震・津波を想定し、それに応じた方策を練っており、訓練を繰り返しています。

 もっとも重要なのは一人ひとりの「自助」です。地震・津波に際しては、まず自らを助ける「自助」、次に近隣で助けあう「共助」、そして行政の「公助」。公助は初動を急いでも遅れがちです。自分が死ぬと周りが悲しみます。「自分が助かる=人のため」です。「自助」の意識をもつことが防災・減災の最初の一歩です。

 当県では「ふじのくに防災士」「ジュニア防災士」など独自の資格をつくり、防災知識の高い人材を育成。「家具が倒れないようにするにはどう留めるか」「災害が起こったときにはどう行動すべきか」など日頃から訓練し、卒業時には全生徒がジュニア防災士の資格をもつ高校もあります。県民の防災知識は日本一でしょう。

―実際に災害が起こった際の対策は、どう整備しているのですか。

 災害が起こってからの「事後対策」ではなく、あらゆる災害を想定した「事前防災」の考え方を基本にしています。

 県の東部には陸上自衛隊の駐屯地、西部には航空自衛隊の基地があります。県内すべての駐屯地や基地の司令、警察、消防、海上保安部などの応援部隊の指揮官と年1回の「指揮官会議」を平成15年から継続しています。最近は、海上自衛隊も参加。在日米軍とは、富士山静岡空港などで、防災訓練を繰り返しています。県庁・自衛隊・米軍の担当者との間で「顔の見える」関係ができると、災害時に迅速に救援体制が整う条件になります。

 さらに当県では、国内では熊本と鹿児島の両県、海外では友好地域の浙江省(中国)、忠清南道(韓国)のほか、台湾のすべての直轄市や県など地方政府とも防災協力で合意し、災害時に助けあう仕組みを工夫しています。これは、当県ならではの取り組みです。

新東名高速を活用し防災・経済政策を両立

―ほかにどのような取り組みを行っているのでしょう。

 東西を結ぶ高速道路「新東名」の静岡県内区間162kmを平成24年に「前倒し」で完成し、全SA・PAに緊急用ヘリポートを備えました。新東名の走る内陸の中山間地は津波の心配がなく、同時に中山間地を拓く重要なインフラでもあります。私は新東名の周辺を「内陸のフロンティア」と位置づけ、国の総合特区指定を獲得して、物流・生産拠点の形成を進めています。

 県独自でも78区域を「内陸フロンティア推進区域」に指定し、企業立地の助成制度を充実させました。企業が立地すれば住民が増えます。「内陸のフロンティアを拓く取り組み」は、防災政策と成長戦略を両立させた画期的なものとして、内閣府から二度も最高の評価をいただきました。内陸の開発とともに、沿岸部では安全性を高めるリノベーションを行い、両地域を結ぶ連携軸をつくっています。この取り組みは、県土の均衡ある発展に役立っています。

県民一人ひとりを意識し現場主義を徹底する

―川勝さんが行政を行ううえで、大切にしていることはなんですか。

 現場に学ぶことです。「静岡方式」にも通じますが、370万人の県民一人ひとりの生活を大切にすることが重要。私は「仕事場は知事室ではなく、現場である」と心得ています。過去8年間余りで2500回以上も県内を回っています。県内各地で寝泊まりして、朝から晩まで働く「移動知事室」は年4、5回。地域住民と意見を交わす知事広聴「平太さんと語ろう」も年5、6回。徹底した現場主義です。

―今後の行政ビジョンを教えてください。

 富士山の姿に恥じない美しく品格のある地域づくりを行っていきます。富士山は国土の代表です。富士を仰ぎ見て、自然への畏敬の念を忘れず、活火山なので危機管理を怠らず、美と和を重んじ、季節ごとの姿から感性を豊かにし、大地の恵みを大切にする「地産地消」を推進しています。

 富士山は人を幸せにする存在です。「富士」の「富」は物の豊かさを、「士」は徳のある人を意味します。「富士」を四字熟語にしたのが「富国有徳」です。「富国有徳」を県是として、「富づくり」「人づくり」を二大柱にした理想郷❝ふじのくに❞づくりを進めています。

川勝 平太(かわかつ へいた)プロフィール

昭和23年、京都府生まれ。昭和50年に早稲田大学大学院経済学研究科修士課程を修了。昭和60年にオックスフォード大学で博士号を取得する。平成2年、早稲田大学政治経済学部教授に就任。国際日本文化研究センター教授、静岡文化芸術大学学長を経て、平成21年に静岡県知事に就任。現在は3期目を務める。


静岡県 の取り組み

議論を重ねて、エリアごとに防災対策を練る それが「静岡方式」の取り組みです

※下記は自治体通信 Vol.12(2018年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

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