現在、全国各地で自治体と地元ケーブルテレビが連携した地域DXのプロジェクトが増加している。自治体が地域DXのパートナーに地元ケーブルテレビ事業者を選択していることには理由がある。それは、ケーブルテレビ事業者が通信、IoT、映像など地域DXに必要な技術力を持っていることと、地域の事業者として自治体や住民から信頼を得ていることだ。自治体がケーブルテレビと連携した地域DXによって、地域課題の解決を図っているさまざまな事例を連載でレポートしていく。
2月からスタートする連載の「予告編(1)」の今回は、昨年連載した「自治体・ケーブルテレビ連携」の地域DX事例レポートをダイジェスト版でお届けする。
(取材・文:渡辺 元・『月刊ニューメディア』編集主幹)
河川監視や水資源PRなどを情報発信する三島市の「水DX」
静岡県三島市は「水の都」とも呼ばれる。噴火した富士山から流れてきた溶岩の末端に位置する三島市には湧水群があり、中心市街地にも湧水や川が多数ある。
しかし、暮らしの近くに水があることは、ひとたび大雨になれば水害の危険もあるということにほかならない。そこで三島市は、水に関する防災と観光案内の両方を兼ね備えた情報発信をWebサイトで行う「水DX」のサービスを2023年に開始した。
水DXは河川監視や水資源のPRなどをWebサイトで情報発信する、水関連の総合的な地域DXサービスだ。システムの構築を委託されたのは地元ケーブルテレビ事業者のTOKAIケーブルネットワーク。デジタル田園都市国家構想交付金を獲得したプロジェクトだ。
TOKAIケーブルネットワークは、三島市のWebサイト上で防災用途の河川のライブカメラ映像や水位情報を提供したり、三島市内の水関連の名勝などのライブカメラ映像を紹介する観光用途の発信を合わせた水DXのシステムとサービスを具体化した。同市には他のメーカーなどからも、河川に監視カメラを設置するといった提案は来るが、それらは災害対策がメインだった。それに対して三島市担当者が、TOKAIケーブルネットワークの提案内容が良かったと評価するのは、災害時だけでなく平時にも住民や観光客などが利用できることだ。平時にも活用できることで、今後長期にわたって運用できる水DXを実現できた。
縦割り行政の壁を越えたケーブルテレビ事業者の調整力
この水DXの大きな特長は、市役所内の縦割り行政の壁を越え、各部署を横断する形で三島市の総合的なDXを実現している点だ。水DXの各サービスは、管轄する市役所の部署がそれぞれ異なる。準用河川や内水氾濫水位監視は「土木課」、監視カメラは「危機管理課」、インバウンド向けサービスは「みどりと水のまちづくり課」、水質情報は「環境政策課」といったように、水DXだけで市役所内の7つの部署に管轄が分かれている。さらに一級河川の監視は国、二級河川は県が管轄している。
この縦割り行政の組織の壁を越えることができたのは、ケーブルテレビ事業者であるTOKAIケーブルネットワークが市役所の各部所と調整を行ったからと言える。市役所内の公園、農地、土木、危機管理、上水道、下水道といった課によって水DXの目的や要件が異なる中で、各課が納得する内容に同社が調整を果たした。三島市の担当者は、TOKAIケーブルネットワークはシステム技術的な知見だけでなく、完成した形のイメージも把握して、各課間で説明・調整したと、高く評価する。
各部署にそれぞれ政策目標があり、調整は容易ではない。この縦割り行政の壁を越えることができたのは、日頃、市役所の各部署と密接な関係と信頼を築いているケーブルテレビが調整役を担ったからだろう。
ケーブルテレビ回線が災害時のトラフィック急増を軽減
ケーブルテレビ回線の強みも活かされている。2024年現在、三島市の通信加入世帯の約3割強でTOKAIケーブルネットワークのインターネットサービスが利用されていた。これらの世帯では、一旦インターネットに出ることなく、ケーブルテレビの閉域網で同社のデータセンターにつなぐことができる。災害時にインターネットが遮断された場合でも、水DXのWebサイトで川のライブカメラ映像や水位データを確認することが可能だ。インターネットに接続できる場合でも、3割の世帯が閉域網を使うことで、その分インターネットのトラフィックが少なくなるため、残り7割の世帯ではインターネットへのアクセスの集中を軽減できるという大きな効果がある。
現在、水DXは他の自治体からも注目されている。静岡県内だけでなく台風の通り道で水害の多い九州や四国などの自治体からの問い合わせも三島市やTOKAIケーブルネットワークに寄せられている。自治体とケーブルテレビ事業者が連携して地域DXに取り組んだ成功事例として、三島市の水DXは全国に認知が広がりつつある。
自治体・ケーブルテレビ連携のイベント「ケーブル技術ショー2025」
本連載の地域DX事例のキーパーソンが結集するシンポジウムも開催
ケーブルテレビ業界で国内最大の展示会「ケーブル技術ショー2025」が、「自治体+ケーブルテレビ」のイベントに進化して2025年7月に都内で開催される。近年、自治体が地域DXのインフラ構築や運営などの業務を地元ケーブルテレビ事業者に委託する成功事例が全国で増えている。ケーブルテレビ業界でも、地域DX事業への取り組みに業界を挙げて力を入れている。
このような動向を受けて、今年のケーブル技術ショーは自治体関係者向けの展示やセミナー、ケーブルテレビ事業者と自治体の来場者、出展者が意見交換や交流を深めるための交流イベントなどを大幅に強化する。
ケーブル技術ショーでは、本連載でレポートする自治体・ケーブルテレビ連携による地域DXのキーパーソンたちも会場に結集。シンポジウムやセミナーで、より詳しい情報を話したり、聴講者からの質問に直接答える。交流イベントで情報交換もできる。
●ケーブル技術ショー2025の概要
開催日 | 2025年7月24日(木)・25日(金)(オンライン展示は6月24日(火)~ 9月10日(水)) |
会場 | 東京国際フォーラム |
主催 | (一社)日本ケーブルテレビ連盟、(一社)日本CATV 技術協会、(一社)衛星放送協会 |
参加料金 | 無料※(事前登録制) |
※「ケーブルコンベンション2025」も同会期・同会場において開催されます。
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