ケーブルテレビが提供するIoTの導入台数が増加
富山県射水市は、地元ケーブルテレビ事業者の射水ケーブルネットワークが提供するIoTをさまざまな分野で多数導入し、水害予防から産業、教育、観光振興、そして地震・津波対策まで、地域DXを急速に強化している。観光振興の目的でイベントなどの人流データの計測・分析をするために導入したロケーションアナライザーは、能登半島地震での市民の避難行動の実態や課題の抽出にも活用され、地震・津波対策強化の取り組みが進められている。
射水ケーブルネットワークが提供するIoTが射水市へ最初に導入されたのは積雪深センサーで、その後、除雪車位置情報や消雪装置の稼動監視といった雪害関連のIoTの導入が検討された。次に、豪雨による浸水被害の事案があったため、排水路の水位監視センサー、雨量計、排水路の堆積物センサーも導入。ため池の水位・雨量監視センサー、イノシシの罠センサー、海の環境を把握するためのICTブイも導入された。さらに、温湿度CO2センサーを市内の全保育園の全保育室に導入した。IoTではないが、2023年7月の豪雨で多大な被害が出たため、浸水被害が多い地区に監視カメラも設置した。緊急時には、ケーブルテレビのコミュニティチャンネルで監視カメラの映像を放送し、視聴できるようにしている。2024年に入ってからも、射水市でのIoTの導入台数が増加した。
射水ケーブルネットワークが提供するIoTが多くの用途で導入され、拡大しているのは、同社が信頼されていることと、導入されたIoTが実際に効果を上げていることが評価されている結果だ。同社が提供するIoTの導入が拡大している要因には、低価格で提供していることも挙げられる。
地元ケーブルテレビ事業者である射水ケーブルネットワークは土地勘が地域外の企業より優れており、迅速な対応が可能であることも、導入増加の要因だ。例えば、センサー設置の要望があれば、その日のうちに現場を下見し、翌日には設置の説明や提案に行くこともある。
ケーブルテレビ業界ならではの協力体制を活用
射水ケーブルネットワークのIoTに使われているセンサーは、それぞれ専門の会社の製品を使用している。自社で選定した製品だけでなく、他のケーブルテレビ事業者が自治体向けに採用した製品なども参考にしている。一般社団法人日本ケーブルテレビ連盟は毎月1回、無線利活用委員会でIoTビジネス推進タスクチームの会議を開催している。約30局のケーブルテレビ事業者が参加し、IoTの成功事例と失敗事例を報告し、情報共有している。これにより、ケーブルテレビ事業者は成功事例の製品を迅速に導入できる。サービスエリアが分かれているケーブルテレビ事業者は競合関係にないため、友好的に情報を公開し合っている。他のケーブルテレビ事業者からの情報提供が、射水ケーブルネットワークのIoT提案でも助けになっている。
逆に射水ケーブルネットワークが使用しているセンサーを応用して導入された事例もある。長崎ケーブルメディアは射水ケーブルネットワークのICTブイの事例から、航路の波の高さを計測するソリューションを発案し、射水ケーブルネットワークとZTVが開発したIoT用ダッシュボードに連携して商用サービスとして提供している。これらはケーブルテレビ業界ならではの協力体制だ。
ロケーションアナライザーで避難行動を把握・改善
近年、射水市に射水ケーブルネットワークが提供しているDXソリューションとしては、ロケーションアナライザーが大きな効果を上げている。KDDIのソリューションであるロケーションアナライザーを射水ケーブルネットワークが代理店契約を結んで運用し、射水市に人流などの計測・分析データを提供するというサービス形態だ。射水ケーブルネットワークはイベントなどの人流データ計測・分析に応用できると考え、射水市に提案し、プロポーザル審査を経て、業務委託契約を締結した。通信ソリューションに詳しいケーブルテレビ事業者の発想力が発揮された事案だ。
KDDIのスマートフォンの位置情報をGPSで把握するロケーションアナライザーは、画像を解析するのではなくGPSのデータを利用するため、マスクをしていても年代がわかるといった利点があり、過去のイベントの人流データをさかのぼって取得することもできる。また、分析結果の視覚化も可能で、棒グラフなどでわかりやすく表現できる。
こうして同市がロケーションアナライザーの活用を始めていたときに、2024年1月の能登半島地震が起こった。ロケーションアナライザーは地震発生後、各避難所の避難者の人数や年代などの状況把握や、避難行動の検証にも一役買った。
射水市は能登半島地震によって道路が隆起するなど、市内各所で液状化の被害が出たが、津波は高さ数十cm程度で、被害はなかった。しかし、ロケーションアナライザーによる計測・分析で、多くの市民が津波から逃れるために高台への車での避難を試み、大規模な渋滞が発生したことが判明した。正しい避難行動は、小学校や体育館など近くの高い建物への避難だ。これを受けて同市は、沿岸部の避難所を改めて周知強化する。
また、地震発生後、避難所に向かわなかった人が一定数いたことも明らかになった。特に70歳以上ではその場所にとどまる人も多く、その人々のケア方法について検討する必要性が浮かび上がった。ロケーションアナライザーは個人の特定はできないが、その人物の属性は把握できる。同市は個人の人流データをもとに、地震発生後に避難しなかった人を個別に調査し、意図的に避難しなかったのか、それとも避難したかったが動けなかったのか、その人は独居老人なのか、足などが悪いのか、といったことを調査・把握し、普段からその人を見守ったり、災害時に支援したりする方法をあらかじめ準備する。
射水市はコスト面の利点が大きく、地域課題にも詳しく、業界の横連携も活用できる地元ケーブルテレビ事業者が提供するIoTやソリューションを導入することで、水害予防から産業、教育、観光振興、そして地震・津波対策まで、地域DXを急速に強化することができた。自治体がケーブルテレビ事業者と連携した地域DXの成功事例として注目されている射水市のIoTは、今後さらに活用分野と規模を拡大させていきそうだ。
自治体・ケーブルテレビ連携のイベント「ケーブル技術ショー2025」
本連載の地域DX事例のキーパーソンが結集するシンポジウムも開催
ケーブルテレビ業界で国内最大の展示会「ケーブル技術ショー2025」が、「自治体+ケーブルテレビ」のイベントに進化して2025年7月に都内で開催される。近年、自治体が地域DXのインフラ構築や運営などの業務を地元ケーブルテレビ事業者に委託する成功事例が全国で増えている。ケーブルテレビ業界でも、地域DX事業への取り組みに業界を挙げて力を入れている。
このような動向を受けて、今年のケーブル技術ショーは自治体関係者向けの展示やセミナー、ケーブルテレビ事業者と自治体の来場者、出展者が意見交換や交流を深めるための交流イベントなどを大幅に強化する。
ケーブル技術ショーでは、本連載でレポートする自治体・ケーブルテレビ連携による地域DXのキーパーソンたちも会場に結集。シンポジウムやセミナーで、より詳しい情報を話したり、聴講者からの質問に直接答えたりする。交流イベントで情報交換もできる。
※本連載、ケーブル技術ショー2025の自治体・ケーブルテレビ連携に関する主催者展示、シンポジウム、セミナーの企画は、一般社団法人日本ケーブルテレビ連盟の「地域ビジネス推進タスクフォース」のご協力をいただきながら実施します。
●「ケーブル技術ショー2025」の概要
開催日 | 2025年7月24日(木)・25日(金) (オンライン展示は6月24日(火)~ 9月10日(水)) |
会場 | 東京国際フォーラム |
主催 | (一社)日本ケーブルテレビ連盟、(一社)日本CATV 技術協会、(一社)衛星放送協会 |
・参加料金 | 無料※(事前登録制) |
※「ケーブルコンベンション2025」も同会期・同会場において開催されます。