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「飛騨市流ファンクラブ」の取り組みで❝人口減少先進地❞に活力を生み出す

「飛騨市流ファンクラブ」の取り組みで❝人口減少先進地❞に活力を生み出す

岐阜県飛騨市 の取り組み

❝ 聖地巡礼❞に頼りきることなく独自の戦略を追求

「飛騨市流ファンクラブ」の取り組みで❝人口減少先進地❞に活力を生み出す

飛騨市長 都竹 淳也

飛騨市(岐阜県)では「関係人口」増加の一環として、電子マネーを活用した「飛騨市ファンクラブ」を平成28年度に設立した。同市はアニメ映画『君の名は。』の一部モデル地に設定され、その知名度がアップした以降もさまざまな取り組みを行っている。「飛騨市ファンクラブ」の発案者でもある市長の都竹氏に、取り組みの詳細を聞いた。

※下記は自治体通信 Vol.16(2018年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

飛騨市を日常的に感じて深い結びつきの構築を

―飛騨市が電子マネーを活用した「飛騨市ファンクラブ」に取り組んだ背景を教えてください。

 そもそも飛騨市は、中山間地で過疎地。ずいぶん早い段階から人口減少が始まっている“人口減少先進地"です。そうした状況にあって、「どうやって地域に活力を生み出していくか」を考えた際、やはり「外部の人たちとの交流がポイントになるだろう」と。そこで注目したのは「観光客以上、移住者未満」とされている「関係人口」。その数を増やして、「外部に飛騨市の応援団をつくれたら」と、市長就任後から考えていたのです。

 そこで「ファンクラブ」という考えにいたったんですが、じつはファンクラブに取り組んでいる自治体はけっこうありまして。会員証と名刺をつくって発送し、広報誌やパンフレットなどを定期的に送る、というのがわりとパターン化していて、「もう少し工夫がほしいな」というのがありました。

 そんなおり、平成28年に楽天と包括連携協定を結んだのがきっかけで、「電子マネーの『楽天Edy 』を会員証に活用すればいいのでは」と考えたんです。すぐ楽天に話をもちかけたところ「ぜひ、やりましょう」となりました。

―どのような仕組みにしたのでしょう。

 『楽天Edy 』は利用額に応じて0.5%のポイントが付与されますが、会員証では別途0.1%が楽天Edy から「企業版ふるさと納税」として、飛騨市に寄附される仕組みです。カードを使うだけで、自己負担ゼロで飛騨市に貢献できる。なにより、カードに記入されている「飛騨市」の文字を日常的に目にすることで、「飛騨市との結びつきが強くなるのでは」と考えたのです。

 また、会員の方にはオリジナルの名刺も配布。周囲の人に配布して飛騨市をPRしてもらうのが目的ですが、名刺をもらった人がそれを市内の協力店舗に持参すれば、割引や粗品進呈などちょっとしたサービスが受けられます。会員の方は、会員証自体を見せてもらえばOK。また、たくさんの方にPRしていただいた会員の方には、別途特産品の贈呈などで還元するのです。

若手職員が主体となったSNSによるPRが話題に

―実際にやってみて、どのような効果がありましたか。

 まず、サービスを開始した平成29年度内に会員数1000人という目標を立てましたが、すでに8月時点で達成しました。これは、若手職員によるSNSを活用したPR戦略が奏功しましたね。

 当初は、私がFacebookを頻繁に更新していたので、「市長がSNSで宣伝してくれませんか」と頼まれたのですが、のらりくらりとかわしていました。私に頼っていては、工夫をしなくなりますからね。すると、私が不在のときに若手が市長の椅子に座ってファンクラブをアピールする動画をYoutubeで流すなど、好き勝手やりだしたんです(笑)。それが、全国初の電子マネーつき会員証という話題性との相乗効果を生み、メディアでも取り上げられ注目されるように。一時期、会員証の発行が間に合わず、私も駆り出されて「謝罪会見❝風❞」の動画もアップ。それも話題になりました(笑)。

 結果、平成30年10月の時点で、会員数は約2550人に増加。年齢層は幅広く、出身別にみても47都道府県からまんべんなく参加されています。やはりSNSを活用することで、興味がある方に直接情報を届けることができたのだと思います。そのほか、さまざまな効果が出ていますね(下図参照)。

「作品にしやすいまち」として新たな誘致を図っていく

―飛騨市はアニメ映画『君の名は。』のモデル地に一部設定されたことで、全国的に注目されました。それを一過性のブームで終わらせないために、取り組んでいることがあれば教えてください。

 まず、現在でも『君の名は。』ファンの方は月3000~4000人が来訪されています。そうした方たちに「もっとディープな体験を」ということで、昨年から続けているのが映画でも一部取り上げられている「組紐」の体験です。

 本来、組紐というのは三重県伊賀市が非常に盛んで『伊賀くみひも』が有名。もともと飛騨市の伝統工芸ではないんですよ。そこで、伊賀市と当市が提携し、『伊賀くみひも』だと伝えたうえで、当市で組紐体験を展開しているんです。これは伊賀市とWin-Winの関係を狙っての取り組みでもあります。 また、『君の名は。』の経験から、新たに学んだことがあります。

―それはなんでしょう。

 「権利処理(※)」の対応です。作品を使ってなにかしようというときは権利元に話を通し、許可をとって問題をクリアするというのが、権利の大原則。ただ、そういうことにかんして当市は不慣れだったこともあり、対応に苦慮したんです。そこから、当市でも遅ればせながら「ロケツーリズム(※)」の勉強をするようになったのです。

 つい先日、岐阜県庁の企画で移住促進のドラマ撮影を当市で行いましたが、その経験が活きました。たとえば懇親会が開催されたとき、参加者に「俳優さんの写真は絶対に撮っちゃダメですよ」とお伝えしたうえで実施したんです。すると、制作側から「よくわかっていらっしゃいますね」と評価をいただきました。こうした評価の積み重ねで、また次の作品に当市が取り上げられる機会につながる。それが、結果的に一過性で終わらせない手段のひとつだと考えています。

※権利処理:対象の著作物にかんして、権利者の許諾が必要か否かを判断し、必要なら権利者や権利の管理者と連絡を取り、許諾をもらうという一連の作業

※ロケツーリズム:映画やドラマなどで取り上げられたロケ地を、観光資源として活用する取り組み。また、ロケ誘致による地域活性化をめざすこと

改善なき予算要求は許さない方針

―都竹さんが行政を行ううえで大事にしていることはなんですか。

 現場主義です。とにかく現場に行って、話を聞く。これは徹底しています。職員にも政策を実行する際、「あのおばあちゃんに喜んでもらおう」と個人の顔が浮かばなきゃダメだといっています。

 また、「とにかくやってみる」ことも重視しています。もし失敗しても、必ずノウハウがたまりますから。それを次に活かせば打開できるはず。改善し続ける限り、成功しかないのです。

 また、成功した場合も一緒。振り返ってみて「あそこをもう少し工夫すればもっとよかったかも」という改善点は必ずあるはず。そのため、私は前年とまったく同じ予算要求は許さない方針です。つねに「改善する」という心構えが、行政を前進させるのです。

都竹 淳也(つづく じゅんや)プロフィール

昭和42年、岐阜県飛騨市生まれ。平成元年、筑波大学社会学類を卒業後、岐阜県庁に入庁。平成7年に一般財団法人自治体国際化協会シンガポール事務所所長補佐を経て、梶原拓知事および古田肇知事の秘書を担当。その後、総合政策課・商工政策課課長補佐、障がい児者医療推進室長を経て、平成28年、飛騨市長に就任する。現在は、1期目。

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