地方創生の取り組みは一歩一歩進んでいる
―第1期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の取り組みが、4年目を終えようとしています。片山さんが大臣に任命される以前を含め、これまでの取り組みをどのように評価していますか。
まず、1787の自治体が独自の「地方版総合戦略」をすでに策定しました。自治体が人口減少、超少子高齢化という国難に自ら立ち上がったという意味で、そのこと自体がすばらしいと思っています。
それから「生涯活躍のまち(※)」については、平成30年10月時点で84団体が地域再生計画や構想などを策定し、取り組んでいます。プロフェッショナル人材の地域活用も、平成31年1月時点で累計5099件の採用が実現。そして、政府関係機関の地方移転が文化庁や消費者庁を中心に計画されており、7つの案件が進められているところです。
さらに、小さな拠点づくりや地域の課題解決を担う、住民主体の「地域運営組織」を4177団体が運営しているのもすごいこと。こうした取り組みを含め、一歩一歩進んでいると考えています。
※生涯活躍のまち:地方創生の観点から、中高年齢者が希望に応じて地方や「まちなか」に移り住み、地域の多世代の住民と交流しながら、健康でアクティブな生活を送り、必要に応じて医療・介護を受けることができる地域づくりをめざす取り組み
―その一方でどのような課題があるでしょう。
東京への一極集中が進んでいることです。地方創生を始めたときは年間10万人程度だった東京への人口流入が、昨年は13万6000人に。景気がよくなると、東京の人口比率が高まる傾向にありますから。こうした状態が続いているということは、やはりさらなる取り組みが必要だということです。
「大学版地方創生」を皮切りに新たな手を打ち続ける
―具体的にどのようなことを行っているのですか。
まず、私が前任の梶山弘志大臣から引き継いだのが、地方創生の大学版で「キラリと光る地方大学づくり」。産官学連携により、地域の中核的産業の振興や専門人材育成などを行う優れた取り組みを、「地方大学・地域産業創生交付金」で重点的に支援するというもの。第1回採択事業として、平成30年度は富山県、岐阜県、島根県、広島県、徳島県、高知県、そして北九州市の7件が採択されました。若者が大学生の間、東京に一極集中しなくていいような拠点を地方につくる意義は大きいと考えており、今後も積極的に進めていきます。
また、平成30年6月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針2018」にもとづく「わくわく地方生活実現政策パッケージ」の策定・実行をしていきます。これは、おもにUIJターンの支援ですね。「地域おこし協力隊」の拡充など、全国規模で起業・就業者を支援。6次産業やIoT活用による、農林水産業の発展にも大きな可能性を感じています。
そうしたマッチングをサポートすることで、地方の担い手不足を解消するとともに、東京一極集中の是正を図っていきます。
―ほかに取り組んでいることがあれば教えてください。
いろいろありますが、たとえば1000億円の地方創生推進交付金について、たんなるバラマキにならないよう、これまでの見直しも含めて「有効な推進交付金の条件づけはどうすればいいか」といった検討を、専門家を交えて行っているところです。
「スーパーシティ」構想で地方をトップランナーへ
―今後新たに進めていく事業はありますか。
「スーパーシティ」という構想を考えています。これは、AIやビッグデータを国家戦略特区において活用しつつ、地元の住民同意をえながら、自動走行やキャッシュレス決済など先端技術が導入された実験都市をめざすというもの。これは別に地方でなければダメというわけではありませんが、住民同意を考えると地方のほうが、あきらかに実現の可能性が高い。
地方には、棚田など伝統ある美しい風景があります。そうした日本ならではのスローライフを守る一方で、「スーパーシティ」で地方発の第4次産業革命を起こす。そして、最先端の産業発展につなげていくことによって、「地方がトップランナーになる」という流れをつくろうと考えているのです。
座して待っていては取り残されるだけ
―自治体は地方創生にどのように取り組むべきでしょう。
ただひたすら、前向きであってほしいですね。また、自治体内で意見をまとめる努力を行っていただきたい、と。産官学金労言士が一体となり、老若男女の垣根を乗り越えて「自分たちがなにをめざしていくか」の合意形成を図る。そしてスピード感をもって、地方創生に取り組む必要があるのです。国家戦略特区だったり、なんらかのプロジェクトを進めている自治体は、みんなそのプロセスを経ているはずなのです。
地方分権が進む現在、国からなにかをされるのを座して待っていても取り残されるだけ。それどころか、次世代になにも残せなくなります。みんなで合意形成できるチカラが、そのまちがもつチカラになるのです。
―日々行政に勤しむ首長や職員にメッセージをお願いします。
そもそも、草の根民主主義の基本は基礎自治体であり、選挙というのはすごく大事なんですね。しかし、首長や議員において、まだまだ女性が少ないと感じています。
子育てやワークライフバランス、あるいは認知症による介護問題など、一概にはいえないものの、日々住民が感じるような行政課題には女性目線が必要なケースが多いもの。また、地元に対する想いも、女性は強いものなのです。
―それは現場でも実感したのでしょうか。
ええ。たとえば、私は講演会などでたびたび石巻市に行くのですが、地元の商店街の女性たちは「大手スーパーは閉店しているけど、私たちはなにがあってもここを出ていかない」と。その商店街は、東日本大震災で水浸しになった経験を乗り越えてがんばっています。そうしたことを通じて、地域への愛着や執念をもっている女性が多くいることをよく知っていますし、私もおばちゃんですから、その感覚はよくわかるんです(笑)。
そのため、さまざまな場所で女性の意思をくむ場をもっとつくっていただきたいし、女性の方々も「自らが地域の担い手になるんだ」と思ってもらわないと。地域の未来を後世に残す責任は、男性も女性も一緒なんです。