令和元年から始まる交流人口活性化の好機
―インバウンドも含めた、兵庫県における観光施策の方針を教えてください。
「神戸・阪神」「播磨」「但馬」「丹波」「淡路」のいわゆる「ひょうご五国」が有する、多様な地域資源を活かした「ツーリズムひょうご」を掲げ、交流人口の活性化に取り組んできました。さらに今年度は、「兵庫県を含めた関西にどれだけ国内外の方々に来ていただけるか」を左右するスタートの年になると思っています。
ご存じのように、令和元年から国内において、一連の世界的なイベントが行われます。今年6月に開催される「G20大阪サミット2019」から始まり、9月には「ラグビーワールドカップ2019」。神戸市では、イングランド、スコットランド、アイルランド、南アフリカ共和国といった、強豪チームの試合がすでに予定されています。
―その翌年には、「東京2020オリンピック・パラリンピック」も控えていますね。
ええ。兵庫県では、すでに7ヵ国10 チームが事前合宿することが決まっています。その方々が滞在される地域の人たちとの交流や、いかに応援して盛り上げていくかも検討する必要がありますね。 そして、その翌年には「ワールドマスターズゲームズ(※)2021関西」が関西一円で開かれます。そして、令和7年に開催される「大阪・関西万博」。この期間は、兵庫県をアピールするいわば千載一遇のチャンスなのです。
※ワールドマスターズゲームズ:国際マスターズゲームズ協会(IMGA)が4年ごとに主宰する、概ね30歳以上のスポーツ愛好者であれば誰もが参加できる生涯スポーツの国際総合競技大会
単体ではなく広域での取り組みが重要に
―どのように集客を図っていこうと考えていますか。
関西全体を周遊してもらえるような、環境整備を行っていく必要があると考えています。そのため、広域連携DMOとして「関西観光本部(※)」をすでに発足。この組織を中心に、広域観光を進めていこうとしているのです。
たとえばインバウンドでいいますと、関西の主要公共交通各社を切符の買い替えが必要なしで利用できる、訪日外国人観光客向けI C カード「KANSAI ONEPASS」を発行。さらに諸外国に赴いて、関西観光プロモーションを行ったり、Webサイト「KANSAI Tourism」やSNSを活用した情報発信をしています。
※関西観光本部:福井県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、鳥取県、徳島県を対象エリアとした広域連携DMO
―ひとつの自治体だけでなく、広域での取り組みが重要なのですね。
そうですね。ただもちろん、兵庫に特化したプロモーションも行っていますよ。たとえば、「ひょうごゴールデンルート」のPR。神戸、姫路、豊岡、城崎、出石、篠山、宝塚、尼崎。このエリアをぐるっと廻るルートを中心として、ブランド化しようとしています。
また、「大阪・関西万博」では、大阪の夢洲だけでなく、サテライト会場をつくる案を検討する余地があると思っています。たとえば、「神戸医療産業都市」を推進している神戸市で先端医療をテーマにした会場をつくったり。かつて朝廷に食を提供していた御みけつくに食国・淡路島で、食をテーマにしたり。そうした各地域の特色を活かした取り組みを行うことで、兵庫県、ひいては関西全体で人を受け入れる体制を整えていこうと考えています。
また、兵庫県の「関係人口」を増やすという観点では、まったく別の取り組みも行っています。
「ひょうごe-県民制度」で県外ネットワークを強化
―どのような取り組みですか。
県外の方を対象にした、「ひょうごe-県民制度」という取り組みを、今年から始めました。これは、もともと兵庫県にゆかりのある方や、兵庫県に関心をもつ方々とのネットワークをつくるのが目的です。登録された方には、『ひょうごe-県民証』を発行。これは、電子マネーの『楽天Edy』と連動していて、全国のコンビニやスーパーで利用でき、利用額に応じて楽天Edyから兵庫県にふるさと寄附が行われる仕組みです。もちろん、ポイントもつきますよ。
さらに、県の特産品を販売するインターネットモール『ひょうご市場(仮)』で買い物をすれば、サイト内で利用可能な「ひょうごポイント」もつきます。ちなみに、このECサイトは今年の9月から稼働する予定です。
―反響はいかがでしょう。
登録を開始して5ヵ月ですが、登録者はようやく約3000人といったところです。東京には地元高校の県人会がたくさんあるので、今後はそういったところにPRして、ふるさととの結びつきを強くしてもらえたらな、と。もちろん、出身者でない方でも大歓迎です。
今後は、積極的にPRを行っていきたいと思っています。現在、兵庫県民は約550万人ですが、登録者を含めて600万人にするのが当面の目標です。
「参画」と「協働」で住民のための取り組みを
―井戸さんが行政を行っていくうえで、重視していることはなんですか。
「参画」と「協働」です。県民のみなさんが、行政あるいは地域社会に対して積極的に参画し、協働して取り組めるような環境づくりを重視しています。
これは、阪神・淡路大震災が背景にあります。震災後、復旧・復興していく過程のなか、県民のみなさんの生活復興は、行政が上から目線で考えればいいという話ではありません。やはり実際に困っている方のニーズを汲み取るには、ご本人に直接発言してもらい、一緒に取り組んでもらったほうがいいですからね。
一方で、行政にかかわるものは、現場に足を運んで実際に耳を傾ける必要があります。私がよく職員にいっているのは「現場に行くだけでなく、課題を見つけてそれを解決する必要がある」ということ。たんに足を運ぶだけでは意味がないですから。また、課題を解決するときは、100点満点である必要はないともいっています。
―どういうことでしょう。
極端にいえば、「全住民のためでなくてもいい」ということです。実際に困っている人がいるなら、行動を起こさないといけない。特に震災復興事業の場合は、そういう基本姿勢でどんどんやっていこう、と。100点をめざせば、やらない理屈にもなる。住民を支援するのに満点はいらないのです。