※下記は自治体通信 Vol.27(2020年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
顕著になる少子高齢化、止まらぬ人口減少、さらに足元ではコロナ禍による地域経済の低迷―。地方都市を取り巻く環境が一段と厳しさを増すなか、いかに持続可能な発展を遂げられる都市=スマートシティを築けるか。多くの地方都市が抱える、共通の課題と言えよう。このスマートシティ構想を最重要課題と位置づけ、挑戦を続けているのが加賀市(石川県)である。多くの民間企業との連携、各種国家プロジェクトへの参画など、外部のリソースを戦略的に活用する同市。地域の未来をいかに描いていくか。市長の宮元氏に今後のビジョンなどを聞いた。
金沢市以南の石川県内で唯一「消滅可能性都市」に該当
―「スマートシティ構想」を市政の最優先課題に据えていますね。その背景はなんだったのでしょう。
私が市長に就任した翌年の平成26年、日本創成会議が「消滅可能性都市」を発表したことは知られていますね。じつは、加賀市は金沢市以南の石川県内で唯一、該当する自治体となってしまったのです。この指摘によって受けた衝撃は非常に大きなもので、市全体が強い危機感をもちました。
折しも、当時は世の中でデジタル化の波が起こり、「第四次産業革命」というキーワードが取り沙汰され始めたころ。地方にはまだそのような空気はまったく醸成されていませんでしたが、危機感が背中を押し、「この流れに乗り遅れてはいけない」との認識から先端技術を導入したまちづくり、言わば「スマートシティ構想」に市の未来を託す選択をしたのです。
―具体的にどのような政策目標を掲げているのですか。
長期的な視点に立ち、「人材育成」と「新技術の導入」を二本柱に据えて、新産業の創出とその先にある産業集積の基盤づくりを目標に成長戦略を描いています。道路や橋、公共施設といったインフラや「ハコモノ」への投資は、選挙の際には票につながりやすいとされ、地方行政はついその方向へと流れてしまうと指摘されがちです。しかし、それではまちの状況は変わりませんし、未来への展望は開けないのは残念ながら過去の歴史が証明しています。そうした従来型の地域振興策から、当市は明確に舵を切ることを決断したのです。
当市の基幹産業は観光と部品産業で、観光はインバウンド誘致に成功し、長い不況から持ち直していましたが、今般のコロナ禍によって大きな打撃を受けています。一方の部品産業は、域内に完成品メーカーが不在のため、産業集積の基盤とはなりえていません。新技術の積極的な導入が、そうした状況を変える起爆剤になると期待しているのです。
5つの国家事業に参画 。民間12法人との連携協定も
―実際の取り組み状況を教えてください。
「人材育成」については、特定非営利活動法人「みんなのコード」と連携協定を締結し、これからの時代の若者にとって必要となるであろうプログラミング教育の普及を進めています。これは、長期的な視点に立ち、将来の産業人材を育成することを視野に入れた取り組みです。その成果として、国の学習指導要領の改訂に先駆けるかたちで、平成29年度から市内すべての小中学校でのプログラミング教育を開始。これは当時、全国初の挑戦として注目されました。
さらに、「RoboRAVE(ロボレーブ)」というアメリカのロボット教育競技会と連携し、子どもたちのプログラミング教育の成果を競い合う世界大会も誘致。学びと実践の環境整備を図るとともに、競技を通じて先進技術の世界を体感してもらう場もつくっています。
―一方の「新技術の導入」に関しては、いかがですか。
平成28年度に経済産業省の地方版IoT推進ラボの第一弾となる選定を受けて以降、国の動きと歩調を合わせながら、積極的に国の事業に参画してきました。令和2年度だけでも内閣府や総務省、国土交通省のスマートシティ関連プロジェクトに5つの事業が採択され、各種先端技術の実証実験を展開しています。5つの事業採択というのは全国で最多と聞いています。
それだけではなく、電子行政の実現に向けた「ブロックチェーン技術」や「自走式の遠隔操作分身ロボット」、さらには「ドローン」や「MaaS(※)プラットフォーム」といったスマートシティを形づくる注目の新技術導入を目指し、現在12の民間企業・団体との包括連携協定を締結しています(下図参照)。
※MaaS:Mobility as a Serviceの略。ICTを活用して交通をクラウド化し、マイカー以外のすべての交通手段をシームレスにつなぎ、提供するサービス
規制緩和や環境整備を進め、企業にチャレンジの場を提供
―国や民間企業など、多くの主体と戦略的に連携を進めていますね。
スマートシティという高い理想を実現するには、当市だけでできることはあまりに限られていますから。国の支援や民間の知恵を導入することは、早くから意識してきました。外部との連携を進めるには、いかに当市から魅力を提供できるかが求められます。たとえば、国の施策であれば成果が測りやすい環境を提供できるか。また、民間企業に対しては新しい技術を実用化するためのチャレンジの場をいかに提供できるか。お互いにWIN-WINの関係をつくることが真の公民連携だと考え、規制緩和や環境整備を進めてきました。こうした関係の構築が、将来の産業創出の入り口にもなると考えています。
―現下のコロナ禍で、これらの施策に影響はありませんか。
コロナ禍の余波がまったくないといえばうそになりますが、大きく影響を受けているようではいけないと思っています。当市の未来にとってスマートシティへの移行が最重要課題であることになんら変わりはなく、残された時間は多くはありません。逆にコロナ禍によって、デジタル化の流れは一層加速しており、その流れに乗りながら、決してこの動きを止めてはいけないと考えています。
夢をもって未来を語れ。誇りをもてるようなまちを
―最後に、今後の市政方針を聞かせてください。
現在、多岐にわたる施策を同時並行的に進めていますが、これらはすべて最後にはスマートシティ実現につながってきます。その成果を早ければ2~3年後には、住民に示していければと考えています。市が政策の一丁目一番地に掲げるスマートシティ構想の実現で、自分たちの生活がどう変わるのか。市民が夢をもってまちの未来を語れ、郷土に誇りをもてるような加賀市をつくる。その道筋をつくることが私の使命だと肝に銘じています。
宮元 陸 (みやもと りく) プロフィール
昭和31年生まれ。法政大学法学部を卒業後、衆議院議員秘書を経て、平成11年4月から石川県議会議員を4期務める。その間、県議会副議長・県監査委員・県議会運営委員会委員を歴任。平成25年10月、加賀市長に就任し、現在2期目。