※下記は自治体通信 Vol.60(2024年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
従業員に支払った給与金額を自治体に報告するため、事業主が毎年提出を義務付けられている「給与支払報告書(以下、給報)」。課税の根拠となり、域内すべての給与所得者が対象となるだけに、その数は膨大であり、その情報入力の作業負担は納税部門にとって「悩みの種」といえる。これに対し、輪島市(石川県)では、この給報の読み取りに特化したAI-OCRの導入で、その作業負担を大きく軽減したという。導入の経緯とその具体的な効果について、同市担当者の凌氏に聞いた。
[輪島市] ■人口:2万1,572人(令和6年7月1日現在) ■世帯数:1万612世帯(令和6年7月1日現在) ■予算規模:354億9,700万円(令和6年度当初) ■面積:426.35km² ■概要:能登半島の北西に位置し、豊かな緑と海に囲まれたまち。中世に曹洞宗の本山「總持寺」が開かれ、北前船の世紀には「親の湊」と呼ばれ、海上交通の要衝として栄えた。また、江戸中期以降は漆器業(輪島塗)が盛んになった。現在、「漆の里」「禅の里」「平家の里」の3つの里構想を前面に、町の魅力を発信している。
輪島市
市民生活部 税務課 課長補佐 兼 市民税係長
凌 信宏しのぎ のぶひろ
大量の単純作業に、なんらかの改善が必要だった
―給報の入力作業を自動化した経緯を教えてください。
給報の入力・確認作業は、かねてより我々税務部門にとって作業負担の重い業務でした。毎年2~3月というのは税務部門の繁忙期であり、本来であれば、その直前の時期は税制改正に合わせてスキルを整えるための研修などに充てたいところです。しかし、この給報の入力業務でそれもままなりません。当市の場合は、毎年5,000~6,000枚にものぼるため、繁忙期に差し掛かる1~2月に6人の係員総がかりで丸々1ヵ月かけて入力作業を行っていました。課税の計算など知識を要する業務が多い中で、かなり大きな量の単純作業として際立っており、改善を要する業務として認識されてきました。そうしたなか、庁内に発足したDX推進の部署が、デジタル化のテストケースとなる業務を募ったことから、それに手を挙げたのです。採用されたのは、令和5年11月のことでした。
―その後、システム選定はどのように行ったのですか。
インターネット上で情報を収集したところ、自治体における給報の読み取りに特化したAI-OCRとして、SGシステム社の『Biz-AI×OCR』の存在を知りました。読み取り精度が高く、他自治体での活用実績も豊富であることなどを評価し、導入を決め、1月からの入力作業に向けて急ピッチでの導入をお願いしました。導入作業のさなかに能登半島地震が発生し、その混乱によって課税業務自体が大幅にずれ込んだ影響もありましたが、3月には運用を開始することができました。
震災であらためて実感した、デジタル化の重要性
―導入効果はいかがでしたか。
とても大きな業務削減効果を実感しています。正確な精度はまだ集計できていませんが、装置スペックの「99%以上」という読み取り精度には納得感があります。実際、令和5年度の当市の給報は合計5,500枚に達しましたが、読み込み自体は3~4日で完了しています。その後の再入力や確認といった作業を含めても、最終的にほぼ2人で、しかも2週間ほどで入力業務全体を終えることができ、その間は罹災証明書の発行などの被災者対応に税務課職員をできるだけ多く充てる調整もできました。震災特例となっていた3月末までの課税通知延長期限をなんとか守ることができましたが、AI-OCRの導入がなければ、震災の発生で現場業務がどれほど混乱をきたしていたか想像ができません。税務対応も震災対応も、職員でなければ対応できないコア業務があります。そこに貴重な職員を充てるうえで、デジタル化による業務効率化がいかに重要か、震災を機にあらためて実感しています。
―今後の方針を聞かせてください。
昨年度が初めての運用となりましたが、その中でもシステムの傾向や給報のフォーマット様式、印刷形式との相性などもつかめました。これらの経験を参考にすれば、今年度はさらなる業務改善が間違いなくできると確信しています。
負担が重い膨大なノンコア業務こそ、最適化されたAIで高度に自動化を
SGシステム株式会社
BPO事業部 事業推進ユニット チーフ
山本 義人やまもと よしと
昭和58年2月、東京都生まれ。前職の通信インフラ企業にて提案営業を約10年経験したのち、令和4年4月にSGシステム株式会社へ入社。『Biz-AI×OCR』の提案営業を行い、自治体向けプランの構築に携わる。
―給報の入力業務をめぐる自治体の課題をどう見ていますか。
税務部門としてはコア業務ではないにもかかわらず、多くの時間と労力を割かれることに課題を感じている自治体は多いです。期限内に入力業務を終え、納税通知を発送しなければならないため、職員の負担はとても大きいです。そこで当社では、入力業務の負担を軽減させるため、給報の読み取りに特化した『Biz-AI×OCR』を提案しています。
―特徴を教えてください。
グループ会社である佐川急便の配送伝票を読み取るために開発したAI技術をベースに、給報の読み取りに最適化した複数のAIエンジンを開発・搭載しています。読み取り位置を予め設定する「レイアウト登録」は不要で、給報の画像を読み込むだけで必要な項目をAIが判断します。読み取り項目は業界最大級の96項目で、空白とゼロの変換や氏名間スペース挿入など豊富な変換機能も特徴です。その結果、実際に複数の自治体で算出された読み取り精度は、最新モデルで平均98.8%を実現しています。令和5年度は、主にBPO事業者を通じて50以上の自治体にご利用いただき、当該年度だけで200万枚以上の給報を読み取った実績があります。
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
『Biz-AI×OCR』のほか、行政文書電子化および給付金申請業務など、配送からスキャン、データ加工、納品までの一連の工程をワンストップで請け負うことで、自治体における書類業務の全体最適化を図る提案も可能です。お問い合わせください。