※下記は自治体通信 Vol.28(2021年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
複雑化、高度化していく一方の行政課題を解決するにあたり、公民連携はもはや不可欠と言える。その公民連携を、複数のアプローチから多面的に進めているのが豊田市(愛知県)だ。同市ではその基盤を活かし、令和2年5月から、新型コロナウイルスとの共存を前提にした「新たな生活様式」を具体的に示す「ミライのフツーをつくろうプロジェクト」に着手している。市長の太田氏に、同プロジェクトへの取り組み方や、公民連携に対する考え方などを聞いた。
地域の身近な課題から、先端技術の開発まで
―いま大きく打ち出している「ミライのフツーをつくろうプロジェクト」とは、どのような取り組みですか。
私たちの生活は今後、新型コロナウイルスとの共存が前提となるでしょう。その生活様式を具体的に示すことで、市民に安心して生活していただきたいという想いで推進するプロジェクトです。多くの自治体でも同様の取り組みに着手していると思いますが、このプロジェクトの特徴は、私たちが長年かけて培ってきた多方面な公民連携のプラットフォームの経験が活かされていることなんです。
―公民連携のプラットフォームとは、どのようなものですか。
具体的には、「とよたSDGsパートナー」と「豊田市つながる社会実証推進協議会」という2つのプラットフォームです。
前者は、コロナ禍で市民が感じる「困りごと」や、今後顕在化が予想される課題を募集し、それらを解決する方法を、パートナーとして登録した企業・団体が提供するものです。言わば、市民と企業・団体との公民連携ですね。
一方の後者は、先端技術の開発・実証を目的とした公民連携プラットフォームです。一例では、万が一の災害発生時における避難所での感染拡大を避けるために、「SAKURAプロジェクト」という名称で開発を進めた「ハイブリッド車などの次世代自動車の外部給電機能」を活用した、在宅避難の推奨活動などがありますね。
公民連携を迅速に推進すべく、プラットフォームを構築
―なぜ豊田市では、こうした公民連携のプラットフォーム化を行っているのでしょう。
課題解決のための多様なソリューションが提供できる基盤を構築することで、幅広い分野にわたる公民連携を迅速に推進したいと考えているからです。
私は、平成24年の市長就任時から職員に言い続けてきたことがあります。それは、今回のプロジェクト名にもあるように、「ミライのフツーをつくろう」ということです。テクノロジーの進展で、社会や経済における変化のスピードがどんなに速まっても、「近い将来、普通になりそうなことを先取りし、一歩先を行く自治体であり続けること」を、職員とともに目指してきました。これまでも、スマートシティなど多方面で公民連携を推進してきたなか、「プロジェクトごとの連携ではなく、大きな枠組みとしていつでも公民連携を進めていける体制を整えよう」と。
―それが今回の2つのプラットフォームなのですね。
ええ。そうすれば、どんな課題にもスピーディに対応でき、「ミライのフツー」への取り組みがより積極化すると考えました。先の「とよたSDGsパートナー」は、187の企業・団体が集まるプラットフォームで、地元中心のさまざまな業種・業態の集まりとして、地域の身近な課題解決に向けた公民連携を進められます。一方、「豊田市つながる社会実証推進協議会」は、AI、IoT、新エネルギー、ビッグデータなど先端技術の開発・実証といった、10年、20年先を見すえた公民連携に取り組むプラットフォームと位置づけています。
「市民発」の公民連携で、約4,000の課題を解決
―太田さんの公民連携に対する考え方を聞かせてください。
行政のリソースだけだと、できることは限られています。それに限界を感じるのではなく、たとえ自分たちだけではできなくても、行政のプロとして、みんなが幸せになる理想のまちづくりを徹底的に考え抜く。そのために不足している部分は民間の知見とノウハウで補い、行政のリソースと融合させて進めるのが公民連携の姿だと考えています。そう考えたときに私は、なにも企業や団体だけが「民間」ではないと思っています。
―どういうことでしょう。
市民一人ひとりも、その重要な対象だと思っています。地方分権の推進における「地方のことは、地方がわかっている」という言葉のように、「地域のことは、地域住民がわかっている」のです。行政は、地域課題の一つひとつをすべて把握できません。ならば、地域住民の力を借りて、その課題を解決してもらおうと。この考えを具現化するために、私が市の職員だった平成17年から「地域自治システム」として推進しています。
―どんな成果が上がっていますか。
代表的取り組みのひとつに「わくわく事業」というものがあります。市内28の地域協議会にそれぞれ毎年500万円の予算を配分し、地域課題の解決方法を住民に考えてもらい、その活動資金を助成するのです。これまでに「まちを明るくして安全安心な地域にする」という「駅前広場のイルミネーション事業」など、じつに約4,000もの事業が具体化しています。その数だけの課題が解決できたということです。私はこの取り組みを、「草の根からの公民連携」だととらえ、ひとつの立派なプラットフォームと考えているんです。
チャレンジ精神を発揮し、未来を切り開いていく
―公民連携の促進を通じて、どのようなまちを目指しますか。
「チャレンジ精神にあふれるまち」を目指します。やってくる未来に対し、来たものをただ受け入れるだけか、それとも、自分の手で実現した未来を受け取るか。一大自動車産業を育んだ豊田市には、未来を切り開くチャレンジ精神が、DNAに刻み込まれているはずです。幅広く用意する公民連携の場で、豊田市のチャレンジ精神をどんどん発揮していきたいと考えています。
そんななか、先進的な公民連携の取り組みや実証実験の受け皿となりえる企業を紹介してくれる『自治体通信』という情報プラットフォームは、公民連携を促進するうえでの大切な「つなぎ役」になってくれていると感じますね。
―今後の行政ビジョンを教えてください。
50年後の「未来都市とよた」が目指す「豊かな暮らし」のビジョンとして、「『モノ』づくりのまちから、『モノ・コト・ヒト』がつくるまちへ」を掲げています。この根底にあるのは、豊かな人こそが、豊かなまちをつくるという考えです。公民連携の促進を通じて、課題解決への高い意識をもった自立的な市民がどんどん育っていくと思います。そういった市民と公民連携の取り組みを続け、自治体としての課題解決力も高めながら、50年後の「豊かな暮らし」を実現していきます。
太田 稔彦 (おおた としひこ) プロフィール
昭和29年、愛知県豊田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。昭和52年、豊田市役所へ入庁。行政経営課長、経営政策本部長、総合企画部長を経て、平成24年2月、豊田市長に就任した。その後、全国市長会副会長、中核市市長会会長などの要職を歴任。現在、3期目。