「こゆ財団」をきっかけに次々と連携協定を締結
関係人口を増やしながら目指す、「子どもが帰ってきたくなるまち」
新富町長 小嶋 崇嗣
※下記は自治体通信 Vol.43(2022年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
海、川、台地といった自然が豊かな新富町(宮崎県)。人口約1万7,000人の小さな町ながら、近年は民間企業と次々に連携協定を締結している。そして公民連携のもと、さまざまな取り組みを行い、まちの活性化を目指しているという。なぜ、そのような連携協定を積極的に行えているのだろうか。町長の小嶋氏に、取り組みの詳細も含め、連携協定を行えている背景、さらにその先に見すえる町政ビジョンなどを聞いた。
22の連携協定を結び、企業とのつながりを創出
―近年、新富町では民間企業と積極的に連携協定を結んでいるそうですが、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょう。
民間のノウハウを町政運営に活用するのが連携の主目的ですが、たとえばユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティングと連携協定を結んだ際、令和3年に町内に新設されたサッカースタジアムの命名権を付与しました。その代わりに、役場との人材交流や研修をしてもらったり、プラスチックごみ削減のため、町内で同社製品の『ダヴ』の量り売りをしてもらったりしています。また、三洋化成工業とは持続可能な農業の実現を目指し、当町が試験研究用ハウス施設を提供して、ペプチド*1を使ったミニトマトなどの栽培を地元農業者と一緒に行ってもらっています。さらに、宮崎トヨタグループの協力を得て、町内100ヵ所以上の停留所を結ぶ乗り合いタクシー『トヨタク』事業がスタートしています。1つずつ紹介するとキリがないのですが、平成30年から数えると22の連携協定を結んでいます。
くわえて、そういったつながりもあって、ありがたいことに企業版ふるさと納税も多くの企業から寄附を受けています。令和3年度は22企業、総額2億1,864万円を寄附してもらいました。
―なぜそのように多くの企業と連携を結べているのですか。
私が町長に就任する前ですが、平成29年に設立された、一般財団法人こゆ地域づくり推進機構、通称「こゆ財団」がもとになっています。これは、「とにかく町を元気にしていく」「関係人口を増やしていく」などを目的に、当町が旧観光協会を法人化して設立した地域商社です。そこで、ふるさと納税の返礼品開発や企業誘致、人材育成などを行っているのですが、「新富町がおもしろいことをやっている」と、多くの人たちに注目していただいたのです。企業や個人、行政とのつながりが生まれ、そこからさらに人を呼び込むといった良い循環ができ、結果としてさまざまな連携協定につながっているのです。ちなみに同財団は、得た利益を町に還元するビジネスモデルが評価され、令和3年度の総務省「ふるさとづくり大賞」において、「団体表彰」を受賞するなど、さまざまな賞を受賞しています。
企業版ふるさと納税の活用で、まちの活性化につなげる
―連携協定を結ぶことで、どのような成果が生まれていますか。
実際の成果が出るのはまだまだこれからですが、企業版ふるさと納税の活用で、新たな町の活性化につながっています。三洋化成工業との農業栽培は、企業版ふるさと納税によって昨年設立された農業公社によって運営されていますし、『トヨタク』の運営も宮崎トヨタグループからの企業版ふるさと納税でまかなわれています。さらに、当町をホームタウンとし、令和2年に発足した女子サッカーチーム『ヴィアマテラス宮崎』があるのですが、その運営補助にも使われています。現在、九州女子サッカーリーグ1部にて首位で、来年の「なでしこリーグ」への参入を見すえているため(9月7日現在)、それが成果と言えるかもしれませんね。
職員数は減らすべきか。大前提を疑う
―小嶋さんが行政を運営していくうえで、重視していることはなんでしょう。
つねに「問う」ことです。なにを行うにも、「それは本当に必要な投資か」と自分自身に問い続けています。たとえば道路を整備しようとした際、特に高齢化率が30%を超える自治体が増えているなか、運転免許証を返納している高齢者も多い。その人たちには、いくら道路を整備しても意味がありません。本当に必要なのは、それこそ乗り合いタクシーなどソフト面に関する整備の議論をすべきで、ハード重視で投資するだけではもったいないわけです。なかでも、私が特に意識しているのは、「大前提を疑うこと」です。
たとえば、そういった観点で実施した取り組みに「夢・応援プロジェクト」があります。これは、コロナ禍の影響で、内定取り消しや解雇された人を会計年度任用職員として採用する取り組みです。また、中途採用の採用枠も増やし、対象年齢も引き上げました。
―大前提で考えると、人口減および財政難になるなか、職員を減らしていく風潮とは逆行している印象です。
みなさん本当にそう言うんですよ。でも、「本当に減らすことが正しいのか」と。もし災害があった場合、役場の責任で避難所を設置し、高齢者、障がい者、病気の人、ペット同伴の人にコロナ禍のなか、個別で対応しなければなりません。新富町の職員は現在約180人で、町民は約1万7,000人です。果たして、十分に対応できるでしょうか。私は、特に中山間地域の小規模自治体こそ、きちんとした人数を確保しておかないと、本当に取り残される人たちが出てくると思っているのです。民間企業との連携協定を結んでいるのだってそうです。なにかあったときに、関係人口が多ければ、助けてくれる人も増えるでしょうから。
対応する職員は大変です。大雨警報などが出れば、職員が庁舎に集合し、「配備体制」を敷いて徹夜するんです。台風が起こり、自分の家が被害にあっても職員はそれを差し置いて出てくるんです。でも、これを美談にしてはいけない。ちゃんと交代制で休めるようにしないと、持続可能な行政運営は望めないと考えているのです。
必要なものを選択して、未来に投資していく
―今後における町政ビジョンを教えてください。
今後も自身に問い続けることで、町民の幸せにつながるような町政運営を行っていきたいと考えています。正直、町政に決まった正解はありません。「子育て支援を充実させてほしい」「健康寿命を延ばす施策をしてほしい」など、個々の住民によって希望は異なります。そうしたなか、住民と対話を重ねつつ、限られた財源から本当に必要だと思えるものを選択して、未来に投資していかなければなりません。その主導役として自治体が存在するのですが、我々だけではリソースも含めて限定的になりかねない。そのためにも、積極的な連携協定の締結などにより、今後も新富町の関係人口を増やしていきます。そしてその先に、我々が総合戦略として掲げている「子どもが帰ってきたくなるまち」を目指していきたいですね。
小嶋 崇嗣 (こじま そうし) プロフィール
昭和46年、宮崎県新富町生まれ。淑徳大学総合福祉学部社会福祉学科を卒業。平成15年に新富町議会議員に初当選し、3期を務める。その後、NPO法人ライフカンパニー新富の理事などを経て、平成30年、新富町長に就任する。現在は2期目。