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「子育て施策日本一」を目指す氷見市の行政運営理念

子どもたちに「いつか帰ってきたい」と、思ってもらえるまちへ

子どもたちに「いつか帰ってきたい」と、思ってもらえるまちへ

※下記は自治体通信 Vol.54(2023年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

全国の自治体でいま、人口減少が深刻さを増しており、その対策に頭を悩ませている首長は多い。そうしたなか、氷見市(富山県)では、市の人口減少対策の一環として、特に学校教育に着目。ユニークな取り組みによって地域の小学校を存続させ、それを移住・定住人口の増加へとつなげようとしている。同市の長である林氏に、取り組みの内容や成果のほか、今後の行政ビジョンなども含めて、話を聞いた。

インタビュー
林 正之
氷見市長
林 正之はやし まさゆき
昭和32年、富山県生まれ。昭和54年に京都大学工学部を卒業後、富山県庁に入庁。砂防課長、都市計画課長、土木部長などを歴任し、平成28年3月に退職。富山県建設技術センター副理事長を経て、平成29年4月に氷見市長に就任。現在、2期目を務める。

進む人口減少。少子化対策を最重要課題に

―氷見市では、広く子育て支援策に力を入れているようですね。その背景を教えてください。

 富山県の北端に位置する当市は、漁業や観光業で発展してきましたが、平野部が少なく中山間地も多いという地理的条件があり、就業人口がどうしても高岡市や富山市へ流れてしまうという事情がありました。こうして近年、人口減少が進んできた経緯があり、特に子どもの数は加速度的に減少しています。かつて成人式と呼ばれた「二十歳のつどい」の対象者をみると20年ごとに半減し、現在は400人を切っている状況です。

 一方で、昨今は共働き世帯が増加し、子育て環境を重視して居住地域を決める若者世代が増加しています。そこで市長に就任した当初から、私は「少子化対策」を最重要課題と位置づけ、重点的に子育て支援策に取り組んできました。

―具体的にどのような施策を展開してきたのでしょう。

 就任3ヵ月後から第二子の保育料無償化を実施して以降、出産・子育て応援ギフトの支給などを実施してきました。今年度からは、第一子から1歳以上の保育料と副食費の完全無償化、高校3年生相当までの医療費の無償化、「家庭で子育て応援金」の第一子への拡充なども実現しています。

 こうした施策の結果、最近は若い世代から当市の子育て支援策に対する評価が聞かれるようになっており、これが呼び水となって移住者の増加にもつながっているようです。6月に富山県が発表した令和4年度調査では、氷見市における県外からの移住者数は県内で4番目、県全体の1割ほどを占めていますが、なかには「子育て支援策が決め手になった」という実際の移住者の声も届いています。

学校を地域に残すための「ハイブリッド型交流」

―氷見市では、子育て支援策の一環で学校教育でもユニークな取り組みを実施しているそうですね。

 「ハイブリッド型交流」のことでしょう。ICT機器とスクールバスを使って中山間地にある3つの小規模小学校をつなぎ、リモートとリアルのハイブリッドで児童たちの交流を持たせながら、小規模校ゆえのハンデを克服し、地域に学校を残すという取り組みです。これまで当市でも、少子化によって小学校の統廃合を進めざるを得ませんでした。しかし、子育て支援策を強化するなかで、子育て世帯を呼び込むだけでなく地域の活力を維持するためにも、小学校を残すことの意味はきわめて大きく、地域の人々からの要望も強くありました。

―そこで、どのような手を打ったのですか。

 もともと当市では、国の「GIGAスクール構想」に先立って、電子黒板やタブレット端末などを授業で使用できる環境を整備してきました。そこで、コロナ禍を機にこれらを使って小規模校同士をつなぐ合同授業を実施することで、子どもたちが多様な意見に触れられる環境をつくろうと考えたのです。

 とはいえ、学校教育には体育の授業や課外活動などリモートでは補えない交流もあります。その際には、中山間地の学校で従来運用してきたスクールバスを活用し、子どもたちを一校に集めることにしました。これにより、きめ細かな指導ができる小規模校のメリットを活かしながら、多様な学びや切磋琢磨の機会を創出でき、近年問題となっている「中1ギャップ」の解消にもつながります。そうして小規模校の存続を図ったのです。

子どもたちへの強い想いで、実現にこぎつけた施設整備

―取り組みの成果はいかがですか。

 子どもたちが活き活きと学ぶ姿が報告されており、子どもたちの声が身近に聞こえる環境が維持され、地域からも歓迎されています。この取り組みは昨年、全国ICT教育首長協議会が主催する「日本ICT教育アワード」で最高賞の1つである「総務大臣賞」を受賞したことで、多くの注目を集めることもできました。

 それだけではなく、このICT活用の取り組みがきっかけとなり、市内の小学校においてシンガポールや中国の学校との国際オンライン交流が生まれています。氷見という地方にあっても、幼い頃から異文化と触れ合う機会が持てることは、当市の子育て環境の新たな魅力になってくれるのではないかと期待しています。

―行政運営において、大切にしていることはなんですか。

 私は富山県庁で37年、市長になって7年目、合わせて約44年間行政に携わっています。その経験のなかで感じるのは、物事を進めるにはトップとしての強い意志が必要だということです。「この政策は絶対に実行する」という強い意志が伝わるからこそ、職員も動いてくれると思うのです。

―氷見市政においても、そのような場面はありましたか。

 たとえば、耐震性不足で使用不能となっていた市民会館に代わり、令和2年秋のコロナ禍の真っ只中に着工した「芸術文化館」の新設をめぐっては、市民が苦しんでいるなか、巨額の費用をかけて施設を建設するのはいかがなものかと議会でも賛否が分かれました。また、老朽化と地盤沈下で使えなくなっていた氷見運動公園野球場の改修の際も、同様の議論がありました。これまで氷見の子どもたちは、音楽を聴くにも野球をやるにも、隣りの高岡市のホールや野球場に行くしかなかったのです。そんな環境で子どもたちが大人になっても氷見市に愛着を持ってくれるかと考えたときに、それは難しいと。就任以来、「子育て施策日本一」を目指してきた私としては、子どもたちのために一刻も早くホールや野球場をつくってあげたいとの強い想いを持って事業を推進し、実現にこぎつけました。

地域に愛着を持てるまちへ

―今後の市政ビジョンを聞かせてください。

 氷見市の今後を考えたとき、ある程度の人口減少は避けられないと思います。そのなかでも、関係人口を創出し、活気を維持することは行政の使命だと考えています。令和4年度を初年度とする第9次氷見市総合計画でも「人 自然 食 文化で未来を拓く交流都市」を目指す都市像として掲げています。そのためにはまず、市民が地域に誇りを感じ、活き活きと暮らすことが、第一歩になります。そして、子どもたちも氷見市にシビックプライドを持て、いつかは氷見市に帰ってきたい、氷見市で働きたいと思ってもらえる行政を推進します。

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