財政面、人材面、情報面3つの面で自治体をサポート
―各自治体の「地方版総合戦略」が揃い、本格的な地方創生の取り組みがスタートしています。改めて、国の支援方針を聞かせてください。
財政面、人材面、情報面。この3つの面において支援していきます。まず財政面では、新型交付金で対応します。従来なら、各省にズラーッと補助金のメニューがあって、自治体はそのメニューを見ながら「より自己負担が少なく、事業規模が大きいものを」という基準で選ぶ。そんな風潮があったかと思います。しかし、今回やろうとしているのは、従来の補助金とは一線を画します。
「メニューにはないが、ウチはこうしたことをやりたい」という熱意や意欲がある自治体に対して、自由に使える交付金で対応するというのが今回の取り組みです。
また人材面では、「地方創生人材支援制度」で人材を派遣しています。これまでは、政令指定都市や県庁所在地への派遣が多かった。しかし、これからは本当に人材が必要なところであれば、人口5万人以下の自治体にも積極的に派遣していきます。また、国家公務員のみならず、大学の先生やシンクタンクなどの民間からも派遣が可能です。
さらに、特定地域での経験、もしくは愛着や関心をもつ職員を相談窓口として選任した「地方創生コンシェルジュ」を設置。各自治体は、よりマッチした人材に相談できるわけです。現在、966名の名簿を公開しています。ですから、「人材がほしい市町村は、どうぞ手を挙げてください」と。
ただ、このときも「いろんな役所に顔が利く実力のある役人がいいな」という発想ではいけません。たとえば「(※)CCRC事業に取り組みたいのでその分野に精通した人に来てほしい」というような具体的な要望を出してください、ということです。
※CCRC : Continuing Care Retirement Communityの略。アメリカで発達した高齢者居住コミュニティのこと。日本では、東京圏をはじめとする高齢者が、自らの希望に応じて地方に移り住み、健康でアクティブな生活を送るとともに、医療・介護が必要なときには継続的なケアを受けることができる地域づくりを目指すもので、政府が推し進めている
―情報面の支援についてはいかがでしょう。
官民のビッグデータを集結・見える化した地域経済分析システム『RESAS(リーサス)』を提供しています。これを使えば、各地域の農業生産高の推移や観光客の流れなどのさまざまな地域情報が時系列に把握でき、戦略の立案に活用できます。まだまだ開発途上ですが、こうしたシステムで情報支援を行っています。
優れた事業には満額支給逆に支給ゼロの可能性も
―石破さんは交付金について「満額がつくところもあれば、そうでないところもある」と発言しています。差がつくポイントはなんでしょう。
まず、発想の独創性。「こんな計画があるんだ、おもしろいね」という事業に対しては、ポイントを高く配分します。満額つくこともあれば、ゼロの可能性だってあります。「ゼロなんてヒドイ」という声もあるでしょうが、国も無作為に交付金をばらまくわけにはいきませんから、そこは厳しくチェックします。計画の内容に関しては、事前に相談に乗ります。メールでも電話でも、直接会いに来てもい
いので連絡してほしいですね。
さらにポイントとしては、「現実的かつ納得感があること」でしょう。「5年で人口を5割増やします」なんてアンビシャスな目標を出されても困りますから。
そうした計画をつくるためのキーワードは3つあります。
―それはなんですか。
1つ目は、「産・官・学・金・労・言」の連携です。産は商工会議所や商店街連合会といった地域の産業界。官は役所。学は大学や高校など。なかには中学生と一緒に取り組んでいる自治体もあります。金は地方銀行、信用金庫など地元の金融機関。労は労働組合など働き方を考える組織。言は地方の新聞、テレビ、ラジオです。つまり、役所あるいは首長が勝手に考えるのではなく、地域のあらゆる分野にたずさわる人に必ず総合戦略づくりに参画してもらってくださいということです。
2つ目は、KPI(重要業績評価指標)の設定。あいまいではなく、明確な目標を出してくださいよ、と。
そして3つ目が、PDCAサイクルを回すこと。しっかり計画(Plan)を立てて実行(Do)し、しっかり成果が出ているか検証(Check)したうえで修正を図ってさらに行動(Action)する。
こうした民間企業では当たり前のことが、行政ではなかなかできていなかった。そこで、この機能をしっかりサイクルとして回すことがポイントになってくるのです。
そこにしかないものにヒトは集まってくる
―地方創生には人口の維持が重要ですが、外部から人を呼び込むためにはどうすればいいでしょう。
それが霞が関や永田町でわかれば、みんなやっていますよ(笑)。その地域にしかないものを最大限活用して発信していくということでしょうね。あちこちで言われている言葉ですが「ないものねだりよりもあるもの探し」。その地域にしかないものが必ずあるはずです。
有名ですが、島根県の海士町などはいい例です。生徒がどんどん減って廃校の危機が迫っていた県立高校に、いまでは全国から子どもたちが集まってきて、一学年が2クラスになりました。それは、外部からきた民間の方々の発想を取り入れ、島にしかできない教育を実施したからこそ。そこに離島のハンデはありません。
わが市、わが町、わが村にしかないというモノが人を呼び寄せるし、それがなければ逆にどんどん人が出ていく。当たり前のことが当たり前のように起こっているのです。
―そのほか、「地方版総合戦略」を成功に導くためのポイントはあるでしょうか。
やはり、先ほども申しましたように、地域の人たちが連携して取り組んでいくことです。いちばんダメなのは「やりっぱなしの行政」「頼りっぱなしの民間」「無関心の住民」。これが三位一体になっているところは、失敗するに決まっていますよね。
「地方版総合戦略」の構想がスタートしたころ、「なにが総合戦略だ。ウチはそんなものとっくにやっている」という自治体もありました。「もう第○○次計画まで行われている」というのです。じゃあ、地元の駅前に行って、住民100人にその計画の存在を知っている人はいるか聞いてみてください、と。おそらくひとりも知らないでしょう。もし知っている人がいれば、それはきっと役所の職員です。そもそも、誰も知らない計画に意味はないでしょう、ということなのです。
ヒトがいない、カネがない、情報がない、時間がないというところもありました。ですので、ヒト、カネ、情報は国が用意します。時間は意欲しだいでしょう、と。補助金や公共事業に頼っていては、先がありません。いまこそ地域が一丸となって、本気で地方創生に取り組むことが求められているのです。
意欲と熱意のある自治体は国が全力で支援
―日々行政に取り組む自治体の首長および職員にメッセージをお願いします
地方創生の取り組みは、国と自治体のどっちが主でどっちが従という話ではありません。いわば国と自治体の共同作業です。ましてや、どちらが良いか悪いかなんて話でもない。そうではなく一緒になってやっていきましょうよ、と。
意欲と熱意のある自治体は国が全力で支援します。そんなふうに考えている我々と、心をひとつにしませんか、ということなのです。