【自治体通信Online 特別連載】
次世代自治体経営のカタチ #6
経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(BCG)が「脱炭素社会における自治体の役割」について考察するシリーズの後編は自治体に求められる「10個の具体策」について、事例等に基づいてBCGの丹羽 恵久氏(マネージング・ディレクター&パートナー)と森原 誠氏(パートナー)が深掘りします。そこから見えてきた「これからの自治体経営のあり方」とは?
自治体が検討すべき10個の取り組み候補
BCGでは、カーボンニュートラルへの取り組みを検討するためには、3つの切り口が重要と考えている。この3つの切り口で、自治体が検討すべき10個の取り組み候補をご紹介したい。
(参照記事:自治体にとってのカーボンニュートラル推進≪前編≫)
①要件を充たす
この領域においては〔A. 組織体として自らの要件を充たすために行うべきこと〕、〔B. 住民や域内の企業の行動変容を促すこと〕の双方が考えられる。具体的には下記のような取り組みが挙げられる(図表3参照)。
A
❶自治体所有の建物内におけるCO2排出量の削減
❷物品調達におけるカーボンニュートラル化
B
❸域内での温暖化ガス排出移動手段の乗り入れ制限
❹再エネ利用やグリーン購買促進に向けた補助金の提供
先般、環境省から公表された「地域脱炭素ロードマップ」で挙げられている重点施策などを踏まえたうえで、地域ごとの独自性も考慮して上記を検討できるとよい。
②競争優位を築く
この領域においては、カーボンニュートラルを通じて、住民や企業に対して『都市としての優位性』を打ち出すことが必要だ。また、都市運営の高度化と効率化を同時に実現するための切り口としてカーボンニュートラルを活用することが考えられる。具体的な取り組み候補としては、下記が考えられる(図表4参照)。
❺カーボンニュートラルを織り込んだ住みやすさ向上
(例:シドニーでは、屋上や私有地の緑化の費用を支援することで、美しい景観と気温低下の一石二鳥を実現している)
❻カーボンニュートラルとデジタルトランスフォーメーション(DX)をセットにした都市基盤の高度化
(例:アムステルダムでは、スマートシティ・プロジェクトと連携し、都市インフラの高度化と排出削減を実現している)
❼カーボンニュートラルを通じた健康/ウェルビーイングの実現
(例:パリでは、地産オーガニック食品の購入促進や有機農法への移行促進により、温暖化ガス排出量が多い肉の消費量を削減している)
③新しい事業機会を捉える
この領域では、カーボンニュートラルを切り口にした新しい自治体発展の機会創出を考える。具体的な取り組み候補としては下記が挙げられる(図表5参照)。
❽カーボンニュートラルを通じたスタートアップ振興
(例:グリーンテック企業の積極的な誘致やそのためのファンドを自ら立ち上げる)
❾都市を実証実験の場(『リビングラボ』)として提供
(例:産官学でのカーボンニュートラルについての実証の場として提供することで、関連産業の振興や雇用拡大を実現)
➓ESG(環境・社会・ガバナンス)関連資金の取り込み
(例:カーボンニュートラルボンドを発行することで、自治体として低コストで成長のための資金を確保)
先進的な取り組みを進める自治体のご紹介
ここでは、ヘルシンキ(フィンランド)の先進的な取り組みを紹介したい。ポイントとしては4つある。
①2035年にネットゼロを宣言(現時点で具体的なネットゼロ達成を宣言している自治体は限定的)
②徹底した取り組み内容と、進捗の見える化
③賞金を用意して最新技術を募集
④クリーンテックやスマートシティの集積地をつくることで有力プレーヤーを誘引
まず、①ネットゼロ宣言については、2035年までにネットゼロ、2030年までに90年比60%削減という高い目標を設定している。
そこに向けて、②147の取り組みを設定した。取り組み自体は特段特別なものではないが、全てが市のHP上で閲覧可能だ。単に取り組み内容だけではなく、現時点での削減効果や進捗状況、さらには担当者が誰かも掲載しており、市民や企業から見える化されておりコンタクトも容易である。
また、③最新技術導入に向けて、特に再エネについては100万ユーロ(2021年7月時点の為替レートで約1億3,000万円)の賞金を用意して募集したところ、35カ国252チームが応募した。優勝した4チームの技術は、2029年までに石炭の使用を止めるために順次導入される予定である。
さらに、④技術の集積地をつくる取り組みも進められている。クリーンテック(Cleantech)の中心地、ウーシマー県とその近隣エリアにフィンランド全体のクリーンテックエンジニアの約50%にあたる54,000人の技術者が在住し、技術革新を加速させている。
高い目標を掲げるとともに、その進め方については、日本の自治体で取り組みを検討する際の参考になるポイントも多いだろう。
今後の取り組みに向けて
前回でも述べた通り、自治体にとってカーボンニュートラル実現に向けた検討の本格化はこれからである。
カーボンニュートラル推進に向けては、
・現状の立ち位置確認と大方針の検討
・主要な取り組み内容の検討(上述の①~③の3つの切り口に沿って)
・推進に向けた態勢・ロードマップ・仕組みの構築
この3つのステップで考えることが必要である(図表6参照)。
日本が2050年までにカーボンニュートラルを実現できるかどうかのカギを握るのは、各自治体での取り組みの本格化、徹底次第と言っても過言ではない。カーボンニュートラルは一過性の議論ではなく不可逆的なものであることを認識しつつ、ぜひ積極的な検討がなされることを期待したい。
(今回をもってこの連載は終了します。ご愛読ありがとうございました)
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丹羽恵久(にわ・よしひさ)さんのプロフィール
ボストン コンサルティング グループ マネージング・ディレクター&パートナー
BCGパブリック・セクターグループの日本リーダー。ハイテク・メディア・通信グループ、社会貢献グループ、および組織・人材グループのコアメンバー。央官庁・自治体・スポーツ団体・NPOなどの組織、および通信・メディア・エンターテインメントなどの業界の企業に対して、成長戦略、デジタルサービス開発、組織変革、経営人材育成などのプロジェクトを手掛けている。
慶應義塾大学経済学部卒業。国際協力銀行、欧州系コンサルティングファームを経て現在に至る。
<連絡先>niwa.yoshihisa@bcg.com
森原誠(もりはら・まこと)さんのプロフィール
ボストン コンサルティング グループ パートナー
BCGパブリック・セクターグループのコアメンバー。中央官庁や自治体向けの調査・政策立案の支援などを行っている。
東京大学法学部卒業、UCLA法科大学院修了。総務省を経て2011年にBCGに入社、その後、株式会社青山社中共同代表を経て、2019年にBCG再入社。
<連絡先>morihara.makoto@bcg.com