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自著書評(糸島市職員・岡 祐輔)
ゼロからわかる!

公務員のためのデータ分析

【自治体通信Online 寄稿記事】
自著書評(糸島市職員・岡 祐輔)

EBPM(科学的根拠に基づく政策立案)の重要性が指摘されるようになってきた昨今、課内等で「この政策のデータ根拠は?」と詰められて(!)冷や汗をかいた経験はありませんか? 「データ分析は難しい」と苦手意識をもっている自治体職員も少なくないようです。しかし「分析の道具である分析手法の理解より、どんな時に、どんな道具が必要なのか、“道具の選び方”を身に着けることをオススメします」と話すのは『ゼロからわかる! 公務員のためのデータ分析』(学陽書房)をこのほど上梓した糸島市(福岡)職員の岡 祐輔さん。自治体業務にデータ分析を活かすため、公務員が公務員のために書いた本書のポイントや活用法等を岡さんに解説してもらいます。

私も数字が苦手でした!

「統計、データ…苦手っ!」といった意識を持つ自治体職員が多いのではないでしょうか。

大好き! という人は少ないでしょう。かくいう私も学生時代から数字が大の苦手でした。そんな私でも、ちょっとしたコツと道具を使えるようになれば、これまで見えなかったり、気づかなかったりした風景が広がり、仕事や研究に活用でき、楽しく分析ができるようになりました。

申し遅れましたが、私は福岡県糸島市の市職員です。今では、このような統計分析が仕事で活かされ、内閣府「地域経済分析システム」を用いたEBPM(科学的根拠に基づく政策立案)による政策アイデアコンテストで地方創生担当大臣賞、総務省統計利活用表彰特別賞など、過分の賞をたくさんいただくことができました。

そして数学が苦手な私が、データ分析の本『ゼロからわかる! 公務員のためのデータ分析』(学陽書房)を出版させていただくことになりました。

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『ゼロからわかる! 公務員のためのデータ分析』(学陽書房)の表紙カバー

データ分析がわかれば“鬼に金棒”

そもそもデータ分析がなぜ必要なのでしょうか。

皆さんもよく耳にする「意思決定を下すため」。もっというと、意思決定は勘や経験だけでもできますが、成功率のアップ、自信、安心、周囲の納得が得られます。つまり、「意思決定のプロセスを助けるため」という方がもっとしっくりくるかもしれません。

どこの自治体を探しても職場内研修で統計を学べるところは少ないでしょう。またWEBで検索しても、公務員向けのデータ分析や統計の教科書はほぼありません。すべての部署で役立つ基盤となるスキルですが、専門研修に位置づけられ、みんなが学べる環境ではありません。

一方で、政策立案するとき、計画書を作るとき、議会や住民向けの説明資料を作るとき、色々な場面で統計学の知識や技術が役に立ちます。

私は入庁当時の20年前から、民間の経営手法を公共政策に取り入れたいと思い、データ分析を学んだり、実践で使ったりしていました。高校卒業後も、2つの大学や大学院でも修士と博士、民間のセミナーなど、統計学やデータ分析を学びました。

それを自分で行政実務に活かす試行錯誤し「この経験が全国でデータ分析に悩む皆さんのお役に立てるのでは」と筆を取った次第です。

地方自治体は、民間企業と違い、データサイエンティストや研究員、マーケターといった役割分担や組織の分担がなく、政策実務を執る現場の職員が持てば、データがすぐに現場に活かされ「鬼に金棒」です。

本書の目次(抜粋)
第1章:実例でわかる! データ分析の基本思考
第2章:体感しよう! データ分析の着眼点
第3章:アナログでできる! Excelでキレのあるグラフを作る方法
第4章:みんなが知りたい! 聞き取り・アンケート分析の方法
※分析方法がわかるExcelシートダウンロードサイト付き

“ありがちな困りごと“を解消!

本書のポイントのひとつ目は、分析の一連の流れに沿って、内容を構成したことです。

まず、分析を行うときの全体の流れをつかんでもらい、そしてあとの章で、その流れに沿って1つずつやり方を理解してもらえるようになっています(下図参照)。

「分析の目的があいまいになってしまう」「仮説の立て方がわからない」といったことを最初に解決し、何を分析するのかを把握できるようにして、分析の道具を後に説明しています。

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分析の一連の流れ(上図)に沿って本書の内容を構成

実務で活かせる工夫を随所に

ポイントの2つ目は、上画像の「4.分析する」ときに、道具ひとつひとつの使い方より、「どの道具を選ぶか」を最初に理解してもらうことに重点を置きました。これを比較するときは、どの道具を選べばよいのか…「あ、この道具(分析)を使おう!」となってもらえると嬉しいです。

統計学では、t検定、分散分析、相関分析、回帰分析、カイ二乗検定といった分析手法を学びますが、私は最初、これをどんなときに使うのかわかりませんでした。

実は下のチャート図のようなおおまかな流れがあります。

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まさに木を見て森を見ずですが、上の図を見て、各分析の手法に目を取られがちです。分析手法をひとつ覚えるより、どのような場面で使えばよいのか、何を分析するのかが重要ポイントだと思いました。

t検定の方法を理解するより、例えばマーケティングでABテスト(グループ間での商品の売れ行きや感想などを比較)をするときに、「2つのグループの違いを知りたい(場面)」「平均の差を比較しよう(何を)」という思考を持つことの方が重要です。

結果的に「t検定が使える(本当に平均値に差があるといえるかを検証)」ということになりますが、検定をしなくても、平均値を比較して大きく差があると一目瞭然の場合も多々あります。

「カイ二乗検定を使おう」と思う人は、これは平均値ではなく、「クロス表分析で、各セルの比率の差があるか調べよう」といったように、仮説を立てたときに、どんな分析手段を用いるのかを判断しているのです。

やはり、仮説を設定した後に、平均値の差を比較する分析やクロス表の比率の差を見る、2変数の関係を知るといった、どの分析手法を選ぶかを知る方が大変重要だと思いました。

本書では平均の比較、クロス表分析、相関分析や回帰分析など、因子分析以外は広く紹介しました。

本書を読めばゲーム感覚でデータ分析ができる

他にも道具の詳しい使い方などたくさんお伝えしたいこともありましたが、本書では紙面の限りもあり、ポイントを絞りこみました。ただし、本書では、次のパワーアップのためにご自分で調べてもらえるよう「ステップUP」の項目を設けていますので、ぜひご参考ください。

ステップUPとして検定方法やより高等な分析方法も紹介していますので、あとから十分学べますし、今はソフトが自動計算してくれます(本書でもソフトの使い方を少し紹介しています)。

他に、上の図に出てきませんでしたが、テキストマイニングといって、本書ではWEB上のコメントや文章、アンケートの自由意見などから単語の頻出度や単語間の関係性を分析する手法である「共起ネットワーク分析」「階層クラスター分析」にも触れました。これもフリーソフトがあり、簡単にできます。

私の周りの職員は、早速本書を見て、下図のような共起ネットワーク図を用い、「糸島市内にあるこのお店や観光地はどーこだ?」というゲームをしたり、「市役所のイメージ図」を作ったりして、WEBの書き込みから、面白い分析をしてくれるようになりました。

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職員の仲間が本書を見て早速つくってくれた共起ネットワーク図(部分)

このように分析の場面がわかり、道具を選んで使えると、分析が楽しくなると思います。

すべての部署で役立つスキル

巻末には私が作成したExcelでの分析フォーマットがダウンロードできるようになっています。また、インストールの必要がないフリーの統計分析ソフトの紹介もしています。ぜひステップUPして、検定まで分析を進めてみましょう。

例えばクロス表分析では、カイ二乗検定のほかに、残差分析というものがあり、表のどこのセルがより貢献しているかもわかります。

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上の表は6つの学校の生徒を対象に「〇〇市が好きですか?」を聞いたアンケート調査の結果です。全体では74.7%が「○○市が好き」、「嫌い」が4.9%、「どちらでもない」が20.4%となりました。

一方で、学校ごとに差があるのがわかると思います。そこで、「学校ごとの差を調べることで地域差がわかる!」「学校ごとの差を調べたいならクロス表分析だ!」というように考えます。

クロス表分析なので、学校よって生徒たちの好き嫌いに差があるかを調べるため、カイ二乗検定を行った結果、1%の水準で有意であり(この検証結果が外れている確率は1%以下。99%当たっています)、学校によって好き嫌いに差があるといえます。

さらに残差分析を行った結果、高い(△)、低い(▼)の箇所は5%の確率で有意であり(この検証結果が外れている確率は5%以下)、特に差を牽引しています。

つまり、他校に比べて「A校は好きの割合が高く、C校、D校は好きな割合が低い」、「D校は嫌いな割合、どちらでもない割合の両方が高く、C校はどちらでもない割合が高い」といったことを自信をもって確認でき、「なぜ学校によって違うのだろう? 交通や買い物が不便な地域の生徒たちだろうか?」と次の仮説が浮かびます。

アンケートでは好きな理由や嫌いな理由も質問しますが、これだけでも見えないものが可視化でき、自信をもって提案できるようになります。そして、どんな分野でも役立つのです。

最後に

スポーツも、勉強も、最初に型(基礎)を学んだ方が、早く長く大きく成長できます。本書は地方自治体職員の皆さんをメイン読者に考えており、どこの地方自治体のインフラでも、多分野で、自身のスキルひとつでデータを活用できるようになるよう、根本の考え方をお示しするものです。

また勉強会などで教科書として使えるよう、そして長く使ってもらえることを想定して書いています。限られた紙面ですべてをお伝えすることは叶いませんが、すべての部署で役立つスキルであることをお約束します。

最後になりましたが、人の喜び(他者貢献)が私の喜び(自己実現)です。私の力を開放させていただける、このような執筆の場は仕事のモチベーションを高めることにつながります。自治体通信Onlineや読者の皆様に心から感謝いたします。

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■ 岡 祐輔(おか ゆうすけ)さんのプロフィール

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福岡県糸島市企画部経営戦略課主任主査/MBA(経営修士)
2003年に糸島郡二丈町(現糸島市)に入庁。民間の経営手法を公共経営に活かすため、仕事の傍ら、九州大学ビジネススクールに飛び込み、MBA取得。
地方創生☆政策アイデアコンテスト2016地方創生担当大臣賞、帝国データバンク賞。地方公務員アワード2018を受賞。
著書に『スーパー公務員直伝! 糸島発! 公務員のマーケティング力』(学陽書房)、『地域も自分もガチで変える! 逆転人生の糸島ブランド戦略』(実務教育出版)。がある。2022年2月に『ゼロからわかる! 公務員のためのデータ分析』(学陽書房)を上梓。

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