【自治体通信Online 寄稿記事】
自著書評(NPO法人 デジタルガバメントラボ)
いよいよ待ったなしの自治体DX。でも「そのために本当に必要なモノや“使える”サービスとシステムをつくるための準備ってなんだっけ?」。こうした自治体現場の疑問にわかりやすく答える“虎の巻”を、現役の自治体職員等が立ち上げたNPO法人 デジタルガバメントラボが出版しました。5名の自治体情シス部門職員と2名のベンダー担当者が行政のデジタル化やシステム導入について対談形式で徹底議論した『自治体×ベンダー 自治体システム導入の「そういうことだったのか」会議』(ぎょうせい)がそれです。同書のポイントや活用方法等について、デジタルガバメントラボ代表理事の千葉大右さん(船橋市役所職員)に解説してもらいます。
NPO法人を設立したワケ
皆さまこんにちは。NPO法人デジタルガバメントラボの千葉と申します。この度は機会をいただき、自著書評を掲載することになりました。せっかくの機会ですので、拙著『自治体×ベンダー 自治体システム導入の「そういうことだったのか」会議』(ぎょうせい)を、各章ごとに振り返りつつご紹介したいと思います。
その前に、我々デジタルガバメントラボ(以下、DGL)の紹介を少しだけ。
DGLは自治体職員が中心となって設立したNPO法人です。
最近は公務員がNPO法人や社団法人を設立する事例が増えてきましたが、それでもまだまだ珍しいということもあり「なぜ公務員がNPO法人を設立したのか?」と聞かれることがあります。理由をひとことで言えば、「公共のデジタル分野における官民共創を実現したい」という思いからです。
役所の外に飛び出し、民間の方も参加する勉強会などに参加するようになると、人のつながりが増えて活動の幅が広がっていきます。しかしながら、活動の幅が広がるのと同時に「動きにくさ」を感じることも多くなります。
活動経費は個人の持ち出しですし、所属する自治体の肩書が常について回ります。こうした「動きにくさ」を「動きやすさ」に変えるひとつの答えがNPO法人の設立だったのです。
我々はNPO法人の設立によって、自治体職員の立場は残しつつも、時間外の活動をNPO法人の活動として行えるようになりました。こうして、今まで行ってきた活動をより質の高いものにすることが可能となったのです。
例えば勉強会は、当日会議室に集まって行うだけでしたが、今は配信スタジオから全国に生配信をしています。
これにより、今まで遠方で参加できなかった方にも届けることができるようになりましたし、当日参加できなくても後から見ることができるようになりました。
これを可能にしたのは自治体職員ではなく、民間から参加しているメンバーのスキルです。NPO法人という「器」があるからこそ、様々な人々が集まって活動することができるのです。
「これからの自治体情シスのあるべき姿」で大激論(プロローグ~第2章)
プロローグ:ベンダーが自治体に訪問に行くまで
プロローグは、ベンダーさんが自治体を訪問する際の注意事項やお願いしたいことを中心に話が進みます。
私は来訪するベンダーさんは基本的に全て対応することにしています。我々が知らない情報を持っていたり、これを機に新しい取組みが始まったりすることがあります。
その時に具体的なソリューションがなくても、構想を膨らませる一助になれば、結果的にいいソリューションができて我々に還元されるのではないか。そういう気持ちでお話を伺うことにしています。
お互いなにかを掴むきかっけになればいいですね。
第1章:自治体情シスの立ち回り方
かつて庁内の業務システムを一手に引き受けていた自治体情シスですが、パッケージシステムが主流となった近年では、「単なるパソコン屋になった」と揶揄されることも。
そんな状況下において自治体情シスはどのように立ち回っていけばいいのかを、第1章では語っています。
パッケージシステム導入時におけるカスタマイズの抑制や、ブレーキにならずに推進役になるにはなど、これからの自治体情シスのあるべき姿に議論は尽きません。
第2章:プロジェクト立ち上げとベンダーとの関係
新しいシステムの導入や大規模なシステムの更新など、プロジェクトが立ち上がったときに自治体情シスに求められる役割はなんでしょうか。
「発注者責任」という言葉がありますが、経験値の少ない自治体情シスではどうしてもベンダー任せになってしまうことも。
自治体情シスとベンダーが、プロジェクトの役割分担をうまく調整することがプロジェクト成功の秘訣です。今流行りの「デジタル人材」の中でも、頼りになるプロジェクトマネージャーが一番必要な人材かもしれません。
落とし穴と課題、その先の未来(第3章~エピローグ)
第3章:本稼働前は危険がいっぱい
プロジェクトも終盤に差し掛かり、残るは最終テストとなったとき、気を付けるべきことはなんでしょうか。
まさかテスト仕様書までベンダー任せにしていないですよね?
本稼働前は今まで見えてなかった問題が表面化するタイミングでもあります。むしろここで表面化すればラッキーです。本稼働後にクリティカルな問題が発覚しては目も当てられません。
急いで解決するか、とりあえず運用で回避するか。所管課とベンダー双方の意見を聞いて、業務に支障なく本稼働をスタートさせるのも、自治体情シスの重要な役割と言えます。
第4章:システムから見えてきたこれからの課題
システムの調達方法やデジタル人材の育成など、自治体情シスが抱える課題は年々増えています。パソコンとネットワークのお守りをしていればよかった時代は終わりました。ウィズコロナ・アフターコロナを見据えたデジタル化は待ったなしです。
「システムのことは情シスで」というマインドを変えていくためにはどうすればいいか。そこに特効薬はなく、地道な積み重ねが必要のようです。その第一歩を踏み出すきっかけは、自治体情シスが外に目を向けることなのかもしれません。
エピローグ:自治体DXの実現に向けて
2020年12月に「自治体DX推進計画」が公表され、2021年7月にはその詳細手順を示した「自治体DX推進手順書」が公表されました。
自治体システムの標準化と行政手続きのオンライン化は待ったなしで進める必要がありますし、この二つ以外の取組みも並行して進めなくてはなりません。
本章ではこれまでも度々出てきた「自治体DX人材(デジタル人材)」について、人事制度にまで踏み込んで徹底的に議論しています。
自治体デジタル化の着実な進展に貢献したい
いかがでしたでしょうか。各章を簡単に紹介してみましたが、実際の文章は対談形式になっていますので、もっとすらすらと読んでいただけると思います。また、システム用語や行政用語のざっくり解説も散りばめていますので、新任情シスの方やベンダーの方もぜひ手に取っていただければ幸いです。
気が付けば、いつの間にか「ICT」が「デジタル」に変わり、世の中は役所をも巻き込んでDXという熱に浮かされているようです。
そんな中、我々デジタルガバメントラボは、地に足をつけ、地味ながらも着実に自治体のデジタル化が進むよう、全国の有志とともに活動を続けております。拙書が多くの人に届き、我々の活動を知るきっかけとなることを願っています。
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NPO法人 デジタルガバメントラボのプロフィール
自治体におけるデジタルガバメントの実現を目指して、官民問わず広く共創するための枠組みとして活動している。また、活動を通じて、得たノウハウや研究成果の横展開を、社会実装へとつなげるべく、意欲ある団体や職員に展開している。
本稿を執筆した代表理事の千葉大右(ちば・だいすけ)さんは、船橋市役所職員。総務省 地域情報化アドバイザー(2018~)、総務省 地方自治体のデジタルトランスフォーメーション推進に係る検討会 構成員(2020~2021)、総務省 住民記録システム等標準化検討会 構成員(2021~)を務める。
<NPO法人デジタルガバメントラボのサイト>https://www.dgl.jp/
<連絡先メールアドレス>info@dgl.jp