【自治体通信Online 寄稿記事】
自著書評(東京都杉並区広報専門監/コミュニケーション・デザイナー・ 谷 浩明)
さまざまな情報メディアやツールが発達した現代は、知りたい情報にすぐアクセスできる一方で、情報の送り手にとっては「伝えたいことが情報の洪水に埋没し、なかなか伝わらない」難しい時代でもあります。それは自治体も同じ。住民や地域にとって重要な情報を確実に伝えるため、悪戦苦闘している自治体職員は少なくありません。どうすれば実効性の高い情報発信ができるのでしょうか? 「その出発点は、“伝える”と“伝わる”を分けて考えることです」。こう話すのは東京都杉並区情報専門監を務めるコミュニケーション・デザイナーの谷 浩明さん。谷さんは“伝わる”情報発信ノウハウを自治体職員向けにまとめた『公務員のための伝わる情報発信術』(学陽書房)をこのほど出版しました。同書のポイントや活用方法を谷さんに解説してもらいます。
情報を発信しているのに、なぜ伝わらないのだろう…
情報発信を行っている公務員のみなさんの中に、こんな悩みを持っている方はいませんか?
伝えているのに、伝わらない…。
伝えたい相手に、届かない…。
伝えたい相手に、響かない…。
情報を発信しているのに、なぜ伝わらないのだろう…。
私は現在、東京都杉並区の広報専門監として情報発信のサポートや他自治体の広報研修などを行っています。
実際の現場では、主に住民に向けて情報発信をしていますが
「伝えたい人に伝わらない…」
「伝えているのに伝わっているか分からない…」
「どうやって伝えたらいいか分からない…」
など、日々の情報発信に課題を持っている職員が多く見られました。
そんな現状を解決すべく、今までの経験で培った自分が持っている“伝わる”情報発信のノウハウを書籍という形で全国の公務員のみなさんに共有できないだろうか…と思い、『公務員のための伝わる情報発信術』(学陽書房)を執筆させていただきました。
IT・スマートフォンの発達で、住民のライフスタイル・価値観の多様化や情報発信・収集の手段が目まぐるしいスピードで変化しており、今後もこのスピードは鈍ることはなく加速し続けると予想されます。
そして、今まさに全世界を巻き込んだ感染症の影響を受け、自治体の情報発信のあり方が浮き彫りとなり、より一層の重要性が増したのではないかと感じています。
伝わる…とは何か?
“伝わる”情報発信を実現させるために、どうしたらいいでしょうか。まず、 “伝える”と“伝わる”といった言葉を理解する必要があります。
では、“伝える”と“伝わる”の違いはなんでしょうか。
“伝える”とは、情報の送り手が受け手に情報を一方的に流すこと。一方的な情報発信は、受け手がその情報を受け取っているor受け取っていない。また、受け取っても無視しているor違った情報として受け取っている。つまり、相手の行動や気持ちがわからない状態です。
一方“伝わる”とは、情報発信した結果、受け手が発信された内容を理解し、返信や期待通りの行動変容をしてもらうことです。
住民のことをよく知る
もし、私が“伝わる” 情報発信に必要なポイントをあげるとすれば、大きく2つあります。
1つ目は『住民のことをよく知ること』。
多くの自治体では、情報発信をする際にターゲットを『全ての住民に向けて…』と大きく括ってしまいがちです。この考え方は多くの自治体でも浸透しており、住民に対しての「公平性」を意識し過ぎているためだと推測します。
しかし、情報発信を行う際、内容にもよりますが、伝えたい住民は『全ての住民』とは限りません。現に様々な住民サービスを展開している自治体では、伝えたい住民(例:子育て世代、高齢者、障害者など)を明確にした部署も存在し、その住民に寄り添ったサービスを提供しているはずです。
また、“まち”には多様(年齢・悩み・職業・趣味・嗜好)な住民が暮らしており、彼らを『全ての住民』として一括りにはできませんよね。
そこで大切になってくるのは、自治体が発信したい情報を確認しながら「伝えたい住民を具体的にイメージすること」。そしてイメージした住民が、
どんな生活をしているのか?
どうやって情報収集しているのか?
どんなものに興味があるのか?
などを、情報の送り手である自治体が住民にヒアリングしたり、アンケートなどを使いリサーチをする。これらの情報収集を行えば、これから発信する情報に住民の興味や生活ニーズなどが情報として入れ込められますよね。
実際に発信する情報に住民からの声が反映されているので、情報発信後の住民の行動変容が期待できるというわけです。つまり発信した情報が住民に“伝わる”可能性が高まるということになります。
情報発信のツールを複数掛け合わせる
ポイント2つ目は、『情報発信のツールを複数掛け合わせること』です。
今までの自治体が行なってきた情報発信では、主に広報紙やチラシなどの紙媒体が中心。近年はホームページをはじめ、SNSなどを利用したインターネットの情報発信も加わり、住民との双方向性が可能となっています。
しかし、紙・インターネットでの発信内容を見てみると、自治体からの一方的な情報発信の印象が強い。今後はより一層の通信環境の発達などから、情報の氾濫が予想されるため、“伝えた”だけの一方的な情報発信では多くの情報に埋もれてしまう。結果、情報発信しても住民に届かない可能性もあるのです。
住民に情報を届け、行動を変える“伝わる”を実現するために、自治体は社会の変化に柔軟に対応し、紙やデジタルのツールを掛け合わせながら情報発信の内容を工夫していく必要があると考えます。
そのためには、自治体が利用する情報発信ツールを今一度理解し、様々なツールを掛け合わせながら住民に届くように編集(文章や写真を住民目線で作成)することが必要になってくるのではないでしょうか。
住民に“なんとなく”情報を発信するのではなく、イメージした住民像やリサーチした情報をもとに、 “伝わる” ために適切な情報を計画的に発信することが必要な時代になってきたのではないかと思います。
あなたの情報発信スキルがより活きるのは『基本』の考え方
本書の構成としては、実際に自治体で実施した情報発信の事例、伝わる情報発信の基本の考え方、進め方、そしてすぐに仕事で使える実践的なテクニックの計5章でまとめました。
中でも、私がぜひ注目して欲しいと思うのは、CHAPTER1・CHAPTER 2・CHAPTER 3です。
CHAPTER1は、フルカラーで実際に行われた様々なジャンルの情報発信の事例をポイントを押さえながら解説しているので、情報発信の色々なアイデアの参考になるかと思います。
そして、CHAPTER 2・CHAPTER 3では、『情報発信の基本』が書かれています。
個人的にはテクニックというものは『基本』があってこそ活きるものだと思っているので、ぜひCHAPTER 2・CHAPTER 3あたりに注目していただければ、CHAPTER 4・CHAPTER5のテクニックがより活きてくると思います。
これは『情報発信』だけでなく、全ての物事にも言えることですが『基本』が定着しないうちにテクニックに走ってしまうと、どこかで必ず限界を迎えてしまいます。
ぜひCHAPTER 2・CHAPTER 3に書かれている『情報発信の基本』をご自身なりに理解し咀嚼することをオススメします。きっと、チラシ・広報紙・SNS以外の様々な情報発信にも共通して活用できると思います。
「情報が伝わらない…」から「情報が伝わった!」へ
本書では、先ほど挙げた2つのポイントをもとに、これからの時代を見据えた、住民に“伝わる”ための情報発信の実際の事例、考え方、進め方、テクニックなど、自治体に必要な情報発信のノウハウを様々な角度から1冊にまとめました。
「情報を発信しているのに、なぜ住民に伝わらないのだろう…」 と情報発信に課題を感じている公務員のみなさんにぜひ手に取って欲しいと思います。必ず情報発信のヒントや知識が得られ、今日からの業務に役立つ1冊になると思っています。
情報発信に困っている公務員の皆さんの仕事に役立つことができれば幸いです。
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谷 浩明(たに ひろあき)さんのプロフィール
東京都杉並区広報専門監
静岡県知事戦略局広報アドバイザー
東京都中小企業振興公社広報強化アドバイザー
コミュニケーション・デザイナー(合同会社MACARON代表)
広報・情報学修士(MICS)
グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタート。現在はグラフィックデザインだけでなくコミュニケーションをデザインすることを主軸とし、NPO・市民団体等の広報活動のサポート、広報研修を多数実施。
平成28年度より東京都杉並区広報専門監として、基礎自治体の広報活動(広報紙・ホームページ・動画・SNS、チラシ・ポスターのデザインや広報相談、広報研修等)をサポートしながら他自治体やNPO・市民団体等への広報研修も精力的に行う。
令和2年度からは静岡県知事戦略局広報アドバイザーとして広域自治体の広報活動もサポートしている。
平成29年度東京都広報コンクールで最優秀賞、平成30年度/令和元年度で二席など受賞歴多数。日本グラフィックデザイン協会会員。
著書に『公務員のための伝わる情報発信術』(学陽書房)がある。
<MACARONのホームページ>https://www.macaron.jp.net/
<連絡先>MACARONのお問い合わせフォーム:https://www.macaron.jp.net/contact