【自治体通信Online】
自著書評(松阪市 健康づくり課 新型コロナワクチン室主任・上村 州史)
自治体の“基礎と顔”を担い、DXやマイナンバーなど時代の変化に直面―! こうした住民課の多岐にわたる仕事内容、業務の基本、さらには課員の心構えも丁寧に解説した住民課職員のための仕事本
『住民課のシゴト ver.2~住民課に配属となったら最初に読む本』(ぎょうせい)がこのほど刊行されました。同書の編著を手がけた職員有志で構成する住民窓口研究会のメンバーで「住民課はスゴイんです!」と熱く話す松阪市 健康づくり課 新型コロナワクチン室主任の上村 州史さんが同書の特徴などを解説します。
住民課ってスゴイんです! その1~『住民課のシゴト』との出会い
『住民課のシゴト ver.2~住民課に配属となったら最初に読む本』(ぎょうせい)が2022年9月に発刊されました。私は、本書の編著者・住民窓口研究会の一員として執筆を担当しました。ちなみに、住民窓口研究会とは、住民窓口業務や戸籍業務に携わる現役自治体職員の有志で結成しています。
■本書の概要
本書の表紙カバー【目次】第1章 住民課とはどんなところ
第2章 住民課職員としての心得とシゴトのコツ
第3章 住民基本台帳業務を知ろう
第4章 マイナンバー対応業務を知ろう
第5章 戸籍業務を知ろう
付 録 押さえておきたい重要用語辞典
まずは、私が本書に携わることになった経緯からお話ししていきたいと思います。
私が戸籍住民課に配属されたのは、2017年10月です。当時はおくやみコーナーを立ち上げるべく特命の異動でおくやみコーナーの運営に専念していたので、当初は住民票を作れない戸籍住民課職員でした。
繁忙期の3月から通常の窓口も手伝い始め、マニュアルを見なくてもひととおり対応ができるようになってきた頃、出版されて間もない『住民課のシゴト』(脚注)と出会ったのです(本書と同じく、ぎょうせいから刊行された同書は本書のver.1に当たります)。業務に関して、ざっくりと全体像や制度の変遷などをつかんでから深めていきたい派の私にとって、この本は、ど真ん中ストライクな1冊でした。特に住民課に配属された新人さんや新任管理職の方など、住民課の基礎を知りたい方にオススメです。
(脚注)『住民課のシゴト』https://shop.gyosei.jp/products/detail/9693
そして、4年ぶりに改訂版として第2弾(ver.2)を発刊するとお声がけいただき、自身が実際に活用してきた本のお役に立てればと、編著者として結成された住民窓口研究会のいちメンバーとして改訂作業に参加しました。ver.1と対象読者やコンセプトはそのままに、マイナンバー業務や改正戸籍法関連の実務に直結する内容の更新はもちろん、知っていると視野が広がるコラムも充実させています。
住民課ってスゴイんです! その2~住民課の仕事はスゴイ!
私たち住民窓口研究会が大事にしている規定のひとつを紹介します。
住民基本台帳法第1条は、国・自治体の仕事を支える基礎であり、行政改革を進めるうえで住民課の業務がいかに重要であるのかを体現しています。
住民基本台帳法
第一条 この法律は、市町村(特別区を含む。以下同じ。)において、住民の居住関係の公証、選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住所に関する届出等の簡素化を図り、あわせて住民に関する記録の適正な管理を図るため、住民に関する記録を正確かつ統一的に行う住民基本台帳の制度を定め、もつて住民の利便を増進するとともに、国及び地方公共団体の行政の合理化に資することを目的とする。
一方、戸籍法には目的条項はありませんが、戸籍制度は一般的に次のように説明されます。戸籍制度は各自治体の住民課が代々受け継ぎ守り抜いてきた財産です。
戸籍事務は,人の出生から死亡に至るまでの親族関係を登録公証するもので,日本国民について編製され,日本国籍をも公証する唯一の制度です。
住民基本台帳事務は居住地によって管轄する自治体が変わる自治事務。戸籍事務は国によって統一的に管理される法定受託事務であることは本書のなかでも触れられています。このことを違う角度から見てみると「戸籍=アイデンティティ」、「住基=ライフ」を司っているといえるのです。さらに「デジタル社会のインフラ」となるマイナンバーカードの交付まで担っています。
役所の中でダントツに来客数が多い住民課は、「市役所の顔」でもあり「行政の基礎」です。しかもこの二役を同時に担っているなんて住民課の仕事はとってもスゴイんです。
住民課ってスゴイんです! その3~住民課の仕事はフルイ!?
住民基本台帳事務や戸籍事務は行政の仕組みのなかでも歴史が古く、時代に適応していくために法改正を重ねて現在に至ります。
しかし、社会の変化が早くなっている今日、「居住地は一人にひとつ」や「家族のありかた」など、制度と現実社会との歪がすこしずつ目立ち始めてきているようにも感じます。「そんなこといっても戸籍も住民票も行政の基礎なんだからなくなることなんてないだろう」なんて思っていませんか?
ちょっと考えてみてください。
なぜ、窓口で発行される証明者は「住民票の写し」というのでしょう。なぜ、住民票は「世帯ごと」に編成されるのでしょう。「本籍・筆頭」って何のためにあるのでしょう?
それらの答えのひとつが「紙台帳」です。紙台帳から転記や複写をした証明書であることから、「謄本・抄本」と呼ばれるようになったのでしょう。「世帯ごと」や「本籍・筆頭」で編成するのは、紙台帳の検索性を高めて事務を効率化するための工夫だったのだと想像できます。
特におもしろいのが印鑑登録事務です。昭和47(1972)年度の通知を紐解いてみてください。当時はまだ顔写真付き身分証明書の代名詞である「運転免許証」の交付件数が多くない時代です。そんな時代に考えられた公証事務が、平成を飛び越えて令和の時代まで続いているのです。
本書で全体像をつかんでおけば、書棚の分厚い書籍たちも読みやすくなることでしょう。
住民課ってスゴイんです! その4~住民課の仕事のミライ!!
紙台帳がシステム化された時よりも、時代の変化はスピードが上がっているように感じます。例えば、12桁のマイナンバーが全国民に付番されたことで、個人を特定するいわゆる4情報「住所・氏名・生年月日・性別」は、12桁の数字に置き換えることが理論上は可能になりました(実際には、番号法により番号事利用務の範囲等は制限されています)。附票が改正され、住民票との記載項目の違いが少なくなり、双方の存在意義があいまいになってきました。
戸籍にもマイナンバーが紐づきます。オンライン手続きでは、マイナンバーカードで公的個人認証が可能になりました。オンライン申請だけでなく、書かないワンストップ窓口などの窓口業務改革も自治体DXの大きな柱のひとつとなっています。
さあ果たして「住民票」、「印鑑証明」、さらに「戸籍制度」はこのままのカタチで生き残ることができるか。住民課の業務は制度の変遷とともに変わっていきます。『住民課のシゴト』も同じく、制度の変遷を知ることができる存在です。ver.3、ver.4が出版されるのが楽しみですね。
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■上村 州史(うえむら しゅうし)さんのプロフィール
松阪市 健康づくり課 新型コロナワクチン室主任
2000年4月松阪市役所入庁。税務課、介護保険課、障がい福祉課で窓口やケースワーカーを延べ15年間担当し、税と社会保障の実務経験を積む。
2016年4月に情報企画課に配属。マイナンバー情報連携や庁内のICT施策・ICTガバメント推進担当。2017年10月から環境生活部戸籍住民課。おくやみコーナー担当主査を経て、2021年5月より現職。
2022年9月に上村さんが参加する住民窓口研究会編著の『住民課のシゴト ver.2~住民課に配属となったら最初に読む本』(ぎょうせい)が出版。
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