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自治体が直面する高齢者身元保証問題の突破口

自治体が直面する高齢者身元保証問題の突破口

【自治体通信Online】
自著書評(株式会社日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト・沢村 香苗)

地域を見渡せば身寄りのない高齢者の「おひとりさま」世帯ばかり―。過疎地などで徐々に顕在化しつつある“ニッポンの少子高齢化社会”の現実は、ある深刻な地域課題を自治体に突き付けています。高齢者の施設入所時や入院時、転居、葬儀や相続時に必ず起こる「高齢者の身元保証」です。しかも「そもそも担当する部署がない」等、この問題にはほとんどの自治体が手つかずというのが実情。こうした高齢者の身元保証問題の解決の糸口がつかめる政策提言型事例解説書が出版されました。『多様な支援事例でつかむ 自治体が直面する高齢者身元保証問題の突破口―地域特性を踏まえたおひとりさま政策の提言―』(第一法規)です。この本の著者で実態に詳しい沢村 香苗さんが同書のポイントや出版の想いなどをお伝えします。

自治体の介入が不可避な新たな地域課題

少子化、高齢化という言葉は私たちにとってすっかり日常的なものになりました。自治体の方だと、さらに単身化が進んでいることもご存じの方が多いと思います。

私たちの社会が数十年前と比べてこのような変化を遂げつつあることは、言葉としては知っていても、個人が生活の中で実感する機会は意外と少ないのではないでしょうか。自治体の職員の方にとってみても、日々業務に手いっぱいで、マクロな変化と市民から寄せられる様々な相談や困りごとを関連付けて考える余裕はなかなかないかもしれません。

本書『多様な支援事例でつかむ 自治体が直面する高齢者身元保証問題の突破口―地域特性を踏まえたおひとりさま政策の提言―』(第一法規)を書いた大きな理由は、少子化・高齢化・単身化というマクロな変化と、私たちの老後に起こる多くの(一見ばらばらな)問題のつながりを可視化することでした。また、「老後の面倒」といった言葉に何が含まれるのかを、事例を通じて具体化することでした。

老後におこる諸問題を(若い世代が解決してくれるから)個人が直視せずに済む時代ではもはやなく、できるだけ早い段階で自ら対処しておけるような仕組みを作らなければ、若い人たちがひたすら高齢者の問題解決に奔走するだけの社会になってしまいます。

■本書の概要
本書の表紙カバー
【目次】
序章   身元保証問題とは
第1章
高齢者の「身元保証」問題とその背景
第2章
自治体の現状と課題
第3章
民間サービスの現状と課題
第4章 デジタル技術を活用した解決の方向性
第5章 提言:自治体ができること

ぜひ、皆さまの周りで起きていることと本書でご紹介している事例を照らし合わせ、背景にある課題を部署間で共有するきっかけにして頂いたり、解決策の設計に役立てて頂きたいと思います。

■本書で紹介している身元保証に関する自治体の特徴的な取組
  • 保証問題に早期に着目した三重県伊賀市社会福祉協議会
  • 身元保証から死後事務までトータルでサービス化した東京都足立区社会福祉協議会(権利擁護センターあだち)
  • 住まいと死後事務に着目した福岡県福岡市社会福祉協議会
  • 無縁仏の課題から終活情報登録伝達制度に発展させた神奈川県横須賀市
  • 既存の支援ノウハウやネットワークを活用する滋賀県野洲市
  • 知多半島5市5町が委託する特定非営利活動法人 知多地域権利擁護支援センター
  • ガイドラインを整備した新潟県魚沼市

たくさんの難問が“宙ぶらりん”に…

私は日本総合研究所という民間シンクタンクに勤務する研究員で、官公庁から受託や補助を受け、社会課題に関する実態調査を行っています。2017年に厚生労働省の補助事業で、初めて「高齢者の身元保証人問題」を調査(脚注)しました。
脚注:地域包括ケアシステムの構築に向けた公的介護保険外サービスの質の向上を図るための支援のあり方に関する調査研究事業(平成29年度 厚生労働省 老人保健健康増進等事業)。概要はhttps://www.jri.co.jp/page.jsp?id=32522を参照

身元保証人は身元引受人とも言われ、私たちが医療機関に入院したり、介護施設に入所するときの書類に、保証人や連絡先になってくれる人のことを指します。家族や親族にそれを頼める場合は、特に意識せず、「いつもの人(子どもや親族の中のしっかり者)の名前」を書いて終わることでしょう(私も親が手術を受けた際は一緒に説明を聞き、いくつかの書類に署名をした覚えがあります。署名の意味を深く意味を考える間もなく、言われるままに流れ作業をしたという感じです)。

自宅では何の問題もなく自立して生活していたとしても、入院や入所の際に身元保証人として名前を書いてくれる家族や親族がいない場合は、途端に「保証人のいない困った事例」となり、最悪の場合は入院や入所を断られる場合があるのです。

特に高齢者は、家族や親族も高齢で署名を頼めないことがあります。そのような人を対象に、契約に基づいて家族代わりをしてくれる民間サービスがあり、「身元保証事業」と呼ばれています。

その名前からは一見、身元保証人を代行するだけに思えるのですが、実際には身元保証人として名前を書くだけではなく、家族が行うような様々なサポートを、生前から死後にわたって提供しています。家族の規模が小さくなり、極端な場合は誰も頼る人がない場合が増えてきている昨今、「身元保証事業」はニーズに応じて出現した民間ビジネスですが、監督官庁はまだなく、どのくらいの数があるのか等の実態は十分に把握されていません。

先述した最初の調査を行った時は、身元保証事業者やその利用者がどういう人で、サービスはどのようなものなのかという事実をアンケートやヒアリングによって淡々と確認しました。ですが、調査を進めるほどに、本当の課題は、身元保証人がおらず入院・入所できない、といった限定的なものではないことに気づかされました。

「どこから手をつけるべきか」その手順も提案

私たちの日常生活は、実に様々な活動で成り立っています。自宅で生活するだけでも、自分の身体、住環境、金銭、家族やペットなどのケアを絶えず行い、問題が起これば解決することの繰り返しです。

高齢になると、どうしてもこれらの活動を全て行いきることができない時がきます。ごみを決まった日に捨てることができず、いつしかため込んでしまったり、ペットの管理ができずに多頭飼いになってしまった例はよく報道されていますし、自治体への相談が寄せられることも多いのではないでしょうか。その最終的な形が、亡くなった後に誰もご遺体を引き取る人がなく、無縁仏として自治体が火葬する場合です。

グラフは総務省「平成30年版 情報通信白書」(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd141110.html)より加工

有償で家族代わりの役割を果たす身元保証事業の内容はそのまま「今の私たちの老後に欠けているもの」を映し出しています。ただ、決して費用は安くはなく、実際の利用者は少数です。

血縁や地縁のある人が少しずつ高齢者の活動を肩代わりできていた時代は終わりました。身体のケアは介護保険を利用して、金銭管理は成年後見制度の利用や委託契約等によって他者に支援を求めることは確かに可能です。

ですが、これらは全て「誰に何をしてもらう必要があるか」を明確にし、制度の利用申請や契約締結を行ってはじめて可能になります。ごみを捨てられなくなった人が、このような段取りをすることは可能でしょうか? 実際は、頼る人のない高齢者は自分の問題を段階的に認識・解決することが難しく、大きな問題となってはじめて周りが気づくことになります。

私のこだわりとして、「絆」「つながり」といった言葉で片付けないということがあります。「老後の面倒」と同様に、絆やつながりも曖昧な言葉です。高齢期の課題を解決するためには、手助けをしたり、精神的に支えになるような「つながり」だけでなく、その人に関する情報を関係機関が共有し、必要な時に必要なだけの支援を提供できるような仕組みがまず必要です。情報については技術の発展が著しいので、人口が減っていく中ではまず人に頼るという発想から脱し、いかに情報技術を利用するか、から考えた方がよいでしょう。

自治体の規模や性質によって、何から手を付けるのかも異なりますので、本書ではその検討手順についても提案をしています。

日本総合研究所では「SOLO Lab」という研究会で、この問題にご関心のある自治体や社会福祉協議会、身元保証事業者や成年後見人業務に携わる専門家、医療機関の職員の方と検討を行っています。
参照:https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=101400=「おひとりさま高齢者」の自律的生活支援の研究会を設立~情報技術の活用による自治体・民間・住民の地域協業体制構築を目指す~

また、その成果の一部をレポート「個・孤の時代の高齢期」として発表しました(下画像参照)。もしSOLO Labの活動にご関心をお持ちになりましたら、お気軽にお問い合わせください(SOLO Labの連絡先は末尾のプロフィール欄をご覧ください)。

「個・孤の時代の高齢期」(https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/pdf/221027_SOLO_Whitepaper2022.pdf

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■沢村 香苗(さわむら かなえ)さんのプロフィール

株式会社日本総合研究所
創発戦略センター スペシャリスト
東京大学文学部卒業、東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程単位取得済み退学(保健学博士)。精神保健福祉士。研究機関を経て、2014年に株式会社日本総合研究所入社。ギャップシニア・コンソーシアム(2014~2018)活動において、主に高齢者の心理に注目したマーケティング手法開発に関与。CONENECTED SENIORSコンソーシアム活動(2019~2020)では、高齢者が情報機器を活用してデータを蓄積する実証実験を行った。
著書に『自治体・地域で出来る! シニアデジタル化が拓く豊かな社会』(共著、学陽書房)がある。2022年に7月に『多様な支援事例でつかむ 自治体が直面する高齢者身元保証問題の突破口―地域特性を踏まえたおひとりさま政策の提言―』(第一法規)を上梓。
〈沢村さんのメールアドレス〉sawamura.kanae@jri.co.jp
〈SOLO Labのメールアドレス〉100860-sololab@ml.jri.co.jp
〈日本総研 創発戦略センター〉https://www.jri.co.jp/company/business/incubation/

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