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自治体職員のためのナッジ入門

自治体職員のためのナッジ入門

【自治体通信Online】
自著書評(特定非営利活動法人 Policy Garage)

行動科学の知見により「人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けする政策手法」として高い注目を集めている「ナッジ(脚注)」。自治体においても、さまざまな場面でナッジ活用が始まっています。今回ご紹介する『自治体職員のためのナッジ入門~どうすれば望ましい行動を後押しできるか?』(公職研)は、横浜市の有志職員らが「自治体職員の現場目線」と「豊富な自治体事例」を通じてナッジの効果とその実装方法を紐解いた実践書。本書を著した特定非営利活動法人Policy Garageの長澤 美波さんが、同書のポイントや特徴などをお伝えします。地域と自治体職員の仕事のあり方を変えるナッジの最前線とは?
(脚注)ナッジ:nudge。直訳すると「そっと後押しする」という意味。

「ポリガレ」の初著作

特定非営利活動法人Policy Garage(ポリシーガレージ。以下、ポリガレ)の長澤と申します。

ポリガレは、「行動科学(ナッジなど)」「デザイン思考」「エビデンスに基づく政策立案(EBPM)」を組み合わせ、政策課題に取り組むNPO法人です。自治体職員、官公庁職員、民間事業者や大学の専門家、学生を中心に運営しています。

運営メンバーのほとんどがパラレルキャリアであり、それぞれが本業を持っています。私も本業は自治体職員です。

ポリガレは、横浜市の有志職員によるナッジ・ユニットである横浜市行動デザインチーム(YBiT)からスピンアウトする形で設立されました。本書『自治体職員のためのナッジ入門~どうすれば望ましい行動を後押しできるか?』(編、公職研)の著者の3人は、ポリガレとYBiTのメンバーを兼任しています。

■本書の概要
本書の表紙カバー
【目次】
第1章 ナッジとは?
第2章 ナッジの組み立て方
第3章 ナッジの活用事例
第4章 ナッジの価値と展開方法
第5章 ナッジの限界と他手法との組み合わせ
第6章 ナレッジシェアが拓く自治体政策の未来

ナッジで自治体が変わる!

本書のテーマであるナッジとは、「人々の選択肢を奪うことなく、環境を整えることで、本人や社会にとって望ましい行動をするようにそっと後押しする手法」です。提唱者の一人であるリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞したことによって世界的な注目を集めました。

近年、日本全国でナッジ活用が急速に広まっています。特に、新型コロナウイルス感染症対策で、マスク着用、ソーシャルディスタンスの維持、手指消毒等、住民の行動変容が求められる場面が増えたことにより、注目度が増しました。皆様も一度は新聞などでナッジに関する記事をご覧になったことがあるのではないでしょうか。

ナッジについて具体的にイメージしていただくために、平成30年にベストナッジ賞(日本版ナッジユニット、行動経済学会主催)を受賞し、全国にも広がっている、京都府宇治市のイエローチョーク作戦をご紹介します。

放置された犬のフン害対策として、犬のフンの周囲をチョークで囲み、発見した時刻やメッセージを記入することで、犬のフンの放置を減少させた事例(下画像)です(この事例は本書でも取り上げています)。

これは、人間の周囲の目を気にするという心理特性に着目したナッジです。チョークで書かれたメッセージでフンを持ち帰るという社会規範を明示するだけでなく、「地域の目がある」ということを飼い主に意識させることができ、一般的な看板等による意識啓発より有効な結果が出ました。

このように人間の心理や行動の特性をうまく利用することによって、行動変容を促すのがナッジです。

自治体職員の“現場目線”で深掘り

本書『自治体職員のためのナッジ入門』の特徴を紹介します。

ナッジについて紹介されている書籍や、ナッジを含む行動経済学の知見の政策活用に関する書籍の良書はすでに何冊も出版されています。それらの書籍と異なる点である本書の最大の特徴は、自治体職員による現場目線で書かれ、また、ナッジ導入にあたってのプロセスを細かく解説しているという点です。本書の「はじめに」には、ジャーニーマップ(下画像参照)を掲載しています。第1章から第6章まで読み進めるとナッジの習熟度が上がっていく構成を意識しました。

また、豊富な事例を掲載することができたことも特徴のひとつです。汎用性の高い9事例、ナッジ活用の3ステップに沿って解説した3事例、他手法との組合せの具体的な事例、ポリガレと自治体が連携して実施した2事例と、ナッジ活用がイメージしやすくなるような事例をまとめました。

■本書で紹介しているナッジ事例(抜粋)
  • 納税の口座振替勧奨(横浜市)
  • SMSを活用した特定健診受診勧奨(横浜市)
  • HPVワクチン定期接種の啓発(香川県)
  • 同意書の返送率向上(つくば市)
  • 商店街でのコロナ対策(尼崎市)
  • 市役所窓口の混雑防止(尼崎市)
  • 犬のフン害対策(宇治市)
  • 石けん手洗いの促進(北海道)
  • 電気消し忘れ防止(宇都宮大学)
  • 特定保健指導案内封筒の開封率向上(横浜市)
  • レジ袋の辞退率向上(北海道)
  • 衛生管理計画の研修会の参加率向上(岡山県)

また、ひとりの自治体職員がナッジに出会って、学んでいくプロセスを紹介し、仲間と連帯する重要性についても触れています。

ナッジは自治体職員必携の知識に

私自身のナッジとの出会いは、本書の著者のひとりである髙橋さんにYBiTに誘われたことでした。大学時代に心理学を学んだ経験と、10年に亘る自治体職員経験から、ナッジは今後ますます活用範囲が広がり、自治体職員必携の知識になると確信し、加入を決めました。YBiTに加入してから少しずつ勉強をして、実践、研修講師としての活動を行うことで、ナッジの知識を身に付けてきました。

元々の専門知識がなくても、ある程度独学で学ぶことが可能であることもナッジの魅力といえます。

私がYBiTに加入した当時(2019年夏ごろ)は、YBiTの初期メンバーもナッジに出会ったばかりで、国内のナッジ事例もまだ少なかったことから、海外のナッジ・ユニットが作成したフレームワークや文献を邦訳しながら、どうやったら行政の現場にナッジを取り入れられるか、どのようにナッジを説明すれば多くの人にその魅力や有用性を理解してもらえるかについて試行錯誤しているところでした。

私たちは、通算約130件の研修や講演、80件を超える事例支援を重ねることで、ナッジ活用を3ステップに単純化し、英国のナッジ・ユニットが作成したEAST®フレームワークをフル活用するという、今のスタイルにたどり着きました。本書はYBiT設立から2年半の成果を盛り込んだ1冊となっています。

自治体職員の仕事にワクワクを!

少子高齢化が進み財源にもマンパワーにも厳しい制約があるにもかかわらず、住民ニーズの多様化等により自治体職員をはじめとする公務員の業務量は増加傾向にあります。

どうすれば住民にとって必要な行政サービスをより適切に届けられるのか、どうすればより効果的な事業展開ができるのか、ということは自治体職員共通の課題です。

ポリガレは、EBPM、サービス・デザイン、行動デザイン(ナッジ)を組み合わせて使っていくことで、上記の課題が解決できると考えます。

そして、そのプロセスは、私たち自治体職員の業務の価値が再発見され、やりがいを感じることができるものです。

本書を読んでナッジの基礎を学び、実践し、ポリガレの活動に参加して全国の仲間とつながることで、もっとワクワクしながら、仕事をしてみませんか。

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■特定非営利活動法人 Policy Garageのプロフィール

上はPolicy Garageのロゴ、下は今回の自著書評を執筆した長澤さん

横浜市行動デザインチーム(YBiT)のメンバー中心に、2021年1月に設立されたネットワーク型のNPO法人。人を中心とする効果的な政策を創り、よりよい社会づくりに貢献するため、ナッジ等の行動科学、デザイン思考、データ・エビデンスに基づく政策(EBPM)の普及を行う。YBiTから通算して、月例研究会40回、研修・講演・講義130件、事例支援80件等を実施(2022年6月現在)。自治体・省庁職員、公共意識の高い民間や大学の専門家や学生などが参加。
2022年9月に本書『自治体職員のためのナッジ入門~どうすれば望ましい行動を後押しできるか?』(編、公職研)を出版。
大阪大学社会経済研究所、行動経済学会とウェブサイト「自治体ナッジシェア」を運営。同サイトでは実務者や研究者としてナッジを活用するメンバーが厳選した事例を分野ごとに掲載し、実践のノウハウを解説している。
〈NPO法人 Policy Garage〉https://policygarage.or.jp/
〈横浜市行動デザインチーム(YBiT)〉https://ybit.jp/
〈自治体ナッジシェア〉https://nudge-share.jp/

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