【自治体通信Online】
自著書評(株式会社といろ代表取締役/元武蔵野市職員・齋藤 綾治)
はじめに
このたび、育成をテーマとした本書『後輩・部下の育て方、関わり方~公務員の新・育成術~思考力・判断力を伸ばす7つの着眼点と実践』(公職研)を書かせていただきました。
育成力の有無は、先輩や上司としての力量にも、管理職のマネジメント力にも大きな影響をもたらします。
本書では「育成とは一体何を育てるものなのか」、また「育成の場面ではどのように関わることが大切なのか」について記載していますので、ぜひ多くの方々の実践に役立てていただきたいと願っています。
ここでは本の内容から、ポイントをいくつかお伝えします。
『公務員の新・育成術』の概要
《目次》第1章 人を育てるということ/第2章 何を育てるのか/第3章 育成のステップその1 相手を理解する/第4章 育成のステップその2 相手に関わり、力を引き出す/第5章 育成のステップその3 自分の考えを伝える/第6章 育成のための実践スキル
何を育てるのか〜着眼点を持ち、意図を持って思考力・判断力を育成する
育成という仕事は、日々の業務の中で常に身近に存在するものです。なかでも「異動によって新しい職員が職場にやってきた」「OJT担当として後輩に関わることになった」「係長、課長となってチームを束ねたりマネジメントしたりする立場になった」といった際には、特に意識するものでしょう。
多くの職員が日々行っている育成ですが、育成によって「何を育てるのか」が明確になっているかというと、意外とそうではない、というのが現状です。
「育成が大事なことはわかるけれども、一体育成とは何を育てることなのだろうか…」
自治体職員として働いていた頃、私自身がここに疑問を抱えながら過ごしていたわけですが、在職年数が増え、ポジションが上がり、そして現場最前線から企画・財政といった事業査定、予算査定をする職場まで様々な経験を重ねてきた中で、ひとつの答えを見出すことができました。
自治体職員は仕事を進める上で様々な立場の声を聞き、意見をまとめ、施策に反映させていくわけですが、その過程において何度も「どう考えるのか」「どう判断するのか」を問われる場面が出てきます。
住民へ説明する場面、他課や事業者などと連携する場面、庁内での予算査定の場面、議会での答弁の場面など、例を挙げればキリがないほどです。
そして、先輩となり、上司となるにつれて、問われる機会はますます増えていきます。
これらの場面では、個々の職員の思考力・判断力が問われます。周囲の声を聞いてまとめているだけでは、残念ながらよい仕事、よい地域づくりはできません。確かな軸を持って答えることができるか、説明することができるか、そしてより良い施策へとつなげていくことができるかが、仕事の成否を大きく左右するのです。
この思考力・判断力の軸を育てることこそが、育成にとって最も大事なことなのです。
本書では、日々の業務の中で思考力・判断力の軸を育てていくためのポイントを、7つの着眼点としてまとめています。
(1) 主語を使い分ける
「私」「課(部門)」「自治体」、 3つの主語で捉える
(2) 時間軸を意識する
経緯を把握し未来へつなぐ
(3) 優先順位を決める
制約のなかで何を優先すべきか判断する
(4) 全体最適で考える
「自治体」を主語に、視野を広げて考える
(5) その先を考える
継続価値があるものを組み立てる
(6) バトンリレーする
前任から引き継ぎ、後任へ託す
(7) 言葉を磨く
理解と合意を生み出すために
7つの着眼点を使って、ぜひ後輩(部下)と関わりを持つようにしてください。
特に、(1)に挙げた、「私」「課(部門)」「自治体」の3つの主語を意識しながら後輩(部下)と関わることは、業務を俯瞰して捉える力の育成に大きく役立ちます。
今の時代、容易に正解など見つけられない課題も多くあります。難しいからこそ、そこに向き合うことのできる思考力、判断力を育てていってほしいと願っています。
どのように関わるのか〜伝えるよりも聴くこと。相手を理解することが育成の第一歩
「何を育てるのか」とともに、育成にとって大切なものが「関わり方」になります。
育成を意識したとたん、多くの人は、「自分が伝えること」に意識が向いてしまいます。しかし、伝えることで頭の中をいっぱいにしてしまっては、肝心な目の前の相手が見えなくなってしまうのです。
育成者がひとりで空回りをしないためにも、「伝えるよりも(相手を)理解することが大事」という意識は持つようにしてください。理解ができれば必要な育成ポイントが見えてきます。
わかったつもりで一方的に伝え、空回りするのと、ポイントを押さえて適切に関わるのとでは、育成の効果が大きく変わってしまう。ここに大きな違いがあることは、容易に想像がつくのではないでしょうか。
そして、理解するためには聴く力が必要です。育成者は聴く力を身につけていきましょう。聴いて、相手を理解することが、育成力を上げる第一歩です。
本書では、コーチングのスキルから、ペーシング(話す速度・声の大きさや高低など、非言語的な伝達によって信頼関係を生みだすコミュニケーションスキル)やオープンクエスチョン(回答者の回答範囲に制限を持たせず、自由に答えてもらうために行う質問)、承認、フィードバックなどについて紹介しているほか、「仕事」を聞くのではなく「人」を聴く、「意図」「意味」「想い」を聴いて後輩(部下)の強みを発見する、といった聴く力をつけるための実践スキルを紹介しています。
聴く力は強力です。その効果をぜひ実感してほしいと思います。
育成とは抱えるものではなく「共に育つ関わり」のこと
最後にお伝えすること、それは「育成とは、共に育つ関わり」だということです。
自治体の仕事は範囲も広く、複雑で、容易に答えが見出せないものばかりです。育成者があらかじめ答えを用意しよう、答えを教えようと力んでも、すぐに限界がきてしまうことでしょう。
知っていることを教えるのではなく、育成者にもわからないことを題材にしながら、一緒になって思考力・判断力の精度を上げていく。この関わりこそが育成なのです。
思考力・判断力を高めていくには、少し時間がかかることでしょう。それでも7つの着眼点を活かして、意図を持って後輩(部下)へ関わっていく。これを続けていくことで、必ず後輩(部下)の力がついてきます。力のついた後輩(部下)は、やがて異動によって別々の部署となった後でも、あなたの良き相談者となり、協力者となってくれるのです。
育成という関わりは、あなたの周りにかけがえのない仲間を増やしてくれます。
本書をきっかけに、いま一度育成と正面から向き合ってみてはいかがでしょうか。
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齋藤 綾治(さいとう りょうじ)さんのプロフィール
株式会社といろ代表取締役
元武蔵野市職員
1971年横浜生まれ。大学卒業後、東京都武蔵野市に就職。総合政策部門での全体プランニング・総合調整や、スポーツ部門でのイベント企画・実施、福祉部門での困窮世帯ケースワークをはじめとして、コミュニティ、文化、教育、保育、地域福祉など、自治体業務を通じて多様な人の生と生活に関わり、俯瞰と対話によるまちづくりに従事する。
「武蔵野市第五期長期計画(平成24年4 月)」、「武蔵野市学校教育計画(平成22年3 月)」、「武蔵野市スポーツ振興計画一部改定(平成28年4 月)」の策定をはじめ、数多くの計画策定業務にも従事。
仕事を続けながら、自らコーチングを学び、2014年に(一財)生涯学習開発財団認定コーチ取得、2017年に国際コーチング連盟認定 Associate Certified Coach(ACC)取得。また、2015年にはGallup認定ストレングスコーチを取得し、人の強みに着目したマネジメントやコーチングの実践を重ねる。
2012年より生活福祉課長、地域支援課長、生涯学習スポーツ課長、オリンピック・パラリンピック担当課長、市民活動推進課長を経て、2020年4 月、武蔵野市を離れ独立。コーチング、ストレングスコーチングをベースとして1 人ひとりの能力開発を支援している。
著書に『自分らしさを見つけて伸ばす 公務員の「強み」の活かし方』(学陽書房)がある。
2022年5月に『後輩・部下の育て方、関わり方~公務員の新・育成術~思考力・判断力を伸ばす7つの着眼点と実践』(公職研)を出版。
<オフィシャルサイト>https://10potential.co.jp/
<Twitter>https://twitter.com/ryoji_coach/
<note>https://note.com/ryoji_saito/
<オフィシャルメルマガ>「強み探求の旅に出よう」
<連絡先>https://10potential.co.jp/contact