【自治体通信Online】
自著書評(群馬県 伊勢崎市 都市計画部 都市開発課長・橋本 隆)
ありそうでなかった、自治体職員に寄り添った都市計画の実務書が出版されました。伊勢崎市 都市計画部 都市開発課長の橋本 隆さんがこのほど上梓した
『自治体の都市計画担当になったら読む本~実務に役立つ知識とノウハウを1冊に集約!』(学陽書房)です。「自分が初めて都市計画担当になり、右も左もわからなかった頃、『実務に徹底的にこだわった本はないか』と探し回ったものです」と述懐する橋本さん。「あったらいいな」をカタチにした、渾身の本書の特徴、出版の想いなどを橋本さんがお伝えします。
本書出版の経緯
はじめまして。伊勢崎市 都市開発課長の橋本と申します。
私は入職後、都市計画部門、建設部門、企画部門のほか群馬県 県土整備部 都市計画課への派遣等、さまざまな部署を経験させていただきました。
すでに課長になっていた50歳過ぎの私は、いつか自分の実務経験のノウハウを見える形で後輩に伝えることができればと思うようになっていました。
私が、会社員から公務員に転職する機会をいただいた伊勢崎市やこれまでお世話になった全国の公務員の皆さんのために、何かお役に立てるような恩返しができないかと考えることが増えてきていたのです。
そのような気持ちが、書籍の執筆を依頼されて迷っていた私の背中を強く押してくれました。
これが『自治体の都市計画担当になったら読む本~実務に役立つ知識とノウハウを1冊に集約!』(学陽書房)を書くことになったきっかけです。
自治体職員に寄り添った都市計画の実務書
都市計画課長であった私は、都市計画担当になったばかりで不安を抱いている職員から、よくこんな質問を受けていました。
「都市計画を学んだことのない私が理解できるようになりますか?」
「私が住んだことのない都市の都市計画ができるのでしょうか?」
「都市計画の実務について何から学んだらよいのでしょうか?」
これらの質問に対して私は、「最初はわからなくて当たり前です。全く問題ありません」と答えてきました。
なぜなら、私も住んだことのない群馬県伊勢崎市へ20年前に引越し、自治体の都市計画担当になったとき、これら全ての疑問を同時に抱いていたからです。
この20年間を振り返ると、私は多くの都市計画の書籍を読んできましたが、自治体職員が自治体職員向けに実務ノウハウを解説した書籍に巡り合うことができませんでした。そんな残念な気持ちもある中で、偶然にも書籍執筆の依頼があり、執筆したのが本書です。この書籍の執筆では、「私が長年探し続けてきた書籍」を書くという不思議な感覚もありました。
そんな私が目指したのは、法律書でも学術書でもなく「実務書」。徹底的にこだわったのは、自治体職員に寄り添った都市計画の実務書にすることでした。私が最も欲しかった、そして長年探し続けてきた書籍を、私自身が出版することになったのです。
この書籍を完成させるまで、強く意識していたのは「みんなはじめは素人、その素人の視点に立つこと」「私が最初に疑問に感じていたことは、特に丁寧に解説すること」「図表と写真を多用することで、視覚的にも理解していただくこと」でした。
全国の自治体職員の皆様からは
「25年前にこの書籍が欲しかった」
「どうして今までなかったのか」
「まずは最初にこれを読むべきといえる書籍がなかった。本当に嬉しい」
「個人だけでなく職場でも購入しています」
「分かりやすい本だったので同僚にもプレゼントしておきました」
などの声が寄せられています。
私以外の都市計画担当も、ずっと長い間、私と同じように「自治体職員に寄り添った都市計画の実務書が欲しかった」という気持ちだったのでしょう。
出版から4ヵ月後には、自治体職員が自治体職員向けに書いた初の都市計画実務書を出版した功績が認められたこともあって「地方公務員が本当にすごい! と思う地方公務員アワード2022」を受賞することができました。
本書の特徴
本書の特徴として、次の3つを挙げることができます。
ひとつ目は目次で、10頁もあります。都市計画の専門用語が何もわからない新任の都市計画担当でも、すぐに読みたい頁を見つけられるよう、目次には章、節に加えて項まで掲載することにしました。これにより、目次を見るだけで読みたい頁をすぐに見つけられますし、付箋だらけにならずに済みます。
ふたつ目は、図表と写真が合計60種類ほど掲載されています。私も、図表や写真があると理解しやすいタイプなので、たくさんの図表と写真を用いて解説することにしました。
3つ目は、情報満載の256頁になっています。専門分野だけでなく、ぜひ横断的な実務ノウハウも知っていただきたかったため、都市計画担当の心得や仕事術を充実させました。
本書は、全8章で構成されています。
第1章は、初めて都市計画を担当することになった自治体職員向けに、専門用語がわからなくても理解することができる図表や説明を書くことにしました。
第2章と第8章は、本書の最も大きな特徴といえます。都市計画に関係するさまざまな部署でも通用する実務的な心得や仕事術をたくさん盛り込みました。
第3章から第7章までは、専門分野の内容になりますが、こちらはできるだけ図表や写真を掲載することで、頭の中でイメージしていただけるように心掛けました。
■本書の目次
第1章 都市計画担当の仕事へようこそ都市計画担当の仕事って?/都市計画担当の1年/都市計画担当必読の書/都市計画担当に欠かせない3つの力
第2章 都市計画担当の心得
「1枚の地図」にひたすら書き込む/未来を見据えた「長期的な視点」で対応する/他部署に配慮した「全庁的な視点」で行動する/重要な文章は寝かせて「熟成」させる/「相手の立場」になりきって交渉に臨む/「木を見て森も見て」工事を監理する/「クリーンハンズ」の原則で職場を守る/「自分自身の命」も大切に災害対応にあたる
第3章 都市計画の基本
「都市計画法」の目的って何だろう?/都市計画の「基本理念」と「制度」/「都市計画区域」と行政区域の違いを理解する/「都市計画区域マスタープラン」を定める/「都市計画マスタープラン」を定める/「立地適正化計画」でコンパクトなまちづくりを行う/立地適正化計画の「届出事務」を周知する/「都市計画を決定」するのは都道府県? 市町村?/「各種の調査結果」を踏まえて都市計画を進める
第4章 土地利用のポイント
「土地利用」って何だろう?/「区域区分」で市街化区域と市街化調整区域に分ける/「開発許可」により良好で適正な都市を形成する/開発許可を「2つの基準」で審査する/開発許可の「事務の流れ」を意識する/「地域地区」を使いこなす/「用途地域」で土地利用を適正に配分する/その他の地域地区は「制度概要」を押さえる/「地区計画」で地区独自のまちづくりを実現する/「地区整備計画」への適合を審査する
第5章 都市施設のポイント
「都市施設」って何だろう?/「交通施設」で都市の骨格をつくる/「公園・緑地」で自然を感じる憩いの場をつくる/「下水道」で快適かつ衛生的な環境をつくる/「その他の都市施設」が私たちの生活を支える
第6章 市街地開発事業のポイント
「市街地開発事業」って何だろう?/「土地区画整理事業」で宅地の利用を増進する/「工業団地造成事業」で地域発展の核をつくる/「市街地再開発事業」で土地を高度利用する/「複数の事業」を組み合わせて市街地を整備する
第7章 景観形成のポイント
「景観」って何だろう?/「景観計画」で景観形成の方針や制限を定める/「景観条例」で委任規定と自主規定を定める/「景観重点区域」で行為の制限を上乗せする/「屋外広告物」って何だろう?/「広域連携」で景観形成に取り組む/「さまざまな手法」で景観形成に取り組む
第8章 都市計画担当の仕事術
「自己啓発の機会」をできるだけ活用する/「他者に頼れるか」どうかが試されている/「チームワーク」を掛け声で終わらせない/まち歩きでは「唯一」や「一番」を伝える/「ワークショップ」で地元の声を肌で感じとる/お仕事だけでなく「お志事」で経験をシェアする/都市計画の先達「石川栄耀」の名言に学ぶ
読者の皆さんへのメッセージ
私は、不安を抱いている新規採用職員や新任の都市計画担当の「実務の味方」になることができればと願いながら本書を執筆してきました。各章を順番に読み進めていただいてもよいですし、気になる章から読み始めても全く問題ありません。お忙しい人やどうしても短時間で読みたい人には、重要な部分をゴシック体にしましたので、その部分を拾い読みしていただいてもよいでしょう。
また、本書の内容に沿って、都市計画実務の初心者がつまずきやすい内容をやさしく解説する動画が視聴できるようになりました。公務員の皆さん限定にはなりますが、オンライン市役所に参加していただきますと「30分de都市計画基礎講座」という動画が配信されていますので、よろしければ視聴していただけると嬉しいです。
私は20年前、都市計画の実務経験がない30歳過ぎの中途採用新入職員でした。初めて住むことになった伊勢崎市では土地勘がなく、都市計画のことも一切学んだことがありませんでした。私も都市計画担当の実務ノウハウを一日も早く習得したいと毎日が苦戦の連続でした。私こそ、この『自治体の都市計画担当になったら読む本』を最も読みたかったひとりだったのです。
そんな私による本書が、全国の都市計画担当の不安を少しでも解消し、安心して都市計画実務のスタートを切っていただくことができれば望外の喜びです。
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■ 橋本 隆(はしもと たかし)さんのプロフィール
群馬県 伊勢崎市 都市計画部 都市開発課長
1972年生まれ。9年間勤務した建設会社を退職後、2003年伊勢崎市入庁。都市計画課、群馬県県土整備部都市計画課(派遣)、企画調整課、土木課、区画整理課長、都市計画課長を経て、現職。総合計画や都市計画マスタープランの策定のほか、県内市町村初の景観行政団体や世界遺産登録の実務を経験。
博士(工学)、技術士(建設部門)、一級土木施工管理技士。「地方公務員アワード2022」を受賞。
職員研修講師や外部講演会講師を数多く務める一方で、職員自主研究グループ「人財育成研究会」代表、全国5,000人以上の公務員が参加するオンライン市役所の「都市計画のゲンバ」自主ゼミ長を務める。
20年間ほど参加している市民団体「いせさき街並み研究会」の活動で、まちづくり功労者国土交通大臣表彰(2016年)等を受賞。
主な著書は、『自治体の都市計画担当になったら読む本~実務に役立つ知識とノウハウを1冊に集約!』(学陽書房)、『歩いて暮らせるコンパクトなまちづくり』(共著、古今書院)、『群馬から発信する交通・まちづくり』(共著、上毛新聞社)。