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第2期地方創生では「人口縮小との共生」が不可避

    【自治体通信Online 寄稿連載】あなたの街の地方創生は順調ですか?③(関東学院大学准教授・牧瀬 稔)

    来年度から開始される「第2期 地方創生」を前に、現在、各自治体で新計画の策定作業が進められています。そうしたなか、本連載執筆者で多くの自治体のアドバイザー等を務めている関東学院大学・牧瀬稔准教授(法学部地域創生学科)は「第2期は地方創生の大きな曲がり角になるのでは」と予測します。連載第3回は“令和の地方創生”を展望するうえで欠かせない行政上の視点を指摘してもらいました。

    【目次】
    ■ ターニングポイントが近い
    ■ “看板”は掲げ続けられるが
    ■ 人口減少は悪なのか
    ■ 「前提と目標」に大転換

    ターニングポイントが近い

    筆者は“現在”の地方創生は、数年後には終了していると考えている。

    最大の不確定要素は安倍晋三首相の在任期間である。安倍氏の自民党総裁としての任期は2021年9月末日まである。安倍首相は「自民党の規約で4選は禁じられている。ルールに従うのは当然だ」と言及している(3月14日の参院予算委員会)。政治は「一寸先は闇」と言われ、何が起こるか分からないが、首相が代わる可能性が強い。きっと首相になりたい議員は多くいるため、4選の可能性は低いだろうと筆者も考えている。

    過去の事例を確認すると、首相が代わると大きな政策転換がなされた事実がある。この観点から考えると、“現在”進められている地方創生の方向性も変わる可能性がある。

    先ほどから“現在”という言葉を入れている。現在の地方創生は、人口の維持や人口の減少速度の逓減を目指している。しかし、首相の交代とともに、筆者は「人口減少を前提とした地方創生」に転換すると考えている。

    つまり「地方創生」という言葉は残るが、その内容は大きく変わると考えている。あるいは、国は自治体に対し「人口維持に取り組む地方創生と、人口減少を前提とした地方創生など、自由に選択してよい」というスタンスに変わるかもしれない。

    “看板”は掲げ続けられるが

    現在、多くの自治体が地方版総合戦略を改訂し、5年間も続く行政計画を策定しつつある。そうすると、首相が変わった時に、人口の維持や人口の減少速度の逓減を目標とした地方創生の梯子が外される可能性があり、困るのは自治体である。そこで同戦略を数年間延伸し、様子を見ていくのが妥当だろう。

    地方創生を考える時は、政治状況も考えながら政策展開を進めていかないと、自治体はあとあと後悔することになるだろう。

    最近の国の関心は、地方創生ではなく、SDGsやSociety5.0、スマートシティなどに関心が行っているように感じる。実際、様々な報道をみても、地方創生はかなり少なくなってきたように感じる。こういう政治の潮流を見極めながら、政策を進めなくてはいけないだろう。

    しかしながら、確かに地方創生はトーンダウンしているが、看板を下ろすことはしないと考えている。地方創生という言葉は残りつつも、内容の異なる地方創生になっていく――というのが筆者の持論である。

    人口減少は悪なのか

    前述した「人口減少を前提とした地方創生」とはどのようなものか、イメージしてみたい。

    まず、人口減少は悪いことばかりではなく、もたらされるメリットもある。よく指摘されることは、二酸化炭素排出が削減され、地球環境にやさしい生活様式の実現がある。

    土地の取得可能率も上昇していく利点を強調する学識者もいる。人口減少により、土地を取得しようとする人が減るため、どの土地であろうとかまわないのならば、多くの国民が土地を取得し、マイホームを持つことが可能となる。同時に、1人当たりの利用可能資源量が増えることを指摘する場合もある。人口減少にもメリットはある。

    現在は「人口減少は悪」という印象がある。「本当に人口減少は悪なのか」を問い直す必要があるだろう。

    問い直した結果、「人口減少は悪」となっても、現実的に人口増加を進めていくのは至難の業である。多くの自治体が人口減少と共生していかなくてはいけない。

    人口減少に伴い、自治体の方向性は、拡大基調から縮小基調へと変化しなくてはいけない。これから自治体は縮小時代を歩んでいくことになる。縮小時代とは「人口減少に伴い、ヒト・モノ・カネなどといった行政資源が縮小していく現象」である。

    経済学には「縮小均衡」という概念がある。縮小均衡とは「経済の安定を維持しながら、経済規模を縮小すること」である。

    人口減少時代の自治体の理想像は、縮小均衡である。自治体運営の安定を維持しながら、自治体規模を縮小していくことである。なお、縮小均衡と逆の考えは拡大均衡である。拡大均衡は「経済の規模を拡張しつつ、同時に経済のバランスを図ること」という意味である。

    「前提と目標」に大転換

    地方創生という国の掛け声のもと、ほぼすべての自治体が「地方人口ビジョン」と「地方版総合戦略」を策定した。「地方人口ビジョン」は2060年の目標人口を明記し、「地方版総合戦略」は自治体が設定する目標人口を達成するための事業を書き込んだ行政計画である。

    現在の地方創生は、人口の維持や人口の減少速度を遅くすることが目標であるため、同戦略を策定した自治体は国と同じ思考で動いていると言える。
    (参照記事:意外と曖昧な「地方創生」の定義とは)

    地方自治法で基本構想の策定義務がなくなったが、結局は、地方創生が実質の基本構想となっている状況がある。そして、国は地方分権一括法以前と同じような思考で自治体をコントロールしようとしている(ように感じる)。

    本来、地方創生の時代は、自治体には「地方(地域)自決権」が保障されるべきである。地方自決権とは、「地方(地域)のことは地方(地域)が決める」という原則である。すなわち団体自治をより意識しなくてはいけない。そして団体自治の前提として住民自治が存在している。
    (参照記事:「公民連携」が規模に左右されない強い自治体をつくる)

    ところが、地方創生は地域自決権が蔑ろにされている感じがある。これから「地方版総合戦略」を改訂する自治体が多いと思う。改訂に際して、人口減少を前提とした地方創生もあってもよいだろう。

    次回は、筆者のゼミナールの所属学生たちによる民間企業の地方創生の取組みについてのインタビューです。

    (「地方創生の効果を上げる“4つのノウハウ”」に続く)

    本連載「あなたの街の地方創生は順調ですか?」バックナンバー

    第1回 意外と曖昧な「地方創生」の定義とは
    第2回 「公民連携」が規模に左右されない強い自治体をつくる

    牧瀬 稔(まきせ みのる)さんのプロフィール

    法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。民間シンクタンク、横須賀市都市政策研究所(横須賀市役所)、公益財団法人 日本都市センター研究室(総務省外郭団体)、一般財団法人 地域開発研究所(国土交通省外郭団体)を経て、2017年4月より関東学院大学法学部地域創生学科准教授。現在、社会情報大学院大学特任教授、東京大学高齢社会研究機構客員研究員、沖縄大学地域研究所特別研究員等を兼ねる。
    北上市、中野市、日光市、戸田市、春日部市、東大和市、新宿区、東大阪市、西条市などの政策アドバイザー、厚木市自治基本条例推進委員会委員(会長)、相模原市緑区区民会議委員(会長)、厚生労働省「地域包括マッチング事業」委員会委員、スポーツ庁参事官付技術審査委員会技術審査専門員などを歴任。
    「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」(東京法令出版)、「共感される政策をデザインする」(同)、「地域創生を成功させた20の方法」(秀和システム)など、自治体関連の著書多数。
    牧瀬稔研究室  https://makise.biz/

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