《東京都 副知事×三重県 CDO PART2》デジタルツインで全体を俯瞰した政策立案を

【自治体通信Online Interview】
なぜ私たちは「デジタル社会」の実現を目指すのか #2(聞き手・三重県 田中CDO)
「デジタルツイン実現プロジェクト」
三重県CDO 田中(以下、T)
新しいテクノロジーの領域においても、東京都では「デジタルツイン実現プロジェクト」(下図参照)を立ち上げるなど、全国をリードしています。
「デジタルツイン実現プロジェクト」では、どんな理想状態を描いて、このような取り組みをスタートすることに至ったのかについて教えてください。
東京都副知事 宮坂(以下、M)
2021年7月に、静岡県熱海市伊豆山で大規模な土石流災害が発生しました。静岡県では災害対策としてデジタルツインに取り組んできていて、それが災害時にも役に立ったと聞きます。都議会からも「デジタルツインに取り組むべきだ」という声が上がっています。
東京もいつ地震や水害があるかわからないですし、壊れるリスクがある街ですから、常に現在のデータをスナップショットのように取得しておいて、何かが起きた時に再度スキャンして差分を分析すれば、被害状況の把握が素早くできるようになります。
これが理想状態だと言えるのかどうかわかりませんが、災害への備え、俊敏な対応の実現に向けて、デジタルツインに取り組むべきだと考えています。
T
災害への備えに、デジタルを活用する。デジタルによって、これまでよりも都民の皆さんの命が助かるようになる、資産や財産が護られるようになる、強靭で持続可能な社会の創出を目指すというのは、十分な理想状態であると思います。
「デジタルツイン実現プロジェクト」では、都市部だけではなく、多摩・島しょ地域も含めて都内全域を対象にデジタルツインを実現していくのでしょうか?
M
デジタルツインの実現に向けては、令和4年度から新たに点群データ(空中写真やレーザースキャナで測量したあらゆる地点の地形を3次元で把握したデータ)取得事業をスタートさせていまして、今後、多摩・島しょ地域も含めた都内全域の地形情報を点群データとしてスキャンしていくこととしています。
庁内に起きた変化
T
点群データの取得は大きなコストがかかることが課題ではありますが、まずはデータが無ければ、何もシミュレーションできないですもんね。
「デジタルツイン実現プロジェクト」を推進されている中で、庁内の変化は起きていますか?
M
「デジタルツイン実現プロジェクト」を推進していて起きている現象としては、各局のデータを集積したビューアのような存在になりつつあるということがあります。
水道の配管や地下の埋没物などの図面データや、川や海辺の防災系カメラによる画像データ・動画データなど、各局が独自に膨大なデータを持っていて、これまでは、それらのデータを確認しようとすると、それぞれの局のシステムにアクセスするしかない状態でした。
それが、「デジタルツイン実現プロジェクト」によって各局のデータを一元化して可視化できるプラットフォームとしてのビューアが出来たことで、このビューアにデータをプロット(描き込む)しようという流れが庁内で起きています。狙っていたわけではないのですが、結果として、SoI(System of Insight)のように、庁内の誰もが各局のデータが組み合わさった状態で全体を俯瞰して把握・分析できるようになりつつあります。
T
デジタルツインによって、他の局のデータを含め全体を俯瞰して把握・分析できるようになると、政策のあり方も変わってきそうですよね。
M
はい。データを一元化し、重ね合わせて可視化することは、やっぱり重要なことだと思います。
(#3「住民の幸福に貢献する「デジタル社会」の実現」に続く)
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東京都副知事 宮坂 学(みやさか まなぶ)さんのプロフィール
デジタルの力で東京のポテンシャルを引き出し、都民が質の高い生活を送ることができる東京版Society 5.0「スマート東京」の実現に向け、デジタルに関連する様々な施策を推進。
IT大手・ヤフー株式会社に20年以上勤務し、会長職を務めるなど、企業経営者として経験を積み、ヤフー退社後、2019年7月に東京都参与に就任。世界最高のモバイルインターネット網の建設を目標とする「TOKYO Data Highway基本戦略」を打ち出した。同年9月、民間から12年ぶりとなる副知事に起用されて以降は、さらに精力的にプロジェクトの推進に取り組んでいる。
また、世界・アジアの金融ハブとしての「国際金融都市・東京」の実現に関する施策を担当し、世界中の金融系企業・人材の誘致、資産運用業やFintech産業の育成、グリーンファイナンスの活性化に向けた戦略の推進などに取り組んでいる。
三重県CDO 田中 淳一 (たなか じゅんいち)さんのプロフィール
18歳で起業、1999年にAIベンチャーとして法人化し、ITコンサルティング事業と広告事業の企業グループを約10年経営した。また、(株)ユーグレナ 取締役、(株)コークッキング 取締役など、社会課題解決を目指すスタートアップの経営にも携わったほか、地方創生に関連して、様々な地方自治体と連携し、ジェンダー平等・移住定住・人口減少対策などにも取り組んだ。
2021年4月より、三重県 最高デジタル責任者(CDO:Chief Digital Officer) に就任。
デジタル社会形成の方向性として「誰もが住みたい場所に住み続けられる三重県」を掲げ、ジェンダー平等を含んだ多様性や包摂に基づく「寛容な社会」を前提条件として、県民の皆さまの心豊かな暮らしと地域の持続可能性を目指し、みんなの想いを実現する「あったかいDX」を推進している。
内閣府 地域活性化伝道師、総務省 地域情報化アドバイザー、総務省 地域力創造アドバイザー、デジタル庁 シェアリングエコノミー伝道師、経済産業省 IoT/AI時代に対応した地域課題解決のための検討会議 構成員、兵庫県豊岡市 ジェンダーギャップ解消戦略会議 オブザーバーなども務める。
三重県が進めるDX政策「あったかいDX」の一環で、グループインタビューやワークショップ等、未来像の取りまとめのプロセスや同県内で取り組まれているDX事例等を収録した動画「はじまる はじめる みえのDX ~みんなでつくるデジタル社会~」を制作、公開している(下の埋め込みリンクより視聴可)。