【自治体通信Online 寄稿記事】
自治体DX完全ガイド~season2~#1
(電子自治体エバンジェリスト/合同会社 KUコンサルティング 代表社員/豊島区 元CISO・髙橋 邦夫)
職員満足度が高い部分から自治体DXを始めよう―。そのワケは? 電子自治体エバンジェリストで多数の自治体のアドバイザーを務める電子自治体エバンジェリストの髙橋 邦夫さん(KUコンサルティング代表社員/豊島区 元CISO)に、今さら聞けない基礎、見落とされがちなポイント、他自治体事例など自治体DXの全体像を解説してもらいます。
「DXに取り組む時間がない」を解決するには?
「自治体DXの意義は理解できたが、それに取り組む時間がない」―。こうした悩みを抱えている自治体職員は多いと思います。
その解決策は、雑務を減らすという職員満足度の高い取り組みを進めることだと考えます。どういうことか、これから順を追って説明しましょう。
雑務を減らす!
下のスライドをご覧ください。
私は、長年総務省のアドバイザーとして 多くの自治体を支援してきたなかで、「自治体職員の仕事は大きく分類するとスライドの①から④にわけられる」という考えに至りました。
皆さんが 本来業務と言われている前任者から引き継いだ条例等に則った、本来、自分が行う業務は③です。一方で、③の本来業務に取り組むためには、①の企画戦略や、②の人間関係の調整が必要となります。
しかし、企画戦略や調整に割く時間すら限られているというのが実態。そのため、本来業務の見直しにかける十分な時間を持てないことが多くの自治体職員の悩みや課題になっています。
何か解決策はないのか―。私は雑務と呼ばれている④の一般管理業務にかける時間を減らし、①や②に回すことによって、③の本来業務の業務改善に繋げたらいいのではないかと考えます。
ある自治体で調査をしてもらったところ、④にかかっている時間は、1日の働く時間のなかで20%~25%、つまり1日2、3時間が雑務に費やされていることがわかりました。みなさんの自治体においても、おおよそ似たような傾向にあるのではないでしょうか。
④の雑務を0にすることは無理かもしれません。しかし、そうであっても、半分に減らせば1週間に5~8時間が新たに生み出され、改善に取り組む余裕が生まれます。
デジタルツールを使わなくても時間は生み出せる
DXを進めることができれば雑務を劇的に減らすことも可能なのですが、そもそも「DXに取り組む余裕すらない」なかで、どのようにして雑務を減らしていくのか―。
私は「発想の転換」でそれは可能だと考えています。雑務を削減するためには、デジタルツールを使うことが必須ではないからです。
次のスライドをご覧ください。私が在籍しておりました当時の豊島区役所の会議の新ルールです。
左の『会議の新ルール』に書かれている1から5の内容は、 決してデジタルを活用したことではありません。会議時間を1時間以内と決めるだけでも会議に係る時間を大きく減らし、会議に集中が出来るとともに、終了後の時間を他の業務に費やすことができるようになります。
また、会議録の作成は規則などの定めがなければ、録音データに要点とメモを加えるだけで、後日の確認も行えて、作成に費やす時間はかなり削減できます。
多くの自治体では、ここにAI会議録システムのようなツールを入れるのかもしれませんが、豊島区のように録音データを保存して、そもそも会議録を作らない。このようにするだけでも、時間を生み出すことができます。
今回のまとめ
職員に余裕がなければDXには取り組めません。そのため、DXを進めるには、雑務という言葉は悪いかもしれませんけども、ここを減らす取り組みを行うことがポイントです。
雑務はそもそも職員がムダと感じているものです。ここが減ることで職員に余力が生まれ、ゆとりができます。それを本来業務の改善につなげることで、結果的に市民サービス向上につながる。これがDXの第1歩になるでしょう。
(「《自治体DX推進計画における“6つの重点”~1》情報システム標準化のポイント」に続く)
★ 本連載の記事一覧
★動画で自治体DXのポイントをお伝えするseason1はこちら
自治体通信への取材のご依頼はこちら
■ 髙橋 邦夫(たかはし くにお)さんのプロフィール
電子自治体エバンジェリスト
合同会社 KUコンサルティング 代表社員
豊島区 元CISO(情報セキュリティ統括責任者)
1989年豊島区役所入庁。情報管理課、税務課、国民年金課、保育課などに勤務。2014~2015年は豊島区役所CISO(情報セキュリティ統括責任者)を務める。
2015年より総務省地域情報化アドバイザー、ICT地域マネージャー、地方公共団体情報システム機構地方支援アドバイザー、文部科学省ICT活用教育アドバイザー(企画評価委員)、2016年より独立行政法人情報処理推進機構「地方創生とIT研究会」委員。2018年豊島区役所を退職、合同会社KUコンサルティングを設立し現職。
豊島区役所在職中、庁舎移転に際して全管理職員にテレワーク用PCを配布、また庁内LANの全フロア無線化やIP電話等コミュニケーションツールを用いた情報伝達など、ワークスタイルの変革に取り組む。庁外では、自治体向け「情報セキュリティポリシーガイドライン」、教育委員会向け「学校情報セキュリティポリシーガイドライン」策定にかかわる。
自治体職員としての29年間、窓口業務や福祉業務を経験する一方、情報化施策にも継続的に取り組んでおり、情報化推進部門と利用主管部門の両方に所属した経験を活かし、ICTスキルとともにDX推進のための組織の問題にもアドバイスを行っている。一関市のほか、深谷市、飯島町など10を超える自治体のアドバイザーを務めるほか、電子自治体エバンジェリストも務める。
著書に『DXで変える・変わる 自治体の「新しい仕事の仕方」』(第一法規)がある。
<受賞歴>
2015年:総務省情報化促進貢献個人等表彰において総務大臣賞受賞
2019年:情報通信月間記念式典において関東総合通信局長表彰(個人)受賞
2022年:情報通信月間において総務大臣表彰(個人)受賞
<連絡先>kuconsul@ybb.ne.jp