【自治体通信Online 寄稿記事】
自治体DX完全ガイド~season2~#5
(電子自治体エバンジェリスト/合同会社 KUコンサルティング 代表社員/豊島区 元CISO・髙橋 邦夫)
AI・RPAの利用促進を阻む壁を突破し、「スマート自治体」の実現を推進する“逆転の発想”のアプローチとは―? 多数の自治体のアドバイザーを務める電子自治体エバンジェリストの髙橋 邦夫さん(KUコンサルティング代表社員/豊島区 元CISO)に、今さら聞けない基礎、見落とされがちなポイント、他自治体事例など自治体DXの全体像を解説してもらいます。
「業務に組み込む」のではなく…
AI・RPAを導入すると決めたのに、どこの部門からも手が上がらない―。 このような状態に悩んでいる自治体職員の方は少なくないのではないでしょうか?
どうすれば、こうしたありがちな課題を解決できるか―。私は、業務の中にAI・RPAを組み込むのではなく、「業務改善にAI・RPAを利用する」ことがポイントだと考えます。
こんなことが利用促進の障害に!?
下の図をご覧ください、これは、私が考えた「AIやRPAが使われない理由」です。
他の自治体の成功事例を見ても、トップの強い意志・意向でAI・RPAの導入を決定するケースが増えています。しかし、 いざ導入しようとしてもAI・RPAはそのままでは使えません。なぜなら、自治体ごとに業務作法が違うからです。
そうなりますと、業務作法をAI・RPAに合わせるのか、それともAI・RPAを業務プロセスに合わせてカスタマイズするのか、といった2択になります。そして、多くの自治体では、業務手順やその自治体独自のルール変更に対する抵抗感が強いことから、カスタマイズを選択しがちです。
こうなりますと、業務作法を変えずに済みますので、抵抗感なく導入できるものの、カスタマイズの費用が発生するだけではなく、保守費用が高止まりしますし、法改正があれば手直しが必要となり、運用コストは割高になります。
こうしたことがAI・RPAの普及促進の障害となっているようです。
「現在の姿」と「未来の姿」
次の資料は、国が作成した「自治体行政スマートプロジェクト*」からの抜粋です。
*自治体行政スマートプロジェクト:2019年度から、地方公共団体の基幹的な業務(住民基本台帳業務、税務業務等)について、人口規模ごとに複数団体による検討グループを組み、そのグループ内で、業務プロセスの団体間比較を実施することで、ICTを活用した業務プロセスの標準モデルを構築することを目的とした総務省の事業。情報システムやICTの共同利用の推進等が期待される。
上の「現在の姿」は、先ほど私がご説明したように、自治体ごとにルールが違っていること等により、導入に費用や手間がかかっているという問題点がまとめられています。
次の「未来の姿」では、業務の標準化や業務プロセスを合わせることにより、AI・RPAの共同導入が可能となり、「割勘効果」により導入費用も下がることが示されています。
今回のまとめ
まとめます。AI・RPAの利用を促進するためには、
- 現行の業務フローに固執している限りにおいては、ツールの活用は困難
- 業務の前後まで見据えて、その担当者も巻き込み、業務フローを見直すことがポイント
- 業務フローを見直す際に、RPAなのか、AIなのか、どのようなツールを入れれば効果があるのかを検討する
この3点に留意していただければ、より活用が進むのではないかと思います。
今後の労働力の供給制約の中、地方自治体が住民生活に不可欠な行政サービスを提供し続けるためには、企画立案業務や住民への直接的なサービス提供など、職員でなければできない業務に職員が注力できるような環境整備がポイントとなってきます。そのためにもAI・RPAが処理できる事務作業はAI・RPAが自動処理する「スマート自治体」の実現が求められています。
業務の中ではなく業務改善にAI・RPAを利用する。そのことがAI・RPAの普及を促進し、強靭な「スマート自治体」の実現を導くと思います。
(「《自治体DX推進計画における“6つの重点”~5》テレワークの推進」に続く)
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■ 髙橋 邦夫(たかはし くにお)さんのプロフィール
電子自治体エバンジェリスト
合同会社 KUコンサルティング 代表社員
豊島区 元CISO(情報セキュリティ統括責任者)
1989年豊島区役所入庁。情報管理課、税務課、国民年金課、保育課などに勤務。2014~2015年は豊島区役所CISO(情報セキュリティ統括責任者)を務める。
2015年より総務省地域情報化アドバイザー、ICT地域マネージャー、地方公共団体情報システム機構地方支援アドバイザー、文部科学省ICT活用教育アドバイザー(企画評価委員)、2016年より独立行政法人情報処理推進機構「地方創生とIT研究会」委員。2018年豊島区役所を退職、合同会社KUコンサルティングを設立し現職。
豊島区役所在職中、庁舎移転に際して全管理職員にテレワーク用PCを配布、また庁内LANの全フロア無線化やIP電話等コミュニケーションツールを用いた情報伝達など、ワークスタイルの変革に取り組む。庁外では、自治体向け「情報セキュリティポリシーガイドライン」、教育委員会向け「学校情報セキュリティポリシーガイドライン」策定にかかわる。
自治体職員としての29年間、窓口業務や福祉業務を経験する一方、情報化施策にも継続的に取り組んでおり、情報化推進部門と利用主管部門の両方に所属した経験を活かし、ICTスキルとともにDX推進のための組織の問題にもアドバイスを行っている。一関市のほか、深谷市、飯島町など10を超える自治体のアドバイザーを務めるほか、電子自治体エバンジェリストも務める。
著書に『DXで変える・変わる 自治体の「新しい仕事の仕方」』(第一法規)がある。
2015年:総務省情報化促進貢献個人等表彰において総務大臣賞受賞
2019年:情報通信月間記念式典において関東総合通信局長表彰(個人)受賞
2022年:情報通信月間において総務大臣表彰(個人)受賞