【自治体通信Online レポート】
Hot Issues~知っておきたい自治体新課題 #1
海底火山爆発(小笠原諸島・福徳岡ノ場)による沖縄県沿岸等への大量の軽石漂着、トカラ列島(鹿児島・十島村)の群発地震等、自然災害に対する緊張感が再び高まっています。豪雨災害も毎年のように発生しており、多くの自治体は災害対応への備えに余念がありません。一方で、行政からの防災情報提供のあり方に対する住民の不満・不安は完全に解消されているとは言い難い状況があるのも事実。そうしたなか、デジタル技術を防災に応用した「防災DX」が最近、脚光を集めています。ここでは防災DXが注目されるようになった背景や理由、好事例等をレポートします。
東日本大震災の教訓
自治体の災害対応のあり方は、10年前の2011年に起きた東日本大震災“以前”と“以後”に分かれるかもしれません。甚大な被害と損失をもたらしたこの大震災は、それまで気付かなかった、さまざまな防災課題を浮き彫りにしたからです。
そのひとつが、住民に対する自治体からの情報伝達のあり方。総務省が平成24(2012)年に実施した「災害時における情報通信の在り方に関する調査」では、行政の災害情報提供に不満を持つ住民が多数に上ることが明らかになりました(下の円グラフ参照)。
同調査によれば「十分だった」との回答が30%だったのに対し、「不十分だった」との回答は過半数の54%に上り、被災した多くの住民は自治体等行政の防災情報のあり方に不安や不満を感じていたことが推察されます。
また、同調査では、自治体側も「迅速・適格な情報の確実な提供」や「被害や避難・安否に関する情報の継続的な提供」の2点に大きな課題感をもっていることも明らかになりました(下の円グラフ参照)。
住民に確実かつ継続して災害情報を提供する仕組みづくりが東日本大震災後の各自治体の重要な課題になったと言い換えることができるでしょう。
アナログな手段の限界
実際、この間、国が進めるLアラート(災害情報共有システム)の全都道府県による運用が実現する等、行政による災害時における情報通信のあり方にはさまざまな進展がありました。その一方で、新たな課題も見えつつあります。
平成30(2018)年7月、西日本を中心に広域的かつ同時多発的に土砂災害が発生した豪雨被害。高知県では大豊町で大規模な斜面崩壊が発生しました。この災害を受け、高知県が県内の市町村を対象に実施した調査では、確実に災害情報を伝達するうえで「(Lアラートを通じたテレビ画面上部へのテロップ、緊急速報メール、戸別受信機、登録制メール配信など)複数の情報手段を用いたこと効果的だった」とする一方で、「雨・風の大きな音等で、防災行政無線の屋外スピーカーによる避難勧告等の発令がうまく伝わらなかった」とする回答が多くの自治体から寄せられました。
防災行政無線の屋外スピーカーというアナログな方法には限界がある一方で、Lアラートやメール等のデジタルな情報伝達チャネルを複数整備することが必要であることが、あらためて浮き彫りになったと言えるでしょう。
平常時と災害時の「連続性」が重要
東日本大震災以前と以後では、住民の側の情報収集手段にも大きな変化がありました。 スマホを通じた被災地内外の情報共有です。
テレビ・ラジオ等のマスメディアを通じた災害情報提供だけではなく、スマホでさまざまな情報を収集する生活スタイルが住民の間に定着していることは、行政の災害情報提供のあり方を考えるうえで、無視できなくなっています。
そのため、災害情報の提供には「平常時と災害時の『連続性』も重要な要件」だと指摘されています(名古屋大学 減災連携研究センター「平常時と災害時の両面で活用できる地域災害情報収集・共有システムの開発と適用」より)。
平時においてはスマホ等で使える便利な情報収集ツールであり、災害時には住民に情報を届ける―。こうした取り組みが自治体の新たな課題となっている、と言えそうです。
「しずみちinfo」が注目される理由
そのモデルケースのひとつとされるのが、静岡市(静岡)が提供している「静岡市道路通行規制情報 しずみちinfo(以下、しずみちinfo)」です。
これは通行規制データのリアルタイムオープンデータ化の取り組みで、日常は工事などの道路情報を、災害時や異常気象時には道路の災害情報をあつかうクラウド型の地理情報システム(GIS)です(下画像参照)。
しずみちinfoの道路情報は公開サイトのほかAPI(Application Programming Interfaceの略。ソフトウェアやプログラム、Webサービスの間をつなぐインターフェースのこと)によりオープンデータ提供しており、多くの人がウェブサイやウェブアプリなどで利用でき、運転者に直接情報を届けることができます。
災害発生時に特化したLアラート等と、しずみちinfoのような暮らしに密着した「普段使いができる災害情報システム」を併用することで、住民への確実かつ継続的な災害情報提供の実効性が一層高まります。
また、ネットのフェイクニュース(偽情報)が新しい社会問題になっています。災害時にはフェイクニュースがネット等に大量に出回りやすく、人々のパニックを誘発するリスク要因になるとされます。ネット時代、スマホ時代だからこそ予見される新たな問題と向き合い、いかに正確な災害情報、防災情報を確実かつ継続して住民に届けるか―。これも自治体が防災DXに取り組むべき理由と言えそうです。
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