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【税金について住民と対話してますか?】国民が税を納めることの意味

    【税金について住民と対話してますか?】国民が税を納めることの意味

    【自治体通信Online 寄稿記事】
    我らはまちのエバンジェリスト #5(福岡市 職員・今村 寛)

    2度目のコロナ給付金の給付方法について激しい議論があったのは記憶に新しいところ。ほかにも休業補償等、新型コロナウイルス感染症の拡大余波で住民と自治体が“お金の話”をする機会がすっかり増えたと思います。しかし、支払うほうではなく、支払ってもらうことについての住民理解は、どうでしょう? 今回は納税について。税をめぐる住民との“本質的な対話”が避けて通れない時代になりつつあります。

    なぜ増税を語らない?

    総選挙が終わり、コロナで傷んだ経済の再生や国民への給付を柱とした過去最大の補正予算が成立しました。

    18歳以下への10万円給付をはじめ、耳障りの良い政策の財源についてはプライマリーバランスを一時凍結し、赤字国債で将来にツケを回すことになりました。

    本来国家財政は、国民みんなで納めた税を配分して各分野の行政施策を推進する仕組みなのですから、収入が増えないのにどこかで施策が充実し国民へのサービスや給付が増えればその分どこかが削られるわけで、その痛みを避けて借金で問題を先送りしてもいずれ誰かがそのツケを払わなければいけない。

    それなのに施策充実を唱える際にその財源の手当てを語ろうとしないのは、私たち国民が「増税」に対して大きな負のアレルギーを持っているからでしょう。

    「増税」は政治家にとって最大のタブー。

    必要性は感じつつもそのことを唱えて政治生命を絶たれてはたまらないと多くの政治家が口をつぐみ、国民に問いかけることなど恐ろしくてできやしないというのが実情です。

    では私たち国民はなぜそんなに「増税」がイヤなのでしょうか。

    今の生活がギリギリで、これ以上1円だって負担できないという経済的理由で増税が嫌だと言う人はそう多くはいないはず。

    納められた税が自分の思う通りに正しく使われていないという不信、不満から納税に非協力的という方もいるかもしれませんが、曲がりなりにも民主主義の仕組みの中で意思決定され実行されている政策、施策について承服できないから納税したくないという方は多数派ではないでしょう。

    多分ほとんどの人が、今仕方なく税を払っているけれど、払わなくていいものなら払いたくないし、負担は少ないほうがいいという虫のいい考えで納税そのものを忌避したいと考えているのではないでしょうか。

    そんな納税そのものを忌避したいと考える国民に対して、私たち公務員は、国民が納税することの意味をきちんと伝えるために、国民が納税の義務を課せられていることの意味を正しく理解することができているでしょうか。

    納税の義務」の意味するもの

    確かに税は双務契約に基づくものではないので、対価性がありません。

    物を買ってお金を払うように、税を払ったらサービスを受けることができるというものではなく、税を払うことで得られる地位も、払わないことで失う権利もないので、一方的に収奪されている印象なのが良くないのかもしれません。

    しかし、納税は憲法が定める国民の義務。なぜそのことが義務として定められているのか、私たちは納税によって具体的には誰に対してどんな責任を果たしているのかを考えてみましょう。

    税は誰に対しても等しく課せられるわけではありません。

    租税負担を納税者の「担税力」に即して公平に配分し、納税者を平等に取り扱わなければならないという「租税公平主義」、皆さんご存知でしょうか。

    「担税力」というのはあまり聞かない言葉ですが、税を負担する力、支払い能力のことを指し、個人や法人など租税を負担する者が不当な苦痛を感じることなく、社会的に是認できる範囲内で租税を支払える能力を意味します。

    そしてこの租税負担の公平性は、水平的公平と垂直的公平に分類されます。

    水平的公平は、同じ所得水準にあり、同じ租税能力のある者については、同じ税額が徴収されるのが公平であるという考えで、これは課税の納得性を高める原則です。

    一方、垂直的公平は、能力の高い者ほど税の負担能力も高く、より納税額が大きいのが公平であるという考え方で、これは納税によって支える社会コストを納税者で均等に負担すれば、結果的に経済的弱者への負担が高まり、税負担の公平感が損なわれるということを避けるものであり、所得税の累進性の根拠ともなっています。

    税を負担する能力が高い者により高い税率がかけられる累進課税がなぜ「公平」「平等」と呼ばれるのか首をかしげたくなりますが、実はこの担税力に基づく垂直的公平の実現こそが、私たち国民に納税の義務が課せられている真の理由なのです。

    払える者が払う租税公平主義

    税はもともと、一定のエリアの村やまち、クニの整備や維持、防衛や消防、警察などの行政運営に係る経費を住民みんなで等しく出し合う、町内会費のようなものでした。

    しかし、近代社会の形成により国民の間に貧富の差が生まれ、その格差是正のために社会保障の仕組みが行政サービスとして組み込まれるようになり、その財源として税を徴収するにあたり「富の再分配」という考え方が用いられるようになりました。

    富める者の冨に多く課税することによって、貧しき者に配る財源を確保する「富の再分配」がなぜ近代になって課税理論として一般化し、それが租税公平主義として確立したのかんついては基本的人権の尊重という概念と切り離せません。

    人はそれぞれ能力に違いがあり、あるいは年齢や健康状態、社会的な身分、立場などによって一定の経済格差が生じることは必定ですが、そのそれぞれの基本的人権が尊重され、人間らしい生活を送ること、安心して生きることができる世の中であるために、力の大きい者が力の小さい者を見返りなく支え助ける「相互扶助」を第一と考え、個人の経済利益を追求する私権を制限してでも「相互扶助」の責任を果たさせるために国民に納税という義務を課している。

    社会保障は給付によって行われると考えるのが一般的ですが、その裏で行われている財源確保としての課税徴収においても、租税公平主義に基づく富の再分配によって相互扶助、弱者救済の社会保障の仕組みが機能しているのです。

    納税は個々の担税力に応じた社会的責任を果たすことで経済弱者の税負担をカバーし社会保障の財源を確保する相互扶助義務の履行。

    同じ社会の一員として共同生活を行うなかで、お互いに困ったときは自分の持っている能力の範囲で助け合う義務を負い、その義務を履行するためにそれぞれの能力に応じて税を納めているのです。

    このことを理解したうえでなお、もし今、護られるべき弱者がいるとしたならば、その護るべき者を支える財源確保のために、私たち国民は今のように納税を忌避し、社会保障財源確保のための増税を嫌がっていいのでしょうか。

    借金のツケを将来の世代に回すことが身勝手で自分本位な行為であるという主張は耳にしますが、比較的担税力があるにもかかわらず、自分が受けられる給付には敏感に反応しつつもその財源となる納税を忌避し増税に反対することもまた身勝手で自分本位であろうと思います。

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    税の話になると“対立”が起きがちなのはなぜ?

    税金泥棒と言われないために

    このように、納税は個々の担税力に応じた相互扶助の責任を果たすという意義がありますが、それを自らの行動で実現するのではなく、国民に個人の私権を制限してまで義務として履行させる仕組みである以上は、そこで行われる富の再分配が平等、公平で妥当なものになっていることが必要ですし、その徴収や分配の権限、責任を託される行政組織が国民から信頼感を持たれ、その内容を国民に対して説明する責任について政治家や官僚組織、私も含めた公務員たちが自覚しなければなりません。

    そのためには行政組織と国民、市民の関係性においてはもちろん、公務員である私たち自身と国民、市民との関係性においても「対話」による情報共有とそこから導かれる相互理解が求められるのだと思います。

    私たち公務員は時折「税金泥棒」とまで言われるような不信感や不満を抱かれることがありますが、それは税を払うという局面で初めて出てくる感情ではなく、普段から行政に対する不信や不満を募らせているから、その感情の底流には役所の組織運営や施策事業の遂行のどこかに問題があるから、という視点に立つことも必要です。

    納税は国民の義務という言葉をただ振りかざして、公務員の立場から正論で国民、市民を説得するのではなく、納税の意味を国民、市民自身がどう受け止め、どう理解しているか、その事務を司る役所や公務員がどう見られているか、ということについて相手の立場に立って考えてみることも、国民、市民との相互理解を図るうえでなくてはならない「対話」のプロセス。

    数多の政策を公約と掲げながらその財源の国民負担について言及しない各政党も、社会保障費増大に対応する安定財源確保が至上命題でありながら増税を言い出せない霞が関も、そのことを切り出すための国民との「対話」が十分にできているという自信がないのかもしれませんね。

    (「【自治体職員は変われるのか?】『公務員は保守的』だからこそ大きな変革パワーをもっている」に続く)

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    今村 寛(いまむら ひろし)さんのプロフィール

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    福岡市 教育委員会 総務部長
    1991年福岡市役所入庁。2012年より福岡市職員有志による『「明日晴れるかな」福岡市のこれからを考えるオフサイトミーティング』を主宰し、約9年間で200回以上開催。職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。
    また、2012年から4年間務めた財政調整課長の経験を元に、地方自治体の財政運営について自治体職員や市民向けに語る「出張財政出前講座」を出講。「ビルド&スクラップ型財政の伝道師」として全国を飛び回る。
    好きなものは妻とハワイと美味しいもの。2021年より現職。
    著書に『自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと?』(ぎょうせい)、『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』(公職研)がある。財政担当者としての経験をもとに役所や公務員について情報発信するnote「自治体財政よもやま話」を更新中。

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